負ければ全てが終わるこの土壇場で、DeNAのアレックス・ラミレス監督は、なぜ第3捕手の嶺井博希を使ったのか?

 クライマックスシリーズ、ファーストステージ第3戦。2位の巨人に0.5勝のアドバンテージがあり、3位進出のDeNAは勝つことでしかファイナル進出の道はない。そんな状況の中、3−3の同点で迎えた8回のDeNAの攻撃だった。

 この回先頭の4番・筒香嘉智の内野安打から無死一、二塁のチャンスを作ったが、6番の倉本寿彦の投ゴロ併殺で2死二塁と状況は変わった。巨人のマウンドは左腕の山口鉄也。ここでラミレス監督は代打の1番手に後藤ゴメス武敏内野手を送ったが、巨人ベンチは当然塁を埋めるために歩かせて、一、二塁となった。残る右の代打には前日に先発出場した白崎浩之もいる。だが、ここで指揮官が指名したのが嶺井だった。

嶺井起用にいたる、練習での振りとリードの違い。

 今季レギュラーシーズンでの出場はわずか11試合で、放った安打は5本。しかも2番手捕手に高城俊人がいるため3番手の嶺井は6月15日に一軍初昇格して7月14日にファーム落ちすると、シーズン終了間際の9月28日に再昇格するまで二軍暮らしが続いていた。

 CSでシーズンとは違い捕手3人制となって、巡ってきた晴れ舞台である。

「試合前の練習からバットが振れていた」

 ラミレス監督は言う。

「だから早い段階から、(代打で)使うので準備をしておくように伝えていた」

 実際にお呼びがかかったのは終盤の8回だったが、もちろん準備は整っていた。そして、このとき指揮官が嶺井を指名したもう1つの理由は、この打席だけではなく、延長を想定した守備があったからだったという。

「高城は(先発した)戸柱と似たような配球になる。嶺井は2人とは全く違うリードをしてくれると思った」

 これがこの土壇場で嶺井を使った最大の根拠だったのだ。

ラミレス監督の深謀遠慮でファイナルステージへ。

 8回の打席は二塁へのフライに倒れて、結果を残せなかった。ただ、指揮官にとってこれはある意味、想定内のことだった。その裏からマスクを被り、リリーフ陣を引っ張って巨人に決勝点を許さない。

 それが嶺井を使った狙いだったのだ。

 延長11回に回ってきた2度目の打席で放った、歓喜の左翼線決勝打。これは指揮官も想像していた訳ではなかった。ただ、負ければ終わりの土壇場の試合、しかも8回のあの土壇場の場面で嶺井を使う根拠は確実にあった。

 だからこの結末も……必然だったということでもある。

 同じ投手陣でも、捕手のリードによって全く違う顔になることがある。捕手を替えることで、投手の違う顔を引き出そうとしたラミレス監督の深謀遠慮で、DeNAはファイナルステージへと駒を進めることになった。

巨人は課題の捕手問題がCSでも出てしまった。

 それでは、敗れた巨人はどうだったのか?

 敗因は様々ある。ただ、その中の1つとして、改めて捕手・小林誠司の課題が浮き彫りになったシリーズだったのも確かである。

 今年の巨人で最も成長した野手を挙げるとすれば、この小林ではないだろうか。

「捕手を固定すること」――。

 開幕前にチームの課題の1つをこう語っていた高橋由伸監督も、開幕直前の阿部慎之助の故障を受け、肚を据えて小林の育成に着手した。

 その起用に応え、小林自身も課題だったリード面で投手陣の信頼を得られるようになり、成長の足跡を残したシーズンでもあった。

 ただ、ミスを許されない短期決戦で、改めて小林が克服しなければならない課題がクローズアップされてしまった。

投手と配球の意図が共有できていなかった場面が。

 シリーズ開幕前のミーティングで徹底したのが、シーズン中に合わせて19本塁打を浴びている2番・梶谷隆幸、3番のホセ・ロペス、4番・筒香と並ぶDeNAの主軸打者への対策だ。

 ところが蓋を開けてみるとこの3人にシリーズ4本塁打を浴び、特に第1戦では3回に梶谷に同点弾を浴びると、1点リードの6回には最も警戒していた筒香に逆転2ランを浴びた。

 ここが小林の責任が問われるところだった。

 場面は6回2死一塁。カウントは3ボール1ストライク。小林本人が「歩かせてもいいと思った」場面で、マウンドのマイルズ・マイコラス投手は「自分は攻めるつもりだった」と全く逆のことを考えていた。配球への意図を共有できないままに、中途半端な外角へのチェンジアップを要求した。それが甘く入って痛打されている。

「徹底すべきところは徹底すべき場面。シーズン中と同じことになってしまった」

 試合後に振り返ったのはヘッドコーチの村田真一だったが、シーズン中から指摘されていた配球の詰めの甘さ、投手とのコミュニケーション不足が勝負どころで出てしまったわけである。

短期決戦が捕手の戦いだとしたら……。

 またシリーズでは合わせて3つの暴投があり、第2戦では2回の暴投から先取点を奪われているのも見逃せない。

 これもまたシーズン中からの課題だった軽率なキャッチングと、ワンバウンドしたボールに対して体で前に落とすブロッキングの悪さが大事な場面で出たものだった。

 正捕手として3試合にフルでマスクを被って臨んだシリーズ。9打数で安打はわずかに1本きりだったのは、ある意味指揮官も想定内だったかもしれない。ただ、打撃には目をつむっても、しっかり守って投手陣をリードしていってくれるという信頼感こそが、高橋監督が小林を使う根拠だったはずなのである。

 短期決戦が捕手の戦いだとしたら、その捕手起用への根拠が最後に決まったのがDeNAだった。そしてその捕手で計算外があったのが巨人だった。

 ならばこの結末も、また必然と言えるのかもしれない。

文=鷲田康

photograph by Naoya Sanuki