10月に入った。いよいよ「ドラフトの季節」である。

 20日のドラフト本番まで、選手たちは最後のアピールの場をいかに輝かせるか、スカウトたちはそれを受けて、どんな“決断”を下すのか。まさに、「勝負の20日間」が続く。

「2016ドラフト」の主役たちは、高校生、大学生いずれも投手たちである。

 高校生はすでに夏でアピールの機会を終えているが、プロ野球をこころざす大学生たちにとって、秋のリーグ戦はまさに最終審査の場となる。

 ドラフト間際の秋にアピールを果たした選手たちは、印象が強烈でドラフト本番まで間がないだけに、ぐんと評価が上がる。

 評価を決するのは人間なので、間際のアピールほど印象が強いのは当然である。

 当初「2016ドラフト」は、創価大・田中正義のためにあるような様相を呈していた。

 しかし、春先から右肩の調子が思わしくない田中正義の様子が一進一退する中で、明治大・柳裕也が“実戦力”で台頭し、この秋は桜美林大・佐々木千隼という新鋭が“パワーと潜在能力”でぐんぐん頭角を現すと、今度は北関東に白鴎大・中塚駿太という“ジャンボエンジン”が急速に頭をもたげてきて、この4人の剛腕・快腕たちが、学生球界のドラフト候補投手の「横綱・大関」の位置を占めてしまった。

 誰が横綱で、誰が大関か、それは球団によって考えの異なるところであり、それがドラフト当日の“解答”になろう。

キャッチボールで145キロ、あおったらすぐ155キロ。

 9月下旬、白鴎大・中塚駿太のピッチングを受けさせていただく機会があった。筆者が発行する雑誌『野球人』の「流しのブルペンキャッチャー」に登場していただいたのだ。

 春先の創価大とのオープン戦でリリーフのマウンドを見て、春のリーグ戦のブルペンとやはりリリーフでの投げっぷりを見て、それがとても興味深かったからだ。

 キャッチボールで145キロ。ブルペンのたち投げで150キロ。座って、「さあこい!」なんてあおったら、すぐ155キロですよ。

 白鴎大・黒宮寿幸監督の言葉にあおられたのは、こちらのほうだった。

丸顔のフラット・トーン、おだやかな語り口。

 日本ハム・大谷翔平の花巻東高時代に、“152”までは受けている。ボールのほうはなんとかなるだろう……と思ったし、それ以上に、この青年と話がしてみたいと思った。

「高校3年の今ごろなんて、ドラフトどころか、自分、野球部にはいたけど、ほんとに高校野球やったのかな……っていう感じ。コントロールなくて、ほとんど試合で投げるなんてなくて、たまに出してもらっても自滅、自滅で。なんの役にも立てなくて……」

 丸顔のフラット・トーン。おだやかな語り口だ。

「誰にも相手にされなくて、体だけが人並外れて大きいから、かえって恥ずかしくて」

 192cm、105kg。

 200人以上、いろいろな投手と向き合ってきたが、“これまで経験したことのない大きさ”というやつだ。

余裕残しの腕の振りで、あっさり150キロ。

 フォームのバランスはもともと悪くなかった。骨から汗が沁み出すほど走り、走らされ、バッティングピッチャーという“矯正法”で打者に向かって投げることに慣れ、そんなこんなで今季4年目。

 当たりまえのように投げる150キロ台に加え、カーブ、フォークがストライクゾーンを通過するようになると、いつの間にか、なっかなか打てない剛腕になっていた。

 決して威勢よく投げるわけじゃない。豪快に、誰が見ても100%の全力投球という見た目の“すごさ”があるわけでもない。

 本気で投げたら200キロじゃないのか。そんな楽しみすら感じさせる、余裕残しの腕の振り。それで、あっさり150が出せる。

 受けて、焦った。

 130キロぐらいの腕の振りで“150”がバンバン来るから、体感スピードがすごい。胸に引いて待ち構えていても、ミットが遅れる。

 コイツのエンジンにマウンドからの18.44mは短すぎる。ソフトボールでも140キロぐらい余裕だろう。

田中正義の150キロを早く見せないほどの球。

「練習のシートバッティングであいつのストレートを見慣れてるから、田中正義の150キロが速く見えませんでした」

 白鴎大の主軸を打って、この夏は「日米大学野球選手権大会」で大学日本代表の4番をつとめた大山悠輔が、そんなことを言っていた。

 この秋、中塚駿太とともにドラフト上位指名が確実視されている頼もしい同僚だ。実は2人は、茨城・つくば秀英高から7年間、同じ釜のメシを食ってきた。

「光栄です。高校からずっとおととしぐらいまでは“雲の上の人”でしたから。悠輔から認められるようになれたら、それでもう……」

 控えめなことをいうヤツ。

「自分、田中正義にだけは絶対負けたくないんで!」

 マウンドに立って、投球モーションに入った瞬間も、顔が“仁王”になるわけでもない。そんな退いた感じで、プロ、だいじょうぶかなと思っていたら、黒宮監督が意外な話を聞かせてくれた。

 この春先、リーグ戦を前にして、昨季から主戦で安定したピッチングを続けてきたエース・大出翔一(4年・館林高)の調子がなかなか上がってこない。

 エースナンバー18番は、果たして大出投手の背中のままでいいのか。投手陣を集めて、黒宮監督がそんな問いかけをした。

「中塚が言うんですよ。18番は大出のままでいいと思います。その代わり、自分の11番も絶対変えないでください。自分、田中正義にだけは絶対負けたくないんで! って。あいつの中に、いつの間にあんな激しいものが生まれたんだろ……って、ビックリしましたよ」

 9月17日。

 やはりドラフト候補左腕・笠原祥太郎(新潟・新津高)を擁した新潟医療福祉大と、先発投手として投げ合った中塚駿太。

 いつものように涼しい顔で150キロ台をマークしながら、140キロを超える高速フォークを駆使して3安打に抑え、8三振を奪って完封にねじ伏せた。

「笠原には絶対負けたくなかった。笠原より先に絶対マウンドを降りない。そればっかり考えて投げました」

 ただデカイだけだった男が、その心の芯に赤い炎をたぎらせる男になってこの秋、ドラフトを迎える。

文=安倍昌彦

photograph by Takashi Kimura