ドラフト本番10日前。

 8日(土)から10日(月)の連休3日間、各地の球場ではスカウトたちの表情が一段と真剣味を増したように見えた。

 8日には、ここに来て1位重複も見えてきた桜美林大・佐々木千隼投手が、今年7完封目をリーグの王者・東海大相手に果たしてさらに評価を上げると、10日には田中正義投手との2本柱で創価大を支える池田隆英投手が杏林大を7回コールド無失点に抑え、持ち味の速球もコンスタントに140キロ後半をマーク。共に、1位候補としての評価を上げた。

 20日のドラフト会議を控えて、今週、来週は各球団とも最終の「スカウト会議」が開かれる。

 この時期、公式戦が行われるのは大学野球だけだ。それだけに、この時期の活躍は印象が強烈で、直接ドラフト会議の順位に関わってくる。

 担当地区の候補選手について、挙げるか消すかの決断、そして他球団の指名情報の収集。ドラフト本番まで、スカウトたちに気の休まる時はない。

ドラフト直前の心境をスカウトに聞いてみた。

 そんな中、ドラフト10日前のスカウトたちの心境、感慨について、現場の球場のスタンドで聞いてみた。

「迷うんですよ、この時期は……」

 すぐに返ってきた。

「ものすごく迷います。この選手はだいじょうぶ、こいつはいける! 9月までは決めてるんです、自分の中で。それが10月になって、ドラフトがだんだん近づいてくるに従って、自分にも選手にも疑いを持つようになる。たとえば、いいキャッチャーだな、と思って最終のリストまで残しておいた選手を、これが最後だと思って見に行った試合で、ズボンのポケットにしょっちゅう右手を突っ込んでるんで、あいつ手の平に汗かく体質なんとちがうか……みたいにね」

 何度も何度も見たはずなのに、最後の最後で、とても困った“特徴”が見えてしまったり。

消すか挙げるか迷ってドラフトの日が来る事も。

 それとなく監督に訊いても判然とせず、最後の手段と「ドラフト、どうなるかわからへんけど、練習しとけよ」と激励の言葉をかけて握手をしたその右手が、やはりじっとりと濡れていて、それで消した選手もいたという。

「こういう選手がいたら、チームにとってはものすごくゲームがしやすくなるはずだけどなぁ……。だけど“一芸タイプ”で、レギュラー獲れる選手じゃない。大企業に勤めていて、将来的にも安定しているわけですから、プロに引っぱって、もし失敗した時のことも考えたりしますよね。プロ野球、プロ野球言ったって、親会社で比較したら、社会人のほうが断然大きいでしょう。どうしようかな、どうしよう、って迷っているうちに、ドラフトの日になってしまった。そういう選手もいますね。迷って迷って、消したんじゃない。消してないんですよ、迷っているうちにドラフトの日が来てしまったんですよ」

 だからこそ、いつまでも心に引っかかっているという。

1年前に“保留”した選手についての後悔が出る時期。

「去年迷って“保留”みたいにした選手たちが、1年経って、1つ年をとって、社会人だと26、27、28。今度は、年齢的に推せなくなってくるんですよ。去年獲っておけば……って、シーズンが終わりかけるこの時期になって、後悔がはっきりしてくる。

 梅津がいれば、ウチのショートがケガしたあの時に、そのままスッポリはまってポジションをカバーしてくれただろうな。ウチのゲーム見ていて、3点ぐらい追いかけてる場面で、ランナー一塁で、チャンス広げたいな…というケースで、ああ青柳みたいなバッターがいれば、セカンドの頭にカチーンと打って一塁、三塁。最悪、進塁打も打てて。ああ……みたいなね」

NTTの梅津は、菊池涼介タイプの遊撃手。

 NTT西日本・梅津正隆遊撃手(30歳・174cm73kg・右投右打・九州共立大)。

 小柄でも走・攻・守の瞬発力は抜群。芝生に入ってポジションをとり、カーンと打球が飛んでくれば、その深い位置からものすごいダッシュで突っ込んで、あっという間に捕って投げて、一丁あがり!

 その一瞬のスピードのすごいこと。三遊間の深い位置からも、矢のような送球で一塁に刺す鉄砲肩も兼備して、華のあるフィールディングで内野を締める。

 今のプロ野球なら、広島・菊池涼介タイプの遊撃手だ。

「未練が残るのは、渋く光ってる選手のほうなんですよ」

 大阪ガス・青柳匠遊撃手(26歳・179cm72kg・右投右打・亜細亜大)。

 梅津とは対照的に、スマートな身のこなしで打球を吸収するようにさばくフィールディングと、変化球もしなやかなスイングで右中間、左中間へ弾き返すバッティング。ここ一番で、野手のいない場所を抜いていく勝負強さは、巨人・坂本勇人タイプだろうか。

 いずれも、都市対抗野球でおなじみの、社会人球界を代表する内野手にのし上がり、今もチームの中枢としてプレーを続けている。

「不思議と、その年の“目玉”みたいな大看板のことを、ああ、あの選手がいれば……みたいに未練を残すことはないんです。いつまでもこだわってるのは、梅津や青柳みたいな渋く光ってる選手のほうなんですよ」

井端や赤星のような選手を推せるかが腕の見せ所。

 スカウトたちが最も興味を持つのは、他球団の“下位指名”の顔ぶれだという。

「将来エースになったり、ローテーションピッチャーになったり、クリーンアップを打つような選手は、自分たち、わかってるから。逆に、チームになくてはならない脇役をどれだけ獲れるかが“腕”だと思ってます。井端(弘和・元中日、巨人)とか赤星(憲広・元阪神)だって4位、5位でしょ。彼らほどいかなくても、たとえば今の選手だったら、西武の渡辺直人みたいな選手を、どれだけ確信を持って推せるのか。それが、本当のスカウトの腕じゃないですかね」

 そう言いながら、今年もそのスカウトは最後の最後まで、迷い、悩んでいる。

「亜細亜の法兼(駿・内野手・高知高)なんか、絶対面白いと思ってるんだけど……。足もあるし、野球も上手いし、勝負度胸もあるし、肩も治ってるみたいだし。レギュラーはちょっときびしいですよ、プロじゃ。でもね、ああいうのがいると、ゲームになった時に、ほんとに重宝するんですよ」

文=安倍昌彦

photograph by Naoya Sanuki