クライマックスシリーズ(CS)開幕直前に、巨人は風雲急を告げている。

 開幕5日前の10月3日には、阪神とのシーズン最終戦で一塁への全力疾走を求めたコーチに対して挑発的な行為をとるなどしたルイス・クルーズ内野手が懲罰で一軍登録を抹消された。これで少なくともファーストステージの出場は不可能となったが、戦力ダウンは覚悟の上で、高橋由伸監督はチームの結束を選択する厳しい姿勢を見せたわけである。

 一方、計算外の事態はCS開幕投手が予想された菅野智之投手の“離脱”だった。

 菅野は開幕2日前の6日、全体練習の行われる東京ドームに姿は見せたが、滞在時間はわずか10分ほどで練習には参加せず、そのまま球場を後にした。

 もし初戦に登板するなら、この日はブルペン入りしてピッチングを行うのがルーティン。球場では治療などをした様子もなく、故障の可能性は低いが、一部では発熱説がささやかれるなど体調面で何らかの問題があったのは明らか。初戦先発が厳しい状況となったのだ。

 これを受けて首脳陣は急遽、第2戦に先発予定だったマイルズ・マイコラス投手をブルペン入りさせてローテーションの変更に対応。菅野の回復次第だが第2戦には田口麗斗投手、第3戦にはベテランの内海哲也投手を回すことになるとみられている。

 ただでさえシーズン終盤にDeNAに6連敗と勢いの差がある上に、開幕直前のアクシデントで、巨人は厳しい状況に追い込まれているのは確かだ。菅野、マイコラスという2本柱で連勝を狙い、ファイナルステージでは広島戦に強い田口でまず初戦勝利を取る――首脳陣が描いたシリーズの青写真も白紙に戻さざるをえなくなった。

短期決戦の経験こそが巨人のアドバンテージ。

 そういう状況で、まずは目の前のファーストステージをどう勝ち抜いていくのか?

 もともと今季の、特に終盤のDeNAの勢いには侮れないものがあり、巨人にとって最初から厳しい戦いは予想されている。その中でDeNAの弱点を探すとすれば、やはりCSの経験があるのはホセ・ロペス内野手くらいで、他の選手は全く初めての舞台という経験のなさになるのだろう。

 短期決戦独特のムード、プレッシャーの中で普段通りの野球をどれだけできるか。逆に巨人は何より経験があり、こういう舞台での野球のやり方、勝ち方を知っていること、何とか2位を確保して東京ドームで試合ができることがアドバンテージとなるはずである。

筒香と“タイマン”の阿部、短期決戦ならば……。

 このアドバンテージを勝利に結びつけるキーマンには、経験豊富なベテラン勢、野手では阿部慎之助内野手、投手では内海哲也に山口鉄也の両左腕の名前を挙げてみたい。

 昨年の阪神、ヤクルトとのCSでも打線で1人、気を吐いたのは阿部だった。7試合27打数で14安打を放ってシリーズ打率は5割1分9厘を記録。大振りを捨てコンタクトに徹するなど、打線の起点としてチームを引っ張った。ただ、そのCS敗退後に本人がこう語っていたのは、現チームでの阿部の存在感を改めて浮き彫りにするものでもあった。

「僕が何をしたら相手が一番、嫌なのか。チョコチョコとヒット狙いというより、やっぱり当たったらスタンドまでいくぞというのも必要だと思った」

 走者一塁や走者のいない状況では、あえてチャンスメイクではなく一発を狙うことも必要で、それが阿部の役割だ。今季は右肩の故障で開幕に間に合わなかったが、交流戦からチームに合流し、7月24日のDeNA戦から4番に座ると、確かに“決めるバッティング”で結果を残してきてもいる。

 DeNAの主砲・筒香嘉智外野手との“タイマン勝負”というわけだ。この勝負、長いシーズンではすでに全盛期を過ぎた阿部には難しいかもしれないが、短期決戦、この舞台だからこそ勝てるかもしれないのである。

 阿部がそういう打撃ができれば、前を打つ坂本勇人内野手への投球にもプレッシャーをかけられる。また、この2人を警戒すれば後ろを打つ村田修一内野手やギャレット・ジョーンズ外野手の長打が生きることになるわけだ。

競り合いでの弱さが目立つ今季の巨人。

 投手陣では、第3戦にもつれ込んだケースに先発が予想されるベテランの内海もそうだが、短期決戦の経験豊富な山口の存在がクローズアップされるのではないだろうか。

 今季の巨人は逆転負けが38試合と、投手陣の踏ん張りが利かないケースが目立っている。DeNAとの対戦を見てみても、中盤以降にもつれるケースが多く、6回まで同点もしくはリードしていて、7回以降に追いつかれたり勝ち越されたケースが6度と、競り合いでの弱さが目立っているのだ。

 もちろん一番のポイントはクローザーの澤村拓一投手が機能するかだが、その部分はもはや信じて託す以外にない。ただそこへのつなぎ方、ピンチでの継投という部分では、もう一度、山口の存在感にかける手はある。

マシソンと山口で流れを作れば澤村の復活も。

 長年の勤続疲労から今季の山口は往年のボールのキレを失い、大事な場面で痛打を浴びるケースも見られた。シーズン終盤にはセットアッパーから、左のワンポイント的な役割を担うケースが増えていた。

 逆に言えばこの山口の不振が、そのままチームの成績に反映しているとも言え、結果的には未だに山口に代わる存在がいないということでもある。ならば、この短期決戦ではもう一度、山口の経験と集中したときの底力にかけてみるというのもありではないか。

 現代野球では、セットアッパーが試合の流れのカギを握るというのは常識である。8回をピシャリと3人で片づけ、いいリズムでクローザーに繋げば、クローザーもその波に乗ってゲームを締めくくれる。

 スコット・マシソン投手と山口をうまく併用して、そういう流れを作り出せば、不安定だった澤村のピッチングにも変化を与えることができるかもしれない。

ベテランの力が短期決戦では物を言う。

 1989年の近鉄と対戦した日本シリーズ。いきなり3連敗した巨人の藤田元司監督は、第4戦の先発メンバーに「1番・右翼」でベテランの蓑田浩二外野手を抜擢した。蓑田はシーズン中、わずか37試合の出場で打率2割4分1厘だった。しかし試合が始まると、初回に蓑田が放った二塁打を足場に先制点を奪って、巨人はシリーズ初勝利。そこから4連勝して日本一に輝いた。

 ベテランは肉体的にもコンディション的にも、長いシーズンを通じてコンスタントに成績を残すのが難しくなっていく。ただ短い期間に合わせて、きちっと調子を高めて短期的に自分の持てる力をフルに発揮するのには長けている。短期決戦で大事なのは、シーズン中の結果はリセットして、改めてこういうベテランの力をどう引き出して勝利に結びつけるかでもあるのだ。

 巨人にとっては逆境のクライマックスシリーズ。だからこそそういうベテランの力がカギを握るのである。

文=鷲田康

photograph by Hideki Sugiyama