大宮アルディージャはJ1復帰1年目ながら、クラブの歴代最高勝ち点を更新し、10月1日の鹿島アントラーズ戦では今季の目標だった勝ち点48を突破した。勝ち点50の大台に乗せ、まだ来季のACL出場権獲得の可能性も残している。そんな彼らの姿を記者席から見ていて、ある仮説を思いついたので、プレゼンさせていただきます。

『大宮アルディージャ、アトレティコ・マドリーに似ている説』

 比較対象は世界有数のビッグクラブだから、もちろん異論・反論はあるでしょう。ただ、この2クラブの戦術、個々の選手のプレースタイルや役割分担には共通している点が多い。

人垣ではなく、奪い取るためのブロック。

 チームの基本コンセプトは、堅守速攻。全体の陣形をコンパクトに保ち続け、中盤と最終ラインで守備ブロックを組み、まずは失点しないことを最優先とする。

 これだけ聞けば、消極的な戦い方のイメージを抱かれがちだが、大宮とアトレティコの守備は決して受け身じゃない。Jリーグで下位に沈むチームにありがちな、単に人垣を築いてゴール前を固める“なんちゃってブロック”ではなく、相手選手とボールがブロック内に侵入してくれば、強く・速く・激しく、体を寄せて奪い取ることを狙う。

 当然、自分の持ち場を離れて相手選手に食らいつくことが増えるため、スペースを与えるリスクはあるが、それを防ぐために選手全員にカバーリングの意識が徹底されている。鹿島戦後、空中戦と対人守備の強さで最終ラインを統率する“大宮のゴディン”こと菊地光将は、こう語った。

「今日は僕らセンターバックがサイドに釣り出される場面もあったけど、ボランチが連動してカバーしてくれた。だからこそ、ゴール前にスペースを与えなかったと思う」

 センターバックがサイドに食いつけば、すぐさまボランチが下がる。ボランチが外に出れば、逆サイドのボランチが絞る。このオートマティズムが徹底されているからこそ、彼らのブロックは堅い。

 ただし、大宮の守りはブロックを組んで相手を待ち受けるだけじゃない。

家長とムルジャが高い位置でプレスを担当。

「しっかりブロックを組むところは、組む。だけど、行けるところでは前からプレッシャーをかけようと。今日はアキ(家長昭博)とムルジャが前からプレッシャーをかけてくれたことで、ズルズル引くことがなかった」

 こう語るのは、オブラクのごとく至近距離からのシュートに素早く反応し、最後尾からチームを支えたGK塩田仁史だ。彼が言うように、特に前半の大宮は、鹿島のビルドアップの体勢が十分でないと見るや、家長とムルジャが相手センターバックを執拗に追い回し、高い位置でボールを奪うことに成功した。相手と試合の状況を見極めて、前線からのプレッシングとリトリート(後方に下がって守る守備)を的確に使い分ける。これもアトレティコとの共通点だろう。

家長から始まる速攻の仕組みもアトレティコ仕様。

 果敢に「前へ出る」姿勢は、なにも守備面に限ったことではない。ボールを奪えば、勇気を持って相手ゴールへ走り出す。その速攻の仕組みもまた、アトレティコに似ている。

 まずマイボールになった瞬間、“大宮のグリエスマン”家長がスペースに動き出し、パスを引き出す。彼が技術と体の強さを活かしてボールをキープする間に“大宮のサウール”江坂任と、“大宮のカラスコ”泉澤仁がサポートに走り、厚みをもたらす。

 さらに、相手ゴール前へ飛び込むのは2トップとMFの選手だけじゃない。

「(渋谷洋樹)監督からも『ゴール前にどんどん入って行け』と言われていますから。(先制点の場面では)ゴール前の中央のエリアにボールが入った時点で、こぼれ球への準備はできていた」

 開始13分、待望の先制ゴールを決めたのは“大宮のフアンフラン”こと右サイドバックの奥井諒だった。大山啓輔のシュートをぴたりとトラップし、そのまま右足でゴールネットを揺らした。彼はチャンスと見るや、一気にピッチを駆け上がり、クロスを供給するだけでなくゴール前にも進入する。指揮官もそれを推奨している。

カウンターに人数をかけ、守備も崩れない。

 普通、サイドバックの選手がこれだけ大胆に攻撃参加すれば、彼が空けたスペースをカウンターで突かれる場面も増えそうだが、鹿島戦で彼の右サイドを破られるシーンはほとんどなかった。

「僕が攻め上がってボールを失ったら、相手のサイドハーフよりも攻守の切り替えを早くすること。これはすごく意識していました」

 奥井だけでなく、チーム全員に攻守の切り替えの意識が徹底されているからこそ、人数をかけたカウンターを繰り出すことができ、それでいて守備のバランスが崩れない。

 41分には“大宮のコケ”こと横谷繁が速攻から得たFKを直接沈め、59分には同じくカウンターから強烈なミドルシュートを突き刺した。数自体は多くないカウンターのチャンスをフィニッシュに結びつけ、セットプレーを効果的にゴールにつなげる点も、大宮がアトレティコチックな部分である。

最後の一押しは、渋谷監督の黒シャツ&黒ネクタイ!?

 しかし、この3点目以降の戦いぶりは、まだまだ本家アトレティコには程遠かった。前線からの圧力を強めた鹿島に対して腰が引けてしまい、運動量を必要とする戦術を採用している分、終盤は自慢の足も止まった。どうにか3−1で逃げ切ったものの、改善の余地はまだまだあるし、それが彼らの伸びしろでもある。試合後の渋谷監督も、決して現状に満足していなかった。

「3−0にした後の失点が課題。ああなると、3−2、3−3にされるイメージも出てしまう。しっかりボールもつなげなくなった。勝ち点48という今季の目標を、ベンチ外の選手も含めた選手全員の力で、勝利で達成できたことは嬉しく思うが、勝ち点50を取ったからと言って、チャンピオンシップに出られるわけじゃない。ここで喜んでいる場合じゃない。この先、常勝軍団と呼ばれるようになって、勝ち点50を取るのが基準となるように、もっともっと上を目指していかないといけない」

 大宮がさらにスケールアップして、アトレティコのような「常勝軍団」となるために、最後に1つアイディアを。

 いつも謙虚で紳士的な渋谷監督が、“大宮のシメオネ”として黒シャツ&黒ネクタイを着込み、ここぞの場面では大きなアクションで大宮サポーターを煽るというのは、いかがでしょう?

文=松本宣昭

photograph by J.LEAGUE PHOTOS