10月1日、私はニューヨーク、マンハッタンから1時間ほど北へ登ったウェストポイントに向かった。NBAの開幕番組用に、米陸軍の施設内でキャンプを張っているニューヨーク・ニックスに密着取材するためだった。

 ここ数年低迷に苦しんでいたニックスは復活を目指し、このオフシーズンに大きく動いた。

 2008年ドラフト1位でシカゴ・ブルズに入団し、2011年に史上最年少でリーグMVPに輝いた地元シカゴの大スター、デリック・ローズをトレードで獲得。更にローズと共にブルズを牽引してきたビッグマンのジョアキム・ノアをFAで獲得。それ以外にもガードのブランドン・ジェニングスやコートニー・リーを加え、大黒柱カーメロ・アンソニーの周りを確実にアップグレードすることに成功した。

 この動きはニューヨークのファンに希望をもたらした。実際にファンや地元メディアを取材をしてニックスへの期待に街全体がワクワクしているのがわかった。

鬼気迫るローズとノアの練習風景。

 新チームはさぞかし楽しげな明るいムードで練習初日を迎えているだろう、と会場に向かった。しかし、施設内から聞こえてきたのは激しい足音と大きな叫び声だった。

 かなりの迫力ある雰囲気に我々取材陣もピリっとした。

 なんとコートの外にまで聞こえていたのは、チームをプレーで引っ張るローズの激しい足音、そして、それに負けじと指示を出し仲間を鼓舞するノアの大声であった。

 ニックスにNBAのキャンプ初日の緩い雰囲気は一切なかった。

 更に驚いたのは、ローズの身体の仕上がりの良さで、今すぐに開幕してもプレーできる程しぼれていて、顔にも無駄な脂肪が一切なかった。ノアも練習が終わっても上半身裸で汗をびっしょりかきながら個人練習にひたすら打ち込んでいた。

 初日から鬼気迫る表情の2人。

 練習後の取材でその真相がはっきり見えてきた。

ローズ「なぜトレードされたか正直わからない」

 地元シカゴ出身で、長年チームの大スター。街を背負ってきたローズは、突然通告されたチームの判断に「なぜトレードされたか正直わからない」と移籍会見で戸惑いを見せた。練習後に話した時も「自分はまだやれるし、今はそれを証明したい気持ちでいっぱい」と真剣な眼差しで答えた。

 一方のノアも、縁の下の力持ちとして精神的にブルズを支え続けてきた。ひたむきなプレイスタイルがシカゴのファンから愛され、彼も街に還元するために銃犯罪をなくすチャリティー団体を立ち上げ、精力的にコミュニティと関わるほどシカゴと密接だった。

 しかし新しいヘッドコーチが就任した昨年、チームは彼を控えに回し、メイン選手としての扱いをしなくなった。そしてFA交渉でもフロントとの関係は改善されず、街を出ざるをえない流れになったのだ。

 さらに、追い打ちをかけるようにブルズのオーナーが、「ノアはもう一線級の選手ではなくなった。ローズにとっても我々にとっても環境を変える必要があった」と発言。

 2人の心には、厳しく刺さる一言だった。

全盛期が終わったと言われた2人と復活を期する古豪。

 ブルズにドラフトされ看板選手として活躍してきた2人。トレードとFA、方法は違っても今季のオフで長年所属したチームを離れざるをえなくなったという共通点がある。お互い、ニューヨークでの鬼気迫る表情の裏には、複雑な想いがあった。

 ノアはオーナーの発言に「正直、悲しいし、ローブロー(ボクシングの急所打ち)だと思う」と反撃。一方ローズも「自分はいつでも下馬評を食らって生きてきた。今回の状況も実力を証明するのみ」と直接語ってくれた。

 全盛期が終わったと烙印を押された2人。

 なんとか低迷から脱出したいチーム。

 この2つの反骨心が重なって生まれたのが今季のニューヨーク・ニックスであると言える。

 一丸となって球界に実力を証明できるのか、まずは10月25日(日本時間26日)キング・レブロン率いる王者クリーブランド・キャバリアーズとぶつかる開幕戦でニューヨークの生き様を見せてもらいたい。

文=長澤壮太郎

photograph by Nathaniel S.Butler/Getty Images