新たなところに踏み出した。そんな印象だ。

 横浜DeNAベイスターズの主砲・筒香嘉智のレギュラーシーズンが終わった。その数字が凄まじい。打率.322 44本塁打 110打点、打撃2部門で頂点に立った。

 もっとも筒香本人には、「ここがゴールじゃない」と言われてしまうだろう。彼にはもっと壮大な夢があり、ここは未来へ進むための過程の1つに過ぎない。

 自身の成長曲線について、本人は「目指してきたバッティングができるようになったので、それを続けていけば、簡単には崩れないというのが自分の中にはあります」と話している。取り組んでいる練習に確固たるベースがあることが窺える。

 あまり知られていないが、そんな筒香を陰で支えている人たちがいる。プロジェクトチームと言った方がいいかもしれない。

「アリーバ アスリート サポート」

 プロスペクト社が手掛ける、プロアスリートのマネジメント事業だ。今のスポーツ界にはアスリートをサポートする数多のマネジメント会社が存在するが、プロスペクト社のマネジメント「アリーバ アスリート サポート」は一般的なそれとは一線を画す。

 オフのメディア出演や金銭の管理などにはあまり関与せず、アスリートにとって成長のアシストになる機会を提供するのを得意としている。

最終的には世界に通用するバッターになる、という夢。

 筒香のケースでいえば、昨オフ、ドミニカのウインターリーグに参加したのは彼らの支援によるものだ。

「彼(筒香)は最終的には世界に通用するバッターになりたいと思っています。スキルも含めてのことですが、ドミニカに行くことで彼の将来への大きなモチベーションになるんじゃないかなと。今すぐではなく、数年後の彼のためになるだろうということで、球団の了承、理解も得て実現しました。選手や指導者のアプローチが違う環境でプレーして、新たに学べたことがあったと感じています」

 そう振り返るのはプロスペクト社の代表・瀬野竜之介氏だ。筒香への支援はドミニカのウインターリーグ参加が初めてではなく、遡れば筒香がプロ2年目を終えたオフから始まっている。

日本の野球界を知るにつれ、危機感を抱く。

 瀬野が経営するプロスペクト社は野球用品も幅広く取り扱っており、野球界とのつながりが深い。本人も野球経験があり、大学を卒業後に自身の父親が立ち上げた中学硬式クラブチーム「堺ビッグボーイズ」で監督・代表を務めたこともある。

 その後、日本の野球界の在り方を知るうちに、まだやるべきことがあるのではないかと考えるようになっていた。

 アマチュアの指導者に向けた講演会を開催するなど、若い世代の野球選手の成長も1つの大きな柱だった。

 瀬野は言う。

「いい素質を持っているのに、潜在的に持っている能力を発揮できていなかったり、どういう風に力を伸ばせばいいか分からない選手が多いと感じていました。特に今の日本は幼少期から野球に没頭しすぎていて、野球以外のことを知る機会が少なく、社会性を培う機会があまりありません。

 選手も1人の人間だという観点にたち、そんな選手たちの成長をサポートしたい。私たちがやろうとしているのは、アスリートの成長を後押しするマネジメントです。筒香に関しても、僕が代表を務めている中学の硬式野球チーム(堺ビッグボーイズ)の出身というのもあって、彼の成長の後押しがしたいと思ってやってきました」

筒香のターニングポイントになったLAでの体験。

 とはいえ、プロ球団にはすでに指導者がいて、そことは独立して成長を目指すわけだから、反発を招きかねないという危惧もあった。彼らの事業が表舞台で目立ってこなかったのは、筒香に悪い影響を与えないためでもあった。

 その取り組みの初期に実現したのが、ロサンゼルスにある施設「アスリーツ・パフォーマンス・インスティテュート(現EXOS)」でのトレーニングだ。この経験が筒香に変革を起こした。

 瀬野が回想する。

「今筒香の体を見ると、メジャーリーガーみたいになっているでしょ。当時はそうでもなかったんです。でも世界で通用するようなバッターという以前に、まずは日本で成功しないといけない。そのためにも身体づくりが必要でした」

球団の指導と衝突する危険もあったが……。

 ロサンゼルスで体験したトレーニングは、筒香が日本でやってきたこととは次元が違っていた。

 日本式のトレーニング方法に反発しているように見られるリスクもあったが、それでも筒香は信じてやり続けた。当時の状況を、本人はこう話していた。

「これをやっておけば、絶対に身に付くなというものでしたね。どういう風に、と聞かれると説明が難しいんですけど、体に一本の軸ができるというんですかね。3〜5年後に力になるだろうと感じました」

 計算すれば、その3〜5年後というのは、筒香がブレークした2014年から今年までの期間にあたる。

 筒香の身体に一本の軸が通り、スイングも年を追うごとに隙がなくなった。「逆方向への打球」という言葉を筒香は近年口にするようになったが、そのバッティングは、体作りと並行して作り上げてきたものだった。筒香はその狙いをこう語る。

「世界を見たら、どこをみても一流のバッターは逆方向を意識しています。試合で打つためには当たり前のことなんですけど、その習慣が日本にはあまりないですよね。引っ張ってばかりのバッティングをしていたら、打てなくなる時が来る」

筒香が驚愕の結果を残し、プロジェクトにも光が。

 ドミニカのウインターリーグの武者修行を経た今季、筒香が驚愕の結果を残したことで、長年のプロジェクトにも光が当たったことになる。

 瀬野は言う。

「よくいろんな方から、よく成功しましたね、凄いですねって言われるんですけど、これだけの結果が出たのは筒香本人が努力したことによるものです。ただサポートしている僕らの側からすると、今こうなることはイメージしていました。それだけのことに取り組んできましたから」

 今後、筒香の取り組みが注目を浴びるのは自然の流れであろう。それは野球界に新しい風が舞い込んできた、といえるかもしれない。

筒香の成功は、日本野球界のトレーニングを変えるか。

 筒香がかつて、自身が目指すものについてこう話していたことがある。

「現在の環境に慣れてはいけないと思います。自分は目標を持っていて、そこに到達するまでに、まだ全然足りていないという想いがあります。何事も急には良くならない。本当にモノにするには時間がかかると思う。逆にいえば、急にできるようになったことは、自分のモノにはなっていないということ。だから、続けてやっていくしかないんです。その中でつかんだものの深さは、離れないものになると思っています。

 自分がやってきたことが絶対だとは思いませんが、いろんな考え方に触れたり、たくさんの場所を経験してきて、どういう環境で育つと世界に通用するスーパースターは生まれるのか、というのは考えてきました。だから、自分が活躍することによって、みんなにメッセージを送れるかなと思っています」

 瀬野も、筒香のサポートを通して学んだことは多かったという。

「まだ彼は24歳なんですよ。色んなことをしてきましたが、そんなに遠回りでもなく、彼にとってはいい時間の掛け方だったのかなと感じています。葛藤もあったでしょうし、節目で言葉をかけてくれた彼のお兄さんやご家族のアドバイスも大きかったと思います。

 今、彼の発するメッセージが野球界にとっても重みのあるものになってきていますから、いい風になっていったらと思います」

 筒香の成功が記した確かな足あと。野球界に新たな風が生まれようとしている。

文=氏原英明

photograph by Nanae Suzuki