この夏スペインのセビージャへ移籍した清武。開幕戦こそ1ゴール1アシストと活躍したものの、元フランス代表のサミル・ナスリをはじめ、ビッグネームの選手たちが揃うチームで、厳しい競争にさらされている。代表ウィーク前の10月1日のリーグ戦ではベンチ外。試合が行われた日には、日本へ向かう飛行機に乗り込んでいた。

 Jリーグに留まらず、ニュルンベルク、ハノーファーとドイツへ来てからも、清武は常にチームの中心選手として輝いてきた。昨季はハノーファーで背番号10を担い、「僕にとっての10番像はチームを勝たせる選手。それはパスだけでなく、FKでもそうだし、とにかくチームを勝利に導くのが10番だと思う。そういう10番になりたい」と話していた。しかし、クラブは2部へ降格。10番としての仕事ができなかった。

セビージャでの競争は想像を越える厳しさ。

 ヨーロッパリーグ3連覇のセビージャからの獲得オファーを、清武は迷うことなく受け入れた。過去スペインリーグへ挑戦する日本人もいたが、そこで活躍した選手は少ない。「レギュラー争いをやってみたい」と清武は、厳しい競争を承知でセビージャへと飛び込んだ。

 ライバルたちのレベルの高さに圧倒されることもあっただろうが、自信を失うこともなかった。逆にここでもやっていけるという強い手ごたえを感じていたのかもしれない。しかし、9月の代表ウィークをはさみ、徐々に出場時間が減っていった。リーグ戦でもチャンピオンズリーグでもベンチスタートが続き、とうとうベンチ外に。

「清武もナスリと競争しなければいけない。CLに出ているような強豪クラブで、彼らは競争している」と9月29日のメンバー発表会見でハリルホジッチ監督は語っている。清武に限らず、香川や本田、岡崎、長友など、欧州組の名をあげて「狂ったように競争しなければならないし、狂ったようにトレーニングしないといけない」とも話した。

 長谷部も所属するフランクフルトで「チーム内の競争という感覚はあるけれど、ドルトムントとかレスターとか、セビージャとか、そういうところの競争とは全然違う」と語っている。

プロサッカー選手が、ベンチ外に納得するはずがない。

 しかし、幾らライバルがナスリだと言っても、ベンチスタートやベンチ外という現状に清武が納得できるはずはない。なぜなら彼がプロサッカー選手だからだ。レギュラーの座を掴めないという日々は、清武にとってプロになって初めての経験だろう。

「毎日レベルの高い競争ができているし、良いトレーニングもやれている。でも試合に出られないもどかしさも味わっている。試合数が多いと、チームの練習はどうしてもコンディション調整のメニューが多くなる。そういうなかで、自分で考えてトレーニングをしなくちゃいけない部分も増えました」

 いかに良いコンディションを保っていくのか。それは身体だけでなく、メンタル面でも同様だ。

 ベンチ外という現実はひどく清武を落ち込ませた。承知の上だった厳しい競争……しかし、実際にその立場を思い知らされ、自分を支える自信をいかに保っていくか、新たな挑戦の過酷さを味わった。だからこそ、フレッシュな気持ちで、もうひとつのチームでの戦いに挑もうと決めた。

「代表へ向けて、気持ちを切り替える」

 ネガティブな感情を振り払い、清武は日本代表へ合流した。

イラク戦の決勝点を生んだ清武のFK。

「引き分けだったら本当にヤバかったし、勝てて良かった。今日の試合はそれに尽きる」

 10月6日、W杯アジア最終予選対イラク戦。ロスタイムでの山口の劇的弾で勝ち点3を掴んだ日本代表。その得点の起点となるFKを蹴った清武は、この日はトップ下のポジションで先発。原口の先制点のアシストも彼の仕事だった。

 いったん本田にパスを預けて、その本田を追い越し、角度のないところで中央にクロスボールを入れる。

「アジアレベルのDFだと、ああいう風に出して追い越してという動きにはついて来ない。わかっていたことだけれど、元気が決めてくれて良かった」

清武が手に入れた、規律と自由のバランス。

 正確なプレースキックはもちろん、試合をコントロールするパスや前線への動きだしなど、清武はぞんぶんにその力を発揮した。しかし、戸惑いもあった。

「ハリルさんのサッカーでのトップ下はボールをたくさん触るという感じにはならない。そういう中でどうやってリズムを作るのか、出して動いて、出して動いてというのを続けるしかない。今まではそういう部分で結構考えながらプレーしていました。

 監督の考えもわかる。だけど、ボールに触りたい、リズムを作りたいという気持ちもある。我慢して、我慢して、落として、待って。貰って落として、背後へ走るというのを監督は求めている。それをやっているとボールタッチ数は少なくなるし、自分のイメージというのもある。そんな中で試行錯誤というか、考えながらプレーしている部分があります。

 でも今日は、そういう規律を守りながらも、少し自由にプレーできた。(香川)真司君が試合前に『リラックスしてやればいい』と言ってくれた。それで気持ちが切り替えられたし、伸び伸びプレーすることができました」

同世代の山口のゴールは清武の力になった。

 主戦場と言えるMFのポジションでの先発。指揮官の要求するプレーにとどまらず、自身の個性をプラスすることは、ライバルとの違いを示すことに繋がる。そして、元チームメイトの山口のゴールが清武の力になっていた。

「試合に出られないもどかしい気持ちを抱えながら、代表に入って5年間やってきた。これからどうなるかわからないけれど、試合に出たときに何をするかというのは大事だし、今日の蛍みたいに途中で出て、ゴールを決める。それは僕たちにとってもすごいモチベーションになる。試合に出ていない選手が、起用されたときにしっかりプレーできることがチームの底上げにも繋がると思うから」

 先制点は決めたが、早い時間帯に追加点を決めることができなかった。「後半は攻撃のリズムが悪くなった」と反省しながらも、清武は前向きな気持ちで、オーストラリアへ向かった。

オーストラリア戦、勝利は難しくないように見えた。

 オーストラリア相手に日本は、4バックのDF陣やボランチだけでなく、両サイドアタッカー、そしてトップ下の香川までもが自陣で守備に奔走。その成果もあり、オーストラリアが得意とするサイド攻撃を封じ込め、ロングボールを蹴らせる機会を奪うことに成功していた。

 なにより日本は5分に原口のゴールで先制している。堅守を誇る相手の攻略に成功していた。52分にPKを与えてしまったが、それでも時間はまだたっぷりと残っている。攻め急ぐ相手からボールを奪い、カウンターで仕留めることもできそうだった。

 日本にはドリブルやスピードに長けたFWがベンチに残っている。そして、決定機を演出することが得意なパサーもいる。彼のプレースキックはチームナンバー1の正確性と破壊力を持っている。

小林のアクシデントで清武がピッチに立ったのは82分。

 しかし、ハリルホジッチ監督はメンバー交代という采配をなかなか振らなかった。どんどんと自陣へ押し込まれて、跳ね返すことだけで精一杯。そこから攻撃に出ることすらできない日本代表を、指揮官はいらだちと不安気な表情で見ているだけだった。

「中盤も最終ラインぐらいまで下がってしまって、そこから押し上げていくには前線との距離があり、攻撃の筋道が見えなかったのは大きな課題」と香川も試合後に振り返っている。

 やっと指揮官が交代カードを切ろうとしたのは、80分を過ぎたあたりだった。当初は浅野をベンチに呼び寄せていたが、小林が足をつりピッチに座り込んで立ち上がれなくなると、慌てて清武との交代を指示したのが82分。いったんは交代を見送った浅野を本田に代えてピッチへ送り出したのが、84分だった。

 その間にもオーストラリアは途中出場のケーヒルがシュートチャンスを2度迎えていた。わずかな残り時間だったが、日本のピンチは相変わらず続いている。右アウトサイドに入った清武も自陣での守備に追われていた。

短い時間で示した“攻撃の道筋”。

 チームの守備バランスを崩すことはできない。しかし、浅野が入った直後の85分、そして89分と清武は低い位置からでもオーストラリアのDFラインの裏を狙い、正確なロングパスを供給している。2本ともオフサイドになってしまったが、香川が見えなかったと語った“攻撃の道筋”を示した。

 そしてロスタイムには敵陣に攻め入り、原口に代わり逆サイドに立つ丸山へとパスを出す。丸山が折り返したボールを浅野が捉えたかに見えたが、相手DFへのファールとジャッジされた。

 小林の負傷で急きょ出番を手にした清武はわずか10分間の出場時間で何度も得点チャンスを演出し、個性を見せてくれた。イラク戦の山口のようなゴールを生み出すことはできなかったが、途中出場であっても、いや途中出場だからこそ、存在価値を示そうとアクションをし続けた。

「清武だったら……」というつもりもないけれど。

 試合はそのまま1−1のドローで終了したが、「勝ち点2を失った」、「勝てた試合だった」と指揮官をはじめ、選手たちが振り返っている。勝機を逸した原因はいくつも考えられるが、交代カードを切るのが遅すぎたことは大きな理由の1つだったと思う。

 ハリルホジッチ監督は試合後の会見で、守備面での浅野や齋藤などの経験不足が交代をためらわせたと話しているが、小林とて最終予選の経験が豊富だったわけではないだろう。そして、「もしかしたらもっとフレッシュな選手を入れるべきだったかもしれない」とも語り、自身の判断を悔いるような発言もしている。

 ハリルホジッチ監督が求めるサッカー、そのスタイルを体現しようと選手たちは懸命に戦っている。指揮官が自身の哲学を重要視するのも理解できるが、その結果、日本代表を構成する選手たちの個性や強み、武器を活かしきれていないのではないだろうか?

 オーストラリア戦のスターティングメンバ―に清武ではなく、香川を選んだのには監督なりのプランや思惑があって当然だし、「清武だったら……」というつもりもないけれど、もっと早い時間帯で清武を起用することで、試合の展開を変えることは可能だった。そのチャレンジを躊躇させてしまったのは、過去の代表での実績を含めて、清武への信頼度の低さにあるのかもしれない。

 そのことを最も強く感じているのは清武自身だろう。けれど、それが日本代表での立場であり、評価でもある。そういう現実を改めて思い知るオーストラリア戦だった。

もう若手ではない、ポジションを掴み取れ。

 そして、セビージャでも厳しい現実が待っている。

 調子を上げるチームメイト、結果を手にするチーム。そういう流れのなかで、チャンスを待ち続けなければならない。わずかでも、「しょうがない」と納得してしまえば、きっと競争の戦場の上で後退してしまうだろう。たとえベンチ外になったとしても「なぜ俺を使わないんだ!」という強い気持ちを示し続けることで仲間に脅威を与え、監督にとっても目を離せない存在で居続けなければならない。

 他の選手との違いを見せることも重要だし、周囲の印象や認識を変える振る舞いも必要だろう。何をすべきかを冷静に分析し、熱い闘争心でやるべきことを表現する。

 苦境のなかで、プライドと自信を磨き続けるそんなセビージャでの葛藤が、代表での競争にも繋がっていく。もう若手ではない。ポジションを掴みとる。その気概が清武のキャリアを変えていくはずだ。

文=寺野典子

photograph by Takuya Sugiyama