2012年2月から4年7カ月にわたり「メルマガNumber」にて配信してきたメールマガジン「福西崇史の『考えるサッカー』」。今月から不定期でNumberWebで連載をスタートする。
 ロシア・ワールドカップアジア最終予選を戦う日本代表の戦いぶりをはじめ、日本サッカー界のビッグマッチ、トピックスを“一段階深く”考えていく。
 第1回は、後半アディショナルタイムの劇的なゴールで勝ち点3を確保したイラク戦のプレーバック、そして11日に迫る敵地オーストラリア戦の展望について聞いた。まずは山口蛍の劇的な決勝ゴールについて――。

 まず今回の試合で大前提だったのは「勝ち点3を確保すること」でした。そういった意味で日本代表は最低限の結果を残した。そこは評価すべきポイントだと思います。

 山口蛍の決勝点で思い出したのは、僕が日本代表として戦ったドイツW杯最終予選・北朝鮮戦です。あの試合は早い時間帯に小笠原(満男)の直接FKで先制点を奪って押し気味に試合を進めましたが、後半に入って同点に追いつかれる展開でした。後半終了間際に相手GKがパンチングしたボールが自分のところにこぼれて、その落としを大黒(将志)が決めて勝ち切れた。今思えば第2戦の敵地イラン戦を落としている(1−2)ので、この勝利がなければもっと苦しい戦いとなっていたかもしれません。

メンタル的な疲れを吹き飛ばして次戦に挑める。

 それは今、最終予選を戦っている日本代表にも同じことが言えます。特に初戦のUAE戦を逆転負けし、勝ち点を落としている。プレーヤー視点に立つと、ホームで約6万人の声援を受けて戦えることは確実に大きな力になります。その一方で期待に応えようと堅くなってしまい、普段のパフォーマンスよりも力んでしまう一面があることも確かです。

 もしホーム2試合目のイラク戦でまた勝利を逃したとしたら、今後のホーム戦で良くないイメージを持ってしまいかねないところでした。それだけに劇的な展開で試合を締められたことで、選手たちはポジティブな気持ちで次戦へと向かうことができる。メンタル的な疲れを多少なりとも吹き飛ばして次戦に挑めるのは、チーム全体に好影響を与えるはずです。

清武は運動量とテクニックの両方を生かしきった。

<イラク戦の日本は、コンディション面で懸念された香川真司をベンチに置き、清武弘嗣をトップ下に起用。左サイドには原口元気が入った。前半26分にはその清武のラストパスから原口が先制ゴールを挙げるなど、両者はアタッカーとしての役割を果たした。2人の好パフォーマンスを称えつつも、より一層攻撃に迫力を出すための改善点があるという。それは、岡崎慎司との連係だ。>

 これは以前から話していたところですが、ここ最近の清武からは「自分のプレーでチームを勝利に導いてやるんだ」というメンタル面の充実を強く感じます。それがあったからこそ昨季ハノーファーで多くの得点に絡むことができましたし、セビージャへの移籍も果たせたのだと思います。

 イラク戦でも清武の特徴は出ていました。試合序盤からトップ下としてボールを引き出す動きを積極的に見せていました。そして先制ゴールの場面では、自陣からドリブルで持ち運んで、ボールを預けた本田(圭佑)の背中を回り込んでペナルティエリア深くまで入って、原口へのラストパスを通しました。運動量とテクニックの両方を持っている清武らしいプレーだったと言えるでしょう。

 得点シーン以外にも前方へのスルーパス、思い切りのいいミドルシュートを放つなど“ゲームを動かしていく”意識を常に持っていました。この姿勢があるからこそ、味方も自然と清武にボールを集めようとしていました。

原口は前半と後半でプレースタイルを柔軟に変えた。

 ゴールを奪った原口も、所属するヘルタでの好調ぶりをそのまま代表で見せてくれました。彼が向上したのは“今、ピッチでどんなプレーが自分に必要とされているのか”という点にあると思います。それは前半と後半のプレーぶりを比較すれば明確だと思います。

 前半は本田、酒井宏樹に清武が絡む右サイドの攻撃が中心だったため、逆サイドの原口はゴール前に入り込む意識を強めていて、それが先制点につながりました。対照的にスペースが空いてきた後半は、対面の相手サイドバックとの1対1勝負に自信を持っていた。だからこそ左サイドに大きく開いて、ボールを受けてから得意のドリブル突破を仕掛けていった。パス回しだけでは崩れないイラクの守備組織を崩すため、効果的にプレーしていました。

岡崎と近い距離感を取ることが、分厚い攻撃を生む。

 彼ら2列目や攻撃面で課題があるとすれば、1トップの岡崎との関係性でしょうか。ハリルホジッチ監督は現在1トップを採用しています。その中で岡崎はポストプレーで粘りを見せると同時に、持ち味である最終ライン裏への抜け出しを見せる場面もありました。

 ただ岡崎が抜けたとしても、その後には相手センターバック2人に囲まれてしまう。フィニッシュまで持ち込めないので、岡崎はキープを選択します。そこで2列目の選手が近い距離感でサポートできなくて、厚みのある攻撃を仕掛けられなかった。そこが相手を押し込み続ける形にならなかった理由の1つだと感じます。

 イラク戦で勝ち点3を獲るという目標を達成したことは良かったですし、選手それぞれが頑張りを見せたと思います。ただ、チーム全体としての完成度はまだまだと感じます。この状態では最終予選も苦しむ試合が続きそうですし、予選突破が決まっても強豪国と戦って勝利できるのか、という点ではまだ厳しいというのが正直なところです。

豪州はかつての“フィジカルごり押し”ではない。

<日本は予選突破を目指すと同時に、世界と伍していくためのチーム作りも並行して進めなければならない。その試金石となるのは次戦、11日に行われる敵地オーストラリア戦である。グループ最強と目される相手の進化、そして日本にとっての永遠の“天敵”についても触れている。>

 '15年アジアカップを制覇したオーストラリアは、以前のフィジカルを前面に押し出したスタイルから変貌を遂げています。簡単に言うと、日本のスタイルに似てきている。レッキー、クルーズ、ロジッチ、ルオンゴらといった攻撃的な選手が激しくポジションチェンジしてきて縦のスピードやテクニックを生かすのが強みになっています。

 そして中盤の深い位置で攻守のバランスを取るミリガンらも健在ですが、ベテラン勢ではやはりケーヒルが気をつけたい存在であることは確かです。

“ケーヒルの厄介さ”を体感した2つのポイント。

 ケーヒルと言えば身長(180cm)の割に圧倒的な空中戦の強さのイメージがあるかと思います。それと同時に僕が対戦した際に感じたのは「マークしにくい場所にポジショニングする」、「プレーにメリハリをつけてくる」という2点です。

 "ボランチとセンターバックのどちらがマークするんだ?”というスペースでボールを待つことが、ケーヒルは抜群に巧い。また常に100%でプレーするというわけでなく、言葉は悪いかもしれないけど“ダラダラと”動いていると思った瞬間、一気にトップスピードに入ってくる。この駆け引きの上手さを出させないようにするのが必要です。

 日本は現在のところグループ4位。アウェーでのオーストラリア戦は勝ち点3を奪いにいく意識は持つべきですが、展開によっては引き分けでも良しとする状況になるかもしれません。流れを読んで、選手全員が意思統一させて試合を運べるか。タイ戦、イラク戦で連勝したからこそ、気持ちに余裕を持ちつつ敵地に乗り込んでほしいところです。

(構成・茂野聡士)

文=福西崇史

photograph by Takuya Sugiyama