昨シーズン、アジアの若手ライダーを育成する「シェルアドバンス・アジア・タレントカップ(以下、アジア)」でチャンピオンになり、このコラムで紹介した佐々木歩夢が、今年は、ヨーロッパで開催されている「レッドブル・ルーキーズカップ(以下、ルーキーズ)」でチャンピオンに輝いた。

 ルーキーズカップは、グランプリを運営統括するドルナ・スポーツ(以下、ドルナ)が、将来のGPライダーを育てようと2007年にスタートさせた育成プログラムで、ヨーロッパのグランプリに併催される形で今年は7戦13レースが行われた。

 昨年、アジアでチャンピオンになった佐々木は、初出場のルーキーズカップでは優勝1回を含む5回の表彰台で総合3位。2年目の今年は、13レースを戦い4勝を含む11回の表彰台に立った。タイトル決定は、最終戦アラゴン大会の「レース2」にもつれ込んだが、チャンピオンを争うスペイン人のアレイシ・ビウが優勝しても、佐々木はポイント圏内の15位以内でフィニッシュすればチャンピオンが決まるという圧倒的有利な状況だった。

 そのビウがレース序盤に転倒。その時点で佐々木のチャンピオンはほぼ決まったが、レースは、佐々木を含む3人の優勝争いとなり、ラスト2周で首位に立った佐々木が真っ先にチェッカーを受けて優勝し、チャンピオン獲得に華を添えた。

ワンメークが得意の佐々木は、ルーキーズで才能発揮。

 今年は、ドルナに選抜された優秀な若者が世界中から集まるルーキーズと、ホンダのサポートを受けて、スペイン、フランス、ポルトガルで開催されているFIM・CEVレプソル国際選手権(CEV)のMoto3ジュニア世界選手権に出場した。

 ルーキーズはKTMの市販レーシングマシンを使用してのワンメーク。子供のころから、同じバイク、同じタイヤで戦うワンメークで素晴らしい成績を残してきた佐々木は、ルーキーズでもズバ抜けた才能を発揮した。

 一方、今年から参戦したCEVは、グランプリとほぼ同じルールで、ホンダ、KTM、マヒンドラが競い合う。ルーキーだったCEVでは、常にトップグループに加わるも、最後に抜け出すだけの速さがなく、10レースを戦い表彰台1回の総合5位。最終戦では、さらにランキング上位とCEV初優勝を狙っているが、目標とするチャンピオン獲得は果たせなかった。

速い選手ではなく、凄く速い選手が欲しいと言われた。

 とは言っても、グランプリの登竜門であるルーキーズでチャンピオンを獲得し、グランプリライダーが多数出場してくるCEVの1年目で、最終戦を残しランキング5位という成績は、世界の舞台でも十分に通用することを証明している。そのため、佐々木をサポートしているホンダは、来季の世界選手権参戦に向けて所属させるチームの選定に入り、グランプリ参戦が内定した。今年の10月に16歳になり、出場最低年齢に達した佐々木にとっては、来季の世界デビューは願ってもないことである。

 思えば、今年初めのインタビューで彼は、こう語っている。

「ホンダの監督さんに、速い選手はいらない、凄く速い選手が欲しいって言われた。だから、僕は凄く速い選手になります。'16年の目標はルーキーズカップとレプソル選手権(FIM・CEVレプソル国際選手権)でチャンピオンを獲って'17年にグランプリに参戦すること。将来の目標は、ロッシやマルケスのようにMotoGPでチャンピオンを取ること。マルケスは何歳でMotoGPのチャンピオンになったんでしたっけ? 20歳? だったら僕は19歳で獲ります」

「マルケスが20歳? だったら僕は19歳で獲ります」

 佐々木の目標はスケールが大きい。「マルケスが20歳? だったら僕は19歳で獲ります」なんて台詞はなかなか言えない。マルク・マルケスがMotoGPクラスにデビューした13年に、フレディ・スペンサーの史上最年少優勝記録を31年ぶり、チャンピオン獲得記録を30年ぶりに塗り替えたが、その記録をブレイクするのは容易なことではない。しかし、佐々木は、「デカイ口を叩くこともあるけど、それは自分にプレッシャーを掛けるという意味もあるんです」と言ってくれた。こんな言葉は、自信がなければいえないし、そんな佐々木の成長ぶりを見ているのは実に楽しい。

 元GPライダーでもある父・慎也さんは、世界チャンピオンになるという息子のために、中学生のときにインターナショナルスクールに通わせて英語の勉強を徹底的にさせた。高校に進学せずプロライダーになるという決断にも反対はしなかった。今年から生活のすべてが世界チャンピオンになるための時間になった。すでに、中学生のときからトレーナーの指導を受けて身体作りに励んでいる。いまは、なにもかもが家族の援助があって実現していることだが、その期待に応え続けようと、一戦一戦を全力で戦い、そして成長を遂げている。

夢という言葉は使わず、すべて目標という言葉で語る。

「ルーキーズにチャレンジした去年は、ヨーロッパのサーキットが初めてだったし、それにヨーロッパのライダーはアグレッシブだったので、ちょっと引き気味だった。でも、今年はルーキーズでは自分がトップだと思っていたし、自信もあった。チャンピオンを獲って当然だと思っていた」

「一年目のCEVは初めてのワークスバイク(グランプリと同じ仕様のバイク)でセッティングにちょっと悩んでしまったけれど、だんだん良くなっている。今年はチャンピオンの可能性はなくなったけれど、残りのレースで優勝を狙いたい」

「来年はMotoで1番高いレベルのグランプリで戦いたい。グランプリでは、学ぶというよりは、いままで学んできたことを生かしてトップ争いしたい。ルーキーズは、自分にとっては、ひとつのステップ。Moto3、Moto2、MotoGPとあるので、気をゆるめずに頑張っていきたい」

 これが10月に16歳になったばかりの佐々木のコメントである。今年の初めにも書いたが、彼は、夢という言葉は使わず、すべて目標という言葉で語ってくれる。1年後、2年後にどんなライダーに成長しているのだろうか。これもまた、今年の初めに書いた言葉だが、実に楽しみな選手である。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo