柔よく剛を制す。

 大島僚太が好きな言葉である。中学、高校時代に「プロでやっていくためには、これしかない」と胸に刻んだ原材料。

 身長168cmと小柄な体を活かして攻撃ではスルスルと相手をくぐり抜け、守備では相手のボールをかすめ取る。淡々と、飄々とやってのける。

 真摯に取り組んできたこだわりの「柔」が、成長のサイクルを加速させてきた。

 年間順位で首位を走る川崎フロンターレでチームの中核を担い、8月のリオ五輪ではグループリーグ突破はできなかったものの、全7得点中3つのアシストをマークするなど株をさらに上げた。ヴァイッド・ハリルホジッチが先のUAE戦でいきなり先発起用に踏み切ったのも、それに値するだけの信頼があったからにほかならない。A代表デビュー戦が、重圧のしかかる最終予選の初戦。結果的に2失点に絡み、敗れた悔しさとほろ苦さが残ったとはいえ、堂々とタクトをふるおうとした姿にはむしろ希望と期待を感じさせた。

 10月の対イラク、対オーストラリア2連戦でもハリルジャパンに選出された国内で最も“旬な男”の今に迫る――。

川崎でやっているようなプレーをなくすのは良くない。

――UAE戦は、これまでフロンターレでやっている自分のプレーを出していこうという感覚だったのでしょうか。

「狭いところでも入っていくフロンターレでやっているようなプレーをなくすのは自分でも良くないとは思っていましたし、自分がやれる限られたことを全力でという考えでした。そこを監督に評価されて選んでもらったと思うので。ただ、自分の色を出しつつも、代表のやり方で合わせなきゃいけない部分もあります。そこを一発目の試合でうまくやれていなかったという悔しさはあります」

――酒井宏樹選手へのパスを奪われたことがきっかけで直接FKを与えて、失点につながってしまいました。しかしその後、消極的なプレーなどなかったように見えましたが。

「失点してから、ボールを蹴るのにちょっと足がつかないなっていう感覚にはなりましたけど、心臓がバクバクするとかそういうことは一切なかったですね。ハセ(長谷部誠)さんに自由にやっていいよと言われていたので、どんどん前に行かせてもらいました」

両足を使える憲剛さん、真司くんから吸収しなきゃ。

――緊張はしなかった、と?

「そこまでの緊張はなかったですね。(フロンターレや五輪代表の)試合に出ているというのもあるし、練習からチームのみんなにプラスの声を掛けてもらったのも大きかったと思います。重圧というより、代表戦のあの雰囲気でテンションが高ぶっていたところもあります」

――A代表の練習からはどんな刺激を受けたのでしょうか?

「フロンターレではたとえば(中村)憲剛さん、(大久保)嘉人さん、(小林)悠さんを目標にしつつ、練習で見ながら自分にどう活かせるかなって考えてやっています。そういう目線に立つと(香川)真司くんはやっぱり右足も左足も両方、ここまでうまく使えているんだなって。あっ、こういう局面ではわざと左足を使うんだとか、一緒に練習をやることで気づかされたこともありましたから。チームには両足をうまく使える憲剛さんがいるわけだし、もっともっと吸収しなきゃとは感じましたね」

UAE戦の映像で気づいた“頼ってしまっていた”部分。

――タイ戦もケガがなければベンチ入りしていた可能性が高かったと聞きました。

「前日の練習で足を捻挫して、当日の朝かなり痛くなってしまって。お昼の時点で散歩にも行けなかったので、メンバーから外れました。試合は、自分が出たらどうするかって考えながらスタンドから見ていました」

――帰国してからUAE戦の映像をチェックすることはありました?

「90分通して映像は見ました。この場面はサポートに行ったほうが良かったのかなとか、(全体的に)もっとグラウンドを広く使うことが必要だったのかなとか。グラウンドを広く使うのは、チームではいつも憲剛さんがやってくれていること。ここはチームで頼ってしまっている部分だし、(身につけることは)自分でも必要だなと思います」

狭いエリアでの練習で、体の使い方を磨いた。

――機を見てどんどん前に出ていく積極的なプレーが大島選手の特長だと言えます。リオ五輪でもそうやってチームの得点に絡んでいきました。初戦のナイジェリア戦、前半8分に南野拓実選手がPKを取った場面。パスカットして興梠慎三選手からリターンを受けて一度ボールを失いながらも、また相手から取り返してドリブルから南野選手へのパスにつなげています。あのシーンは今の大島選手を語るに、象徴的なシーンかなと思うのですが。

「慎三さんからのボールを失って、ちょっとミスったなと思ったんです。でもそこでうまく取り返すことができましたね」

――奪い返すのも、奪い返してからも速かった。

「やっぱりフロンターレは狭いエリアのなかでやっている練習が多いし、体の使い方を試せる場でもあるんです。だからチームでやってきていることを試合で出せているのかなとは感じます」

80%の力で守備に来たら、20%の力でかわせばいい。

――今年は相手と体をぶつけ合う場面でもサッとかわして前に出ていってチャンスをつくることが多いですよね。

「風間(八宏)監督からは『相手が80%の力で守備に来たら、こっちは20%の力でかわせばいい』と言われてきました。調子がいいときは、その感覚になります。相手が80%ぐらいでボールを奪いに来ても『やばい』みたいな感じは全然ないです。当たってくるだろうなって分かっておくことが大事なのかな、と。分かっていれば力を抜くとか、逆にここは耐えたほうがいいとか使い分けができると思うので」

――五輪のスウェーデン戦も味方のスローインから狭いところをくぐりぬけていって、矢島慎也選手の決勝点をアシストしています。

「あのときは(横にいた)慎三さんに当てようと思ったら、相手が消しにきたんです。そこで逆に(スペースが)空いたと思ってドリブルしようと思って持ち出したら、相手がかぶっていて味方が見えなかった。そこでもう1回ボールを出すと、慎也が見えたんで『助かったなあ』って思いました(笑)」

目標を立てておけば、結果的につながっていく。

――味方と相手を一瞬で把握できる状況判断や目のスピードというのも風間監督が強調しているところ。フロンターレでの積み重ねが、今の自分をつくりだしているのだ、と。

「今年、僕は『代表に入る。試合に出る』という目標を立てました。でもそのために何をするかまでは書いてないんです。何かほかにやることを意識して、元を怠ったらダメだと僕は思っているので。だからまず日々の練習を120%でやり切ること。それでもまだ余力があるなら走ることとか筋トレとかプラスアルファをやれればいいという感じなんです。目標を立てておけば、結果的につながっていくんじゃないかなという思いでした。中学、高校のときの教えで僕のなかで『やった』とか『やり切った』とか日々、達成感というものはないんです。ずっと淡々とやっていくっていう感じなんですかね。でもそれが自分にとっては普通のことなんです」

憲剛さん、嘉人さん、悠さんのような存在になる。

 リオ五輪で活躍しようとも、A代表に入ろうとも、大島は立ち止まることなく、歩みを進めようとしている。それも成長のスピードを上げて。

「フロンターレの残り試合、すべて勝つために自分が活躍したいという思いは強いです。勝たせることができるような存在になりたい。憲剛さん、嘉人さん、悠さんたちに僕がそういう存在になって加われば、相手にとってもっと嫌なチームになるのかなと思うので」

 フロンターレの日常を大切にし、風間の教えを胸に中村憲剛や大久保、小林たちの背中を見つめながら自分を高めようとする。攻撃も守備も、ドリブルもパスもシュートも「全部セットで上げていきたいんです」と意気込む。

 プレーと判断力は「柔」だが、彼の意志は「剛」。

 剛よく柔を断つ、とも言う。

 柔の強みも、剛の強みも大島僚太にはある。

文=二宮寿朗

photograph by Kiichi Matsumoto