A代表の課題は育成年代から取りかからないと手遅れになる――。

 U-16日本代表を率いる森山佳郎監督の口から放たれる言葉の中に、このメッセージが何度も、そして強調されるように籠められていた。

「日本はまず守備をしっかりとやったところから、カウンターもしくはビルドアップをしなければいけないのに、イラクはその両方を潰しに来た」(森山監督)

 AFC U-16選手権において、準々決勝でUAEを破って来年のU-17W杯の出場権を獲得した通称「00ジャパン」だったが、アジアチャンピオンを目指して臨んだ準決勝のイラク戦で2−4で敗れた。

 イラクは日本に対して前線から果敢なプレスを仕掛けて、日本が持つパスワークを封じると、奪ったボールを素早く前線のアタッカーに繋げる。日本に守備組織を構築する時間を与えずにカウンターを仕掛けて来た。それでも前半は日本が1点リードするなど、リズムを掴んだが、後半はイラクの一向に落ちない運動量、むしろ増していく気迫の前に、徐々に飲まれていく。結果、今大会の得点王とMVPを獲得したMFムハンマド・ダウードにハットトリックを許すなど、終盤に失点を重ね、敗戦の時を迎えた。

ハイプレスもカウンターも計画通りに実行してくる。

 これは2012年のAFC U-19選手権準々決勝を思い出す試合だった。U-20W杯を懸けたこの一戦で、久保裕也、大島僚太らを擁する日本は、イラクの前からのプレスと鋭いカウンターに思うようなサッカーを一切させてもらえず、1−2のスコア以上の完敗を喫した。この時、現イラクA代表の若きエースであるFWムハンナド・アブドゥッラヒームら多くのタレントがいた。

 4年前と今回のイラクに共通しているのが、前線からのハイプレスも、ロングボールを軸にしたカウンターも、決して“むやみやたら”の代物ではないことだ。アブドゥッラヒームやダウードなど、アジア屈指のタレントを抱えると同時に、ボールの奪いどころと攻めどころを全員がしっかりと共有している。

 そして相手の出方をしっかりと見て、的確な状況判断とキックやパスの精度、動き出しの質と早さを組み合わせて、結果に繋げていく。決して“事故”のようなプレーを待つのではなく、自ら仕掛けて主導権を握るサッカーだ。つまり、“ただ守って蹴ってくるだけ”と捉えていてはいけない。

「日本はコンタクトが弱いから強く行けばいい」

 それだけに日本サッカー界において、イラク戦はただの敗戦では片づけることは出来ない。

「フィジカルを前面に押し出して来るような、前から奪いに来て、身体をぶつけることを厭わないような相手に対し、まだまだ普通にプレーすることが出来ない。それは国内の環境もあるし、ここまでガチガチ奪いにくるようなサッカーが日本でなされているわけではない。それは日本全体で考え直さないといけないと思います」(森山監督)

 この問題は以前から指摘されていることだが、なかなか改善の兆しが見えない。だからこそ、森山監督はチーム立ち上げから、この危機感を指導の根幹に据えてチームを指導し続けてきた。そして、今回の結果を受けて、やるべきことが多いのを痛感したのと同時に、日本サッカー界に改めて大きな警鐘を鳴らした。

「今、日本対策を打ってくるチームは、必ず“前からプレス”“ロングボール”になる。前からプレスがきたら(プレーが)出来ませんではダメ。日本はどうしてもそこが弱い。対戦する各国の監督に聞くと、必ず『日本はコンタクトが弱いから強く行けばいい』『プレッシャーをかければボールを取れる』という話をされてしまう。それ自体が問題です」

グラウンドが悪いと、力を発揮出来ない選手たち。

 森山監督のこの言葉を借りれば、イラク戦を見て、イラクを始めアジアの各国は、「やっぱり日本はこのやり方に弱い」という確信を改めて感じた試合になったと言える。要は日本人選手が自らの国の弱点をさらしてしまった試合だった。指揮官はこう続ける。

「やり方もそうですし、グラウンドが悪い中だと日本はなかなか力を発揮出来ないということも印象づけてしまったと思う」

 今大会の日本は強さを示した一方で、相変わらずの弱点もさらしてしまった。これは決して、A代表やJリーグが“対岸の火事”にしてはいけないポイントだ。

英才教育を施されたアジア各国の選手が育む自信。

 アジア各国は日本と異なり、特定の選手に集中をして英才教育を施すことが多いため、この年代で活躍をした選手がそのままA代表として早々にデビューしたり、国の中軸を担うケースが多い。特に日本が敗れたイラクを始め、UAE、イラン、ウズベキスタンはその傾向が強い。

 育成年代から日本に対して、確固たるイメージを持っている選手がそのまま成長をして行くのだから、苦手意識や過剰なリスペクトが無いことは自明の理だろう。だからこそ、彼らはイメージを持ち続けたままで戦いに挑んでくる。

 例えば、ロシアワールドカップアジア最終予選・初戦のUAE戦での逆転負けがそれを物語っている。さらに言うと、今年1月のAFC U-23選手権でもイラクは主軸メンバーがいない中、日本を最後まで苦しめた。アディショナルタイムにMF原川力の劇的なゴールで勝利とリオ五輪出場権を掴んだが、どちらに転んでもおかしくない試合だった。

“策で逃げる”より、自分達の力を磨く必要性。

「やっぱりハイプレスやグラウンドコンディションの悪い中でも揺るぎない技術やテクニック、判断スピードが必要。A代表や五輪代表はある程度、“策で逃げる”という手もある。しかし、まだ15、6歳の年代でそういうやり方をするより、もっと自分達の力で何とかするという方向にベクトルを向けないといけない。理想と現実で言うと、まだ理想の方に近くに居ないといけない。選手として太くするには、チャレンジをして行かないといけない部分。激しいプレッシャーの中でも冷静に判断して打開をしたり、グループで打開出来る質を持っていないといけない。そのためには普段の練習や試合で、激しいボールの攻防で個人戦術を発揮出来る環境にしなければいけない」

 森山監督がこう提言するように、育成年代から一層“激しさ”と“冷静さ”を求められるゲームを数多く経験出来る環境にしなければいけない。

今月開幕のU-19選手権で日本は中東勢と対戦する。

 それは何も育成年代だけでは無い。大学サッカー、Jリーグ、日本代表においてもそれは当てはまる。本田圭佑や長友佑都ら日本を牽引する選手達が「個の成長が重要」と事あるごとに異口同音するように、どのカテゴリーでも策だけでは限界がある。

 激しさと強さ、そして上手さを持った相手とタフなゲームを積み重ねなくして、選手個々の成長は無い。

 奇しくもA代表は6日にロシアW杯を懸けたアジア最終予選でイラクと戦う。さらに14日に開幕するAFC U-19選手権(U-20W杯アジア最終予選)に挑むU-19日本代表も、グループリーグでイエメン、イラン、カタールと中東勢のチームと戦うこととなっている。

 弟分がU-19、A代表に鳴らしたこの警鐘を、しっかりと受け止めて決戦に挑まないといけない。それは日本のサポーター、関係者も同じだ。

 もう日本は“アジアの盟主”ではない。

「日本、恐るるに足らず」――。

 こう思っているアジアの国は、我々が思っている以上に多く、それが大きな脅威となっていることに、いい加減気付かなければならない。

文=安藤隆人

photograph by AFLO