「来シーズンにむけて気持ち的には、満足して終わるよりもいいかな、と。逆にモチベーションが上がったから。まぁ……来シーズンも頑張ります」

 昨シーズンのしめくくりとなった6月のキリンカップ、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦。ヨーロッパのクラブに所属する攻撃的な選手のなかで、コンディション以外の理由で1人だけ出番を与えられなかったのが原口元気だった。

 悔しさを押し殺しながら、静かに巻き返しを誓っていた。彼はそんな悔しさも、養分に変えられる選手なのかもしれない。

 10月6日のイラク戦で原口は、先月のタイ戦に続く2試合連続ゴールを決めた。

 前半26分、自陣で相手からボールを奪うと、それを清武弘嗣が受けたタイミングでゴール前へ飛びだしていった。運動量とインテンシティという、サイドで輝く特長を見せつける動きだった。

 そして、ゴールに背を向けたまま右足のインサイドでボールに触れてコースを変える。披露したのは、ストライカー顔負けのシュートだった。ボールはGKの脇をすりぬけ、ゴールラインを超えた。

「あのボールの取り方は得意なんです。キヨくん(清武)と圭佑くん(本田)が良いコンビネーションで崩してくれたので、良いところに入れた。得点のシーンは落ち着いていたと思うし、あれだけ速い攻撃ができれば、どの相手でもチャンスは出来るかなと思います。ああいう良い攻撃がなかなか形にならなかったというのは課題ですけど、これからは増やしていきたいと思います」

 相手ボールになった直後に守備のために急いでもどり、ファールを厭わず相手のカウンターの芽を積むシーンもあった。

酒井高徳との連係向上のために、試合翌日から相談。

 左サイドでコンビを組む酒井高徳の良さをもう少し引き出したかったと課題も口にしたが、試合翌日の練習では、ランニングをしながらさっそく酒井高徳と身振り手振りをまじえて、解決策を探っていた。

 試合前日に、「僕はメンタルもコンディションもトップの状態で明日は出来る」と語っていただけのパフォーマンスを見せた。

ドイツで残している驚異的な65.2%という数字。

 原口の今の活躍の裏に、ハイレベルで安定したコンディションがあることは明らかだ。

 ヘルタ・ベルリンでは、ここまでリーグ戦6試合にフル出場を続けている。そして、パフォーマンスも驚異的だ。

 1試合平均約11キロの走行距離も、平均74.7回のランも、26.6回のスプリントも、全てチームでトップの数字だ。代表戦直前のハンブルガーSV戦では、「ツバイカンプフ」と言われる「1対1の局面での勝利率」が65.2%を記録した。攻撃の選手が50%を超えることは珍しく、原口の数字は異例中の異例だ。チームの攻撃の選手でも、もちろんトップだ。

「ツバイカンプフ」はドイツ語だが、英語に直せば「Duel」となる。ハリルホジッチ監督がいつも口にし、選手に求めるものだ。

 原口は何年にもわたって、綿密に計算されたトレーニングを通じてフィジカル面の強化に取り組んで来た。サッカーにおけるフィジカルの重要性を理解したからこその行動だ。

 ただ、原口がイラク戦のあとに強調したのは、ハートだった。

「やはり、気持ちが一番大事だと思います。気持ちで上回ることによって、すべてが上手く、好循環になるということは、ブンデスでやっていても、代表でやっていても、そう思うから」

UAE戦翌日、練習後にピッチに倒れこんだ真相。

 原口をトップ下とボランチの中間のようなポジションで起用していたハリルホジッチ監督が、左FWでの起用を考え始めたのは、ホームでUAEに敗れてからだった。

 そのUAEとのホームゲームに敗れた翌日、途中出場だった原口は、試合に出なかった選手と同じメニューをこなした。練習が終わると、原口はピッチに倒れ込んだ。それは何も、炎天下で走り回っていたから、というだけではない。体力的にも、そしてメンタル的にも、その時点で出せるものを出し切ったからだ。

 同じようにハードワークを身上とする武藤嘉紀が原口をねぎらっていたのも、武藤の心にも響くものがあったのだろう。

 後に、原口はあの日の行動について、こう説明している。

「まず日本が負けたのが悔しかった。それにうちにはあれだけの良い選手がいるわけだから、気持ちが強ければUAEにだって勝てるはずだから」

フィジカルとメンタルの良いサイクルが止まらない。

 練習から気持ちのこもるプレーを見せ続けた結果、タイ戦では左FWとして先発のチャンスが与えられ、ゴールという結果を残した。それも評価されて、イラク戦の先発へ。そして、再びゴールにもつながった。

 メンタル面の重要性を理解しているからこそ、フィジカル面の整備にも情熱を捧げる。フィジカルの強化に全力を注いでいるからこそ、気持ちのこもったプレーを見せられる。

 原口はそんな良いサイクルを自らのうちに作り出しているわけだ。だから、イラク相手の劇的な勝利のあとも、ドラマティックな展開に酔うことなど一切なく次のオーストラリアとの試合に意識を向けていた。

「これを意味のある勝ち点3にするために、次の試合が大事だなと思います」

 そんな原口の言葉は、確かな熱を帯びていた。

文=ミムラユウスケ

photograph by Takuya Sugiyama