ここまで五分に渡りあう試合も珍しい――。

 思わずそうつぶやいてしまうほど、今年のセ・リーグのCSファーストステージは拮抗した展開が続いた。

 初戦はベイスターズが、第2戦はジャイアンツが逆転勝利を挙げ、1勝1敗で迎えた第3戦。試合は3−3のまま延長戦にもつれこんだ。11回表、澤村拓一がピッチャー強襲の打球を右足に受けてマウンドを降り、急きょ登板した田原誠次から途中出場の嶺井博希が値千金の適時打を放った。3日間29イニングに及ぶ激闘は、この一打で決着した。

 アクシデントがからんだ熱戦の結末は、あるいは「時の運」とまとめてしまっても間違いではないのかもしれない。だが、勝負の分岐点を定めるならば、やはり采配にあったのだと思う。

 明暗がくっきりと分かれたのは第3戦も終盤に差し掛かってからだった。

「嶺井がベンチに入っていた」ことが称えられるべき。

 すでに指摘されているとおり、9回裏、内野安打で出塁した村田修一を下げて代走に送り出した鈴木尚広がまさかの牽制死となったのは、試合の流れを変える大きなワンプレーだった。第2打席で左ひざに死球を受けて悶絶しながら、次の打席で同点ソロを放った村田は、この試合のキーマン。その村田を代えてでも1点を取りにいった高橋由伸監督の勝負手は、結果的に裏目に出た。

 一方のラミレス監督は8回、正捕手の戸柱恭孝に代えて嶺井を起用した。代打の切り札とは呼べない第3捕手が最後に大仕事をやってのけたことで、その采配は「ズバリ的中」と称賛を浴びた。

 だが、真に称えられるべきは、「嶺井を起用した」こと以前に、「そこに嶺井がいた」という事実ではないだろうか。

 ベイスターズは今季、ほとんどの試合を戸柱と高城俊人の2捕手体制で戦ってきた。だが超短期決戦のCSファーストステージには、3人目の捕手として嶺井をメンバー入りさせたのだ。

「打てる捕手」という選択肢を周到に用意していた。

 引き分けでも負けと同等の3位ベイスターズとしては、接戦のまま終盤に入る試合展開となった場合、戸柱を交代させざるをえないケースは十分に考えられる。しかし第2捕手の高城は、自身も「課題は打撃」と認めるように、打席での期待感は高くないのが現実だ。捕手が高城に代わってから、たとえば同点の延長10回、11回に打席が回ってきたとしても代打を送ることはできない。

 嶺井は今季11試合の出場ながら、15打数5安打と少ないチャンスでも一定の結果を残している。指揮官は、まさに第3戦の終盤のような局面に備えて、「打てる捕手」という選択肢を周到に用意していたことになる。

 加えて、この第3戦で浮き彫りとなったのは、ラミレスの「勝負師」としての一面だった。

 鈴木を牽制で刺した左のセットアッパー、田中健二朗の起用法が象徴的だ。

ワンポイントが多い田中に“イニングまたぎ”させた。

 田中は今季、チーム2位の61試合に登板し、大きく飛躍を遂げた中継ぎの一人。だがワンポイントの起用も多いため投球イニング数は44と、登板試合数を下回っている。

 ラミレスはその田中を、サヨナラと背中合わせの9回のマウンドに送り出した。田中は鈴木を刺してピンチの芽を摘むと、回をまたいで10回も三者凡退に打ち取っている。レギュラーシーズン中、1回1/3といった回またぎのパターンはあったが、まるまる2イニングを田中が任せられた場面は記憶にない。7回か8回が主戦場の田中に、9回と10回を託すというのもかなり異例の策だった。

 右のセットアッパー須田幸太を負傷で欠いているというブルペン事情もあっただろうが、「シーズン中と同じ戦い方をする」と“平常運転”を基軸とする一方で、ここぞの場面で大胆な策を打つ“勝負師”ラミレスの顔をのぞかせる選手起用だった。

 梶谷隆幸は初めてのCSを「点が入るたびにガキのように喜んでましたね。甲子園を目指して戦っていた高校時代みたいに」と表現していた。梶谷だけでなく多くの選手が、負ければ終わりのヒリヒリした感覚を久しぶりに味わい、ファーストステージではそれがいい方向に、気力の充実という形で出ていた。センバツ優勝投手の田中も第1戦が終わった後、「いつもとは違った楽しさがあった」と充実感を口にしていた。

逆境だらけの関門を抜けるためには1、2戦目が大事。

 だが、問題はここからだ。

 ファーストステージの3試合は、結果として総力戦になった。井納翔一、今永昇太、石田健大と信頼度の高い先発を3枚費やし、田中をはじめ、砂田毅樹、三上朋也、山崎康晃のリリーフ陣も重圧の中で登板した。また第3戦の第1打席で左手甲に死球を受けて交代した梶谷のケガの状況も気がかりだ。

 ファイナルステージはしばしば、間隔が空き、試合勘の鈍った王者と、勢いに乗る下位チームという構図で語られるが、ベイスターズが広島に持ち込むものは、果たして勢いなのか、それとも感じたことのない疲労感なのか……。

 セ・リーグ優勝のカープには1勝のアドバンテージが与えられる。広島では、東京ドームのように球場の半分を青く染めることも難しいだろう。

 逆境だらけの関門を抜けるにはまず、ジョンソン、野村祐輔の先発が予想される第1、2戦で、少なくとも1つ勝つことがカギになる。

 レギュラーシーズンでは、実に19.5ゲームの差が開いた。だがCSは広島に1勝のアドバンテージこそあるものの、“ゲーム差1”からの仕切り直し。そう開き直れれば、奇跡が起こる可能性は十分にある。

文=日比野恭三

photograph by Naoya Sanuki