アウェイでオーストラリアと引き分けたのだから、1−1というスコアは悪くない。日本代表の公式戦は、とりわけW杯予選は、結果がすべてである。

 だが、どうにもすっきりしない。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督にとっては、マネジメントの難しいゲームだっただろう。海外組の多くがトップフォームでなく、6日のイラク戦後には酒井宏樹が累積警告で、長友佑都が練習中のアクシデントで離脱した。チームに帯同した岡崎慎司も、負傷を抱えていた。オーストラリア戦への準備の時間も、選手起用の選択肢も限られたなかで、指揮官は本田圭佑を1トップに据える4-2-3-1のシステムに辿り着く。

守備的に戦った分、限られた浅野の出場時間。

 左サイドバックに起用された槙野智章は、浦和レッズで見せている攻撃への関わりを封印し、最終ラインに決して穴を開けないことを最大のタスクとしていた。同時に、2列目左サイドの原口元気、トップ下の香川真司に絶え間なく声をかけ、守備の局面で彼らを動かす役割も担っていた。

 長谷部誠とボランチを組んだのは、柏木陽介ではなく山口蛍である。ふたりのプレースタイルを比較すれば、守備に力点を置いたのは明らかだ。

 2列目右サイドが小林悠だったのは、オーストラリアの高さをケアするためでもあった。1トップの本田も同様である。小林が後半37分まで、本田が同39分までピッチに立ったのも、リスタートの局面で高さを担保するためだった。小林は長身ではないものの、空中戦で強さを発揮できる。ケガで交代を余儀なくされなければ、清武弘嗣との交代はもっと遅かったかもしれない。

 3枚目の交代カードは丸山祐市だった。退いたのは原口だ。FC東京所属のセンターバックは、最終ラインではなく背番号8のポジションへ入った。ハリルホジッチ監督が言うところの“タクティクス・チョイス”である。

 2点目を許さないために、数多くの予防線を張り巡らせたのだ。その代償として、浅野拓磨の出場は10分以内に限られ、所属クラブで好調の齋藤学はイラク戦に続いてウォーミングアップだけで試合を終えた。

 ディフェンスに体力を費やす時間が長くなった後半は、クロスボールに飛び込む選手が2人だけというシーンもあった。高精度のクロスがピンポイントで合わない限り、2点目など求められない。だからといって、テクニカルエリアのハリルホジッチ監督が不満を表すことはなかった。ここまでリアリストに徹した采配だったのだから、勝点1を持ち帰るのも当然だと思えてくる。

オーストラリアはそんなに危険な相手だったのか?

 しかし、根本的な疑問が拭えない。10月11日にメルボルンで対峙したオーストラリアは、ここまで守備を意識しなければならない相手だったのだろうか。ノーマルな戦いかたで挑むことが、大きすぎるリスクをはらんでいたのだろうか。

 僕にはそうは思えないのである。

 ロシアW杯のアジア最終予選が開幕してから、日本代表の試合内容に前進を感じることができずにいる。ハリルホジッチ監督が目ざすタテに速いサッカーが、悪いというつもりはない。世界のトップ・オブ・トップではない日本のような国が、W杯で成功を収める手段のひとつとしては成立するものだ。

 ただ、ゲーム体力の鈍っている選手に何度もスプリントをさせるのは実効性に乏しいだろう。もっとも問題なのは、日本人が得意ではないプレーが増えてしまっていることだ。

 攻撃陣が相手に潰される場面が多いのは、ゲーム勘とゲーム体力の欠如に加えて、選手同士の距離が遠いからである。ワンタッチでボールをさばけるサポート関係が生まれていないから、体格差や肉体の強さが局面の攻防にそのまま反映されてしまう。ボールがスムーズにまわらず、攻撃がスピードアップしないのだ。

 日本サッカーが大切にしてきたはずの「連動性」や「距離感」は、攻撃面において完全に失われていると言ってもいい。

代表チームには「内容」も必要だ。

 ここまで4試合で2勝1分1敗という成績は、ベストではないものの許容範囲ではある。このところ騒がしかったハリルホジッチ監督の進退問題は、ひとまず先送りされるだろう。

 しかし、イラク戦の勝利とオーストラリア戦の引き分けで、チームを取り巻く状況は改善されているのか。UAE戦の黒星に端を発した停滞ムードを、払拭することができているのか。

 否、そうではない。

 代表チームは結果がすべてだが、内容を全く問われないわけではないだろう。

 ここで言う内容とは「美しさ」や「見栄え」といったものではなく、「継続性」とそれに付随した「積み上げ」である。

「耐えてしのいだ勝点1」と受け止めていいのか。

 タテに速い攻撃で決定機を作れず、日本サッカーと日本人の長所を失ってもいるいまのサッカーに、「継続性」を感じるのは難しい。絶対評価としては積み上げているものがあるかもしれないが、グループ内の相対評価としてチーム力が上がっているのか、オプションが増えているのか、選手層は厚くなっているのかを問うと、すべてに疑問符がつく。

 W杯出場がこのチームの最終到達点なら、オーストラリア戦の勝点1を額面どおりに受け入れられる。『耐えてしのいだ勝点1』といった見出しも使える。

 このチームの最終的なターゲットは、W杯の連続出場をつなぐことではない。ハリルホジッチ監督が日本へやってきたのは、ロシアW杯で上位へ進出するためだ。そのための総合的なビジョンと、選手選考と、1試合ごとの戦略と、選手起用を、最終予選から見せていってほしいのである。

文=戸塚啓

photograph by Takuya Sugiyama