強くて、貪欲で、持ってる。

 だから、本田圭佑は南アフリカW杯以来、ずっと日本代表の中心であり続けた。相手に背後から厳しくプレッシャーをかけられても、体の強さと技術を活かしてボールをキープし、味方が攻め上がるための時間と空間を生み出す。決してスピードはないが、貪欲に得点を狙う姿勢を示し続け、実際に大事な試合になればなるほど、貴重なゴールを決めてきた。

 その実力と勝負強さを何度も見てきたからこそ、10月6日のイラク戦での姿は、ショックだった。

 弱くて、遅くて、持ってない。

 26分の先制シーンこそ清武弘嗣との連係でゴールに絡んだものの、それ以外の場面では相手に体をぶつけられてはバランスを崩した。ボールが足につかず、速い縦パスとなると、トラップすらままならない。前半終了間際には敵陣のペナルティーエリア内で長谷部誠のパスを収められず自身の手に当て、55分にはゴール前で清武からのパスをトラップミスし、チャンスをフイにした。

体が重くてもここぞで決めるのが本田だったが……。

 試合勘の鈍り。これが、イラク戦での不調の大きな要因だったことは間違いない。所属するミランで開幕から出場機会を与えられず、実戦でのボールタッチの感覚やプレー判断に狂いが生じたことは容易に想像できる。試合2日前のチーム合流となったことで、コンディションが悪いのも明らかだった。

 ただし、所属クラブで試合に出られない状況での代表合流は、CSKAモスクワ時代にも、昨季のミランでも経験してきたはずだ。これまでのW杯予選でも明らかに体が重そうに見える試合は何度もあった。それでも、本田は本田であり続けてきた。ほとんどの時間帯で消えていても、ここぞの場面ではゴールを決める。それが「本田△」だった。

なぜ本田は自身のパフォーマンスに及第点を与えたのか。

 きっとハリルホジッチ監督も、本田の一発を信じていたに違いない。だからこそ60分に同点に追いつかれてからも、絶不調の彼をピッチに残したはずだ。

 79分、ついに背番号4が今でも日本の絶対エースであることを証明するための瞬間が訪れた。原口元気のクロスを、ファーサイドから頭で叩く。「本田△」なら必ず決めてきた場面。ところがボールはゴールポストをかすめ、枠の外へと転がっていった。

 2分後、小林悠との交代が告げられた。チームは終了間際、山口蛍の劇的なゴールで勝利したものの、きっと試合後の本田は悔しそうな顔を浮かべるだろうと思っていた。ところが、取材エリアに現れた彼は、意外なほどさっぱりした表情で語り始めた。

「体が動いていない感触はなかった。決めるべきところで決めていればとか、いくつか反省や課題はあるけど、(それ以外の自分のプレーに関して)特段気になったところはなかった」

 かつての本田は、ビッグマウスによって周囲からのプレッシャーと期待を集めた上で、ピッチで結果を残すことで評価を高めてきた。一方、結果を残せなかったときには潔く実力不足を認め、次の試合では一回り逞しくなって帰ってきた。

 そんな彼が、イラク戦での自身のパフォーマンスに及第点を与えていることに、正直、がっかりした。「本田△」には、この日のようなプレーで納得してほしくなかった。

ボールを失わない本田がいたからこそできていたこと。

 取材エリアでの話題は、チームの攻撃面の課題に移る。

「本当は、こっちがむこうをバカにしたい。そういうところは僕やヤットさん(遠藤保仁)の真骨頂でね。僕もスピーディーさが欠けるとか、いろんな意見があるでしょうけど、アジアレベルで言えば徹底的に相手をバカにするプレーは得意としている。

 でも、それは今、求められていない。怖い攻撃をもっと増やしていこうというのが今の代表のテーマなので。それはそれで、前向きにチャレンジしたいという気持ちで臨んでいる。自分になかったところなので。別に否定的ではないですよ。でも、本来はイラクみたいな国が僕たちを必要以上にリスペクトしていないのは腹立たしい。本当は、むこうがうざいと思うくらいボールを回さないといけない」

 縦に速い攻撃ばかりでなく、ザッケローニ体制時のように相手を押し込むパス回しも必要という主張だ。それによってイラクが自陣に引きこもらざるを得ない展開に持ち込まなければいけない、と。

 ただし、ザック時代のパスワークは、相手を背負っても決してボールを失わない本田という受け手がいたからこそ、横パスの中に縦パスが混じり、機能していた。イラク戦でのように、本田が簡単にボールを失う状態でポゼッションにこだわれば、むしろプレスの餌食となり、イラクに「バカにされていた」可能性だってある。

2列目で起用するメリットはあまりない!?

 相手を背負うとボールを収められないイラク戦のプレーならば、もはや本田を2列目のポジションで起用するメリットは、あまりない。むしろ、より前を向いた状態で展開力を活かせるボランチへの“転職”を、真剣に考えるべきではないか。守備に関しても、同じ司令塔タイプの柏木陽介や大島僚太よりもフィジカル面でメリットがある。イラク戦では相手に攻め込まれた中で、セカンドボールにいち早く反応した72分の場面のように、危機察知能力の高さや空中戦の強さも見せた。

 強くて、献身的で、(ボールを)持ってる。

 中盤の底ならば、良い意味でモデルチェンジした本田を見ることができると思うのだが。

文=松本宣昭

photograph by Takuya Sugiyama