なるほど、たしかに前線の組み合わせと配置は、理に適ったものだった。

 メルボルンで行なわれたロシア・ワールドカップ・アジア最終予選のオーストラリア戦。ケガを抱える岡崎慎司に代わって1トップに指名されたのは、これまで右サイドを任されてきた本田圭佑だった。

 センターバックのマークから逃れ、バイタルエリアに降りてきて前を向くという「ゼロトップ」としての本田の特性を生かし、両ウイングの原口元気と小林悠が飛び出していく――。

 原口の先制点は、まさに、元々トップ下の選手がトップに入ることの利点によって生まれたものだった。オーストラリアのセンターバックと中盤の間で浮いた本田が長谷部誠から縦パスを引き出すと、そのままボールをやり過ごして前を向き、タイミングを見計らって原口へとスルーパスを繰り出した。

 この形は練習で試していたものだったという。「俺が持ったとき、元気はいつも早く動き出す傾向があったので、もうひとつ遅れて出ていってくれと話していた」と明かした本田は、「こんなにすぐ結果として表れるのは珍しい」と嬉しそうに語った。

サイドで感じた「下手になってるんじゃないか」。

 本田がセンターフォワードに入るのは昨年11月のカンボジア戦終盤以来だが、先発出場となると、2012年10月、ザックジャパン時代のポーランドでのブラジル戦まで遡らなければならない。

 ぶっつけ本番に近い状態で、アシストという結果を残すのはさすがだが、衝撃的だったのは、ミックスゾーンで語ったこんな言葉だった。

「サイドをやっていると、自分が下手になっていっているんじゃないか、って思うときがあるんです」

 かつての本田はピッチの中央でプレーしていて「いかに取られないか、いかに相手を引き出して食いつかせて、ちょんちょんとやるか」に重きを置き、ゲームメイクの役割を担ってきた。そこでのプレーは、ミスをしないというのが前提だ。

 一方、サイドでは、ドリブルで仕掛けるといったリスクを負ったプレーが求められ、必然的にボールを失う機会が増えていく。「下手になっていっているんじゃないか」というのは、それゆえの発言だった。

中央でのプレーで本田が取り戻した自信。

 だが、オーストラリア戦で久しぶりにピッチの中央でプレーし、スルーパスを通したり、香川真司らとワンタッチのパス交換を楽しんだことが、本田の不安を和らげた。

「年が経つごとにサッカーはうまくなるって言うけど、逆に俺の場合は下手になっているんちゃうかなっていうのを安心させる、今日の真ん中でのプレーでした」

 振り返れば、ザックジャパン時代、トップ下でのプレーに強いこだわりを持っていた本田が日本代表の右サイドでプレーするようになったのは、ACミランでの右ウイング起用がきっかけだった。ブラジルW杯後に就任したハビエル・アギーレが、ミランでの起用法に倣って当たり前のように右ウイングで起用するようになり、「本田と香川、どちらがトップ下に相応しいのか」という論争に、終止符が打たれた。

 実際、本田も期待に応え、日本代表では右サイドからゴールを叩き込んできた。

 だが、縦に急ぎすぎる場面が多く、攻撃に緩急やリズムを作れない今のハリルジャパンを見るにつけ、本田にゲームメイクの役割を託し、トップ下でプレーさせたほうがいいのではないか、と思えてくる。本田自身が右サイドでプレーしていて「下手になってきている」と感じているのであれば、なおさらだ。

多くの選手が口を揃える「急ぎすぎ」問題。

 縦に速い攻撃に傾倒しすぎている――。これこそ、ハリルジャパンの抱える大きな課題だ。何人もの選手たちが、似たような言葉を発している。

「縦に急ぎすぎているところがあった。それも大事で(原口が決めたイラク戦の)1点目は理想の形でしたけど、毎回できるわけではない。ボールを落ち着かせて保持しながら攻めていくのが、これから大事になってくる 」(清武弘嗣/イラク戦を終えて)

「ポゼッションという点では、もう少し落ち着く時間があってもいいのかなって思います。そこはチームの中でもけっこう話しているところであって、時間を作るということは、もう少し考えてやりたいと思います」(長谷部誠/オーストラリア戦に向けて)

「繋いでもいいのに、って思うところでも簡単に蹴ってしまった。攻撃の部分でもっと自由に、いろいろやってもいいのかなって思います。まあ、今日は守備に重きを置いていたから、仕方ない部分もありますけど」(山口蛍/オーストラリア戦を終えて)

「チームとしてどう攻撃していくのかという点で大きな課題が残っていると思うので、意思統一の改善が必要だと感じています」(香川真司/オーストラリア戦を終えて)

速攻と遅攻を使い分けるコンダクターとして本田を。

 日本のホームでありながら、引いて守るのではなく真っ向勝負を挑まれ、苦戦したイラク戦のあと、本田もこんなことを語っている。

「監督の言っていることは理解できる。でも、監督の言っていることだけでサッカーは絶対に……。それ以外のシチュエーションが起こるので、選手各々がピッチで感じてやらないといけない。ベースを作るのは監督だけど、そのベースに乗りながらプラスアルファとして選手がピッチの上で自分の得意とするプレーを、その場、その場で加えていくことを意識してやらないといけない」

 また、こんなことも話している。

「本当は相手がウザいと思うぐらい、こっちが回さないといけない。相手を徹底的にバカにするようなプレーは、僕やヤットさん(遠藤保仁)の真骨頂で得意とするところ」

 ところが、ハリルジャパンに遠藤はいない。本田自身も右サイドでプレーしていて、サイドで起点になったり、フィニッシュに関わる役割を求められているから、攻撃にメリハリや緩急をつけたり、攻撃のリズムを変える役割がこなせない。

 速攻と遅攻を使い分けるコンダクターとして、本田にゲームメイクの役割を――。

 長谷部のパートナーとなるボランチを柏木陽介にするのか、山口にするのか、ウイングに小林、原口、清武、香川、宇佐美貴史、齋藤学らの中から誰をチョイスするのかは、対戦相手、ゲームプラン、試合状況、ホームかアウェーかによって変えればいい。

 本田のトップ下への再コンバート――。そこに、ハリルジャパンの抱える課題を克服するカギがあるのではないか。

文=飯尾篤史

photograph by Takuya Sugiyama