EURO2016の後、ロシアW杯欧州予選を戦うイタリア代表の新体制が発足した。

 闘将コンテ(現チェルシー)の後釜に収まったのは、御年68歳の前トリノ監督ジャンピエロ・ベントゥーラだ。

 ほんの数カ月前までスズキ・イタリア自動車のテレビCMでとぼけた三文芝居を見せていた好々爺は、堅牢な3バックと巧みなカウンターを使うチームを好む。

 若手選手の発掘や指導に定評あるベテラン指揮官としても知られるが、ベントゥーラは初陣の選手選考をめぐる発言で早速物議を醸した。

「私が代表で3-5-2を使い続ける限り、FWベラルディにチャンスはない」

 ベラルディは躍進著しいサッスオーロとU-21イタリア代表のエースだ。セリエA通算得点はすでに40に上り、今シーズンもEL予選から数えて公式戦6戦7発と絶好調だった。

 3トップの右サイド近辺でのプレーを好み、周囲を活かす術を覚え、若くしてチームの大黒柱になっている。“ベラルディこそ次世代のアズーリを背負って立つ人材”と期待をかけるサッカー関係者は少なくない。

御大サッキも「ベラルディ外しは誤りだ」と警鐘。

 しかし、新監督ベントゥーラは9月1日の親善試合フランス戦を前に「就任から準備期間が少ない」と理由をつけ、ベラルディだけでなくFWエルシャーラウィ(ローマ)やFWインシーニェ(ナポリ)といった旬の若手サイドアタッカーたちに代表への門を閉ざした。

 アズーリの新監督は、W杯予選突破のためには自らの3-5-2構想まずありきで個々の選手が持つ際立った才能活用は二の次である、という姿勢を早々に打ち出したのだ。

 これには、就任直後というのにあまりに狭量ではないか、と一斉に疑問の声が上がった。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は「(ベラルディを排除するとは)ベントゥーラ、気は確かか? 戦術で才能を潰すのか」と一面大見出しで新代表監督を非難。

 かつて代表を率いた御大サッキは「ベントゥーラよ、ベラルディ外しは誤りだ」と訴えた。直言の根っこには、自らの戦術至上主義と天才バッジョが対立した'94年アメリカW杯での苦い経験がある。

ベントゥーラは慌てて4-2-4採用を表明も……。

 サッキには「ゾーンディフェンスを理解できまい」という先入観から名DFベルゴミを同大会に招集せず、後に後悔した経験もある。米国W杯での優勝を逃して20年以上が経った今、当のベルゴミからは新代表監督へ具体的な忠言がなされた。

「トリノ時代のベントゥーラは、3トップ専用ウイングと見なされていた愛弟子チェルチをセカンドトップへと見事に転身させたではないか。ベラルディにも同じことを試すべきだし、招集して彼にフル代表の空気を感じさせるだけでも必ずプラスになる」

 名将アンチェロッティ(バイエルン)も、かつてパルマでの駆け出し指導者時代に4-4-2へ固執するあまり、“小さな魔術師”ゾラを構想から外した。「私は愚かだった」と後にアンチェロッティは過ちを認め、自身も監督となった名手ゾラはこう提言した。

「トッププレーヤーの少なくなった今のイタリアに、ベラルディのような並外れた才能の持ち主を外す選択肢はない。彼ほどのFWなら3-5-2にも必ず適応できる。ベントゥーラは考えを改めるべきだ」

 各方面から総スカンをくらった新監督は、慌てて「誤解だ」と弁明。3-5-2から4-2-4への戦術的発展と、それに伴ってサイドアタッカーたちを試す考えを示し、年内の代表特別合宿と来年6月のテストマッチでの招集を匂わせるに至った。

40年の指導者歴、渡り歩いたクラブはなんと18。

 代表監督の有力候補として、ベントゥーラの名が上がったとき、正直耳を疑った。10年前にシチリア島の片田舎で取材していた凡庸な指導者が、後にイタリア代表監督に就任するなど夢にも思わなかったからだ。

 ベントゥーラの指導者歴は40年に及び、渡り歩いたクラブは18になる。

 ドイツW杯を控えた'06年の晩冬、当時シチリア島でプレーしていたFW柳沢敦は古巣・鹿島へ帰り、すでに半壊していたメッシーナの敗戦処理監督として雇われたのがベントゥーラだった。

 采配を振るった終盤の7試合は1勝6敗、散々な有様で立て直しに失敗した。何度か取材した記憶はあるが、今も“昼行灯”という印象しか残っていない。

 表舞台から姿を消したと思っていたら、'09年に昇格組バーリの躍進で返り咲き、その後呼ばれたトリノでも有能な若手たちを世に送り出した。

 21歳のときに2部ピサで抜擢され、バーリでも重用されたDFボヌッチ(現ユベントス)は、今や欧州随一の名スイーパーになった。FWインモービレ(現ラツィオ)はトリノで薫陶を受けた3季前に24歳でセリエA得点王を獲った。彼らはベントゥーラに足を向けて寝られないはずだ。

ベントゥーラの年俸はコンテの半分以下。

 9月に敵地ハイファで行われたイスラエルとのW杯予選初戦では、DFキエッリーニの退場で10人となったが司令塔ベラッティ(パリSG)とFWインモービレなどの活躍で3−1の快勝を収めた。

 途中出場で守備固めに貢献したDFオグボンナ(ウェストハム)に加え、FWベロッティ(トリノ)といった近年の教え子たちにも、今後チャンスが与えられるにちがいない。

 EURO2016でのスペイン撃破は、チームを鍛え上げ、闘う集団にした前監督コンテの功績が大きい。

 優秀だった分、クラブレベルの高年俸を要求したコンテに比べ、新任ベントゥーラの年俸は半分以下だ。

 闘将ほど苛烈な性格でもなく厄介な注文が多いわけでもない。イタリアサッカー協会のタベッキオ会長が、ベントゥーラへ白羽の矢を立てた理由は、何より御しやすさではなかったか、と勘ぐりたくもなる。

新指揮官の最大の懸念は、国際経験がほぼないこと。

 実は、この夏に28歳年下の相手とゴールインしたばかりの新婚でもあるベントゥーラへの不安は、短い現役時代にも指導者としても、国際経験がほとんどゼロに等しいことだ。チャンピオンズリーグの緊張感も知らず、国内でのタイトル獲得歴もない。

 早くも露呈した選手招集への偏りや国際経験不足と合わせて、伝統国イタリアにもロシア行きを逃す危険性がないとは言い切れない。

 不運にも、ベラルディは9月に続いて筋肉系の故障で今回も招集はお預けだが、EUROでの雪辱を果たしたいスペインになすすべなく敗れるようなことがあれば、サッスオーロのエースFWを筆頭とする若手サイドアタッカー待望論が再燃するのは間違いない。

 ヒト(選手)が先か、入れ物(戦術)が先か。

 W杯予選が進むにつれて、イタリア代表をめぐる旧くて新しい議論も深まっていくだろう。

文=弓削高志

photograph by AFLO