大谷翔平のことを語れば語るほど言葉の無力を感じてしまう。

「天才」「ヒーロー」「奇跡」「伝説」――。

 どんな表現も現実の大谷にはぴたっとしない。それらしい言葉を着せてもあっさりとスーツがビリビリに破られる感じだ。既製服が合わない男。

 しかしスポーツ新聞はそれでも伝えなければならない。果敢に大谷に挑んだ。大谷翔平が投げ、パ・リーグ優勝が決まった翌日の一面見出し。

 サンスポは「伝説V投! MVP大谷」(9月29日)

 これに対し、日刊スポーツは「大谷V」。

 どんな言葉も大谷には追いつかないと考えるなら、日刊スポーツの見出しは潔かった。

 スポーツ報知は「完全無欠の大逆転 大谷 漫画でもありえない二刀流ストーリー」。

 打って投げてチームを優勝に導いた22歳。たしかに漫画だったら出来過ぎてありえない。ところが今回、現実の世界のほうで起きた。

伝説のベーブ・ルースと比較しても大谷が凄すぎる!?

 そういえばアメリカで「9・11」が起きた時、その光景を伝えるため「まるで映画のワンシーンのような」という表現や感想を当時よく目にした。とてつもない現実のほうが圧倒していて、喩えることが無駄であることをわからせる意味では秀逸な表現だった。あのとき「何にも喩えられないほどの出来事」を痛感したのである。今回の「大谷=漫画ではありえない」は、現実のほうのすごさをあらためて感じた。

 では言葉ではなく、数字やデータで大谷翔平を表現すればその凄さがわかるのか? 実はそれも微妙なのだ。

「ルースでも未踏 10勝10発100安打」(日刊スポーツ・9月29日)

 ルースというのはベーブ・ルースである。凄すぎてピンとこない。

 では次はどうだ。「勝利、本塁打、打点の3部門でチーム占有率10%以上を超えている」(日刊スポーツ・同)という大谷。この占有率は「二刀流選手の多かった1リーグ時代には'46年藤村富(阪神)や'41年野口(大洋)らが記録しているものの、優勝チームでは'37年秋の景浦(タイガース)と大谷の2人だけだ」(日刊スポーツ・同)

スポニチの見出しで、オヤジジャーナル万歳!

 藤村とか景浦とか、ここでも歴史上の人物たちが出てきてやっぱりピンとこない。詳細なデータ記事は十八番の日刊スポーツだけど、大谷翔平をデータ化すればするほどファンタジックな記事になるのである。

 こういうとき、「日ハムの奇跡」に焦点を合わせたほうがスポーツ新聞は「らしさ」を発揮する。

 唸ったのはスポーツニッポン(9月29日)。「11.5差から大逆転」と前フリをしておいて、

「ドリームズ・ハム・トゥルー」

 あー、たまらん。これです、これ、私がスポーツ新聞を読むのが楽しみなのは! オヤジジャーナル万歳! これが「日ハム優勝見出し」の優勝でした。

 ほかに各紙で見られたのが次の見出し。北海道を舞台にしたあのドラマにひっかけたフレーズだ。

「北の国から2016伝説完結」(スポニチ)
「北の国から2016 〜伝説」(サンスポ)
「北の国から2016伝説だね」(日刊スポーツ)

 どこもネタがかぶりすぎだと思ったら、このフレーズは栗山監督が発信源でした。情緒的でベタな物語性はスポーツ新聞の潤滑油である。超アスリートの大谷の表現のむずかしさに比べてなんか安心した。

鈴木誠也は広島のスカウト力の象徴。

 日ハムの大逆転優勝に対し、シーズンを通してぶっちぎって9月10日に早々と優勝を決めたのはセ・リーグの広島カープ。

「鯉党はこの瞬間を25年待っていた 広島V」(サンスポ・9月11日)

 カープの強さについては優勝決定前から各紙さまざまな記事を載せていた。苑田スカウト統括部長のインタビュー(日刊スポーツ・9月8日)では、「常に注視するのは『打者はチャンスで打てない時の態度、投手はピンチで打たれた時の態度』」という言葉が際立った。

 そういえば今季大ブレイクした鈴木誠也を「チャンスで凡退してベンチに戻るときの鈴木誠也の顔は本当に怖い」と評するコメントを各所で読んだ。鈴木誠也は広島カープのスカウト力の象徴なのかもしれない。

カープを題材に、学校の授業を行なう広島県。

 独特な切り口で面白かったカープネタはこれ。

「広島市内の小中学校には『カープ』の授業がある」(日刊スポーツ・9月5日)

 広島の小学校では「広島型カリキュラム」というのがあり、「言語・数理運用科」という独自の授業があるそう(2010年以降)。この授業は、さまざまなデータを読み取り、思考し、表現する能力を養うことを目的におこなわれる。

 実はカープのデータは教材にもってこいなのだ。なぜなら過去の「成績」と「観客動員数」のグラフを並べると、成績はBクラスが多いのに、観客動員は右肩上がり。これはなぜ? という。

 つまり、成績が悪くても地元のファンは熱心に応援してきたという「読み取り」ができるのだ。うーん、すごい教材だカープ!

 しかし今年はペナントレース圧勝により「ファンの応援も熱心で、チームも強い」という完璧なグラフになってしまう。来年は別のデータが必要かもしれない。

 たとえば「選手の総年俸と成績の関係」はどうだろう。決して総年俸は高くないのになぜ強いのか? という。ここから「練習量の多さ」、「コーチ陣の創意工夫」、「ドラフトのうまさ」などさまざまな答えが浮かぶだろう。

球団創設5年目にして数々の成果を得たDeNA。

 この広島カープに似た「成績」と「観客動員数」のグラフの動きを持っているのが横浜DeNAベイスターズである。

 40歳の池田純球団社長のインタビューを読むと(スポーツ報知・9月20日)、5年前の球団創設時から「横浜に受け入れられること。それがないと、プロ野球のビジネスは成立しない」と徹底していたことがわかる。

 一例として「球団運営では、無料で子供たち74万人に球団帽を無料配布、本拠地・横浜スタジアムの株式公開買い付け(TOB)、球団オリジナルビールの開発など、新しい挑戦を常に続けた」

 この結果、5年目で黒字化が実現し、球団と球場の一体経営も実現した。残るはチームの成績だったが、球団初のCS進出を今年決めた。このフロントがある限り横浜の未来は明るいと確信する。

プロ野球の総合満足度で1位と2位は、あのチーム。

 ちなみにプロ野球の球団の地殻変動については、週刊誌にも面白い記事があった。

「場外でも接戦! 日ハムvs.ソフトバンクの“もうひとつの首位争い”」(週刊朝日9月23日号)である。プロ野球の「顧客満足度」の調査について紹介していた。

 慶應大の鈴木秀男教授が2009年から8年間、ファンにアンケートを続け、毎年1月に「プロ野球のサービスの満足度」の調査結果を公表している。ビジネスの視点からプロ野球の分析を試みている。

 今年1月の「総合満足度ランキング」は、1位がソフトバンクで2位が日本ハム。奇しくもペナントを争った2チーム。来年は広島や横浜も順位をあげてくるだろう。巨人、阪神、中日など老舗球団が下位にいるのはたまたまそういう時期なのか、それとも時代に遅れているのか、こちらも考えてしまうランキングだった。

 ということで10月はいよいよクライマックスシリーズ。広島と日ハムは無事に日本シリーズに進出できるのか、それとも……。

 楽しみがとまらない、9月のスポーツ新聞時評でした。

文=プチ鹿島

photograph by Takuya Sugiyama