あのイケメンでクールな一色恭志(青山学院大)が優勝インタビューで嗚咽した!

 放送が終了した後、中継現場の話題は、レース展開や選手たちの走りっぷりより「一色の涙」に引き寄せられていた。

 力通り安定した走りで、危なげなく優勝テープを切った青学エースの一色。その走りに、なんら課題や問題はない。彼自身のレース展開に涙の理由は見当たらない。しかも、普段メディアでは笑顔さえあまり見せず、どちらかといえばポーカーフェイスで知られている。

 フジテレビのアナウンサー宮澤智さんの聞き方やタイミングが良かったのか。レース展開を振り返りながら、涙の理由を考えてみる。

 今季の大学駅伝開幕戦となった出雲駅伝。大学駅伝3冠と箱根駅伝3連覇を狙う青山学院大学が、前評判通りの強さで優勝した。

前門の虎、後門の狼に挟まれ、ミスができない状況。

 しかし、決して楽に勝てたわけではない。1区から3区の前半は、スーパールーキー鬼塚翔太、館澤亨次、關(せき)颯人を擁する東海大学に先行された。しかも、逆転予定だった3区のエース下田裕太がまさかの失速。東海大の1年生に力負けした。

 さらに、3位で追う山梨学院大は6区のアンカーにケニア人留学生のドミニク・ニャイロがいる。

「30秒差なら相手が一色でも逆転可能」というニャイロの実力は本物だ。

 青学にとっては、まさに“前門の虎(東海大)、後門の狼(山梨学院大)”である。

 前半先行された青学は、後半区間で1つでもミスをすれば敗北は免れない状況だった。そして、そんな薄氷のレース展開を原監督は予測していたのかもしれない。

 青山学院大のオーダーは、後半の4〜6区を4年生で固めた。4区は茂木亮太、5区はキャプテンの安藤悠哉、そして6区にエース一色だ。

2年時は箱根のアンカー、3年時は補欠にも入れず。

 茂木と安藤は4年生だが、これまで層が厚い青学で出番は多くなかった。茂木は大学1年で全日本大学駅伝のメンバーに選ばれたが、区間12位。その後は今回の出雲まで、駅伝メンバー入りしていない。

 5区の安藤は、箱根初優勝のアンカーでテープを切ったヒーローだ。

「優勝を機に人生が変わった」というコメントからも、当時の華やかな様子がうかがえる。しかし3年生だった昨季は、16人のメンバーにさえ選ばれなかった。前年のヒーローが、翌年は補欠にさえ入れなかったのだ。

 プロ野球で言えば二軍落ち。選手として一度勝ち得たプライドをズタズタにされるような屈辱を味わったことだろう。

 つまり一色を除く2人の4年生は苦労人ということだ。

 そして、這い上がってきた選手の気持ちは強い。

 5区の安藤は、残り1kmを切って東海大の三上嵩斗に一度引き離された。ところが、あと200mというところから息を吹き返した。怖いくらいの意地で奇跡の逆転を見せ、トップでアンカーの一色にタスキを渡したのである。

駅伝のラスト数百mは、20秒の差がつく恐怖のエリア。

 駅伝のラスト1kmは本当に辛い。そして怖い。

 酸欠状態で視界が狭くなる状態の中で、強い気持ちでラストスパートができる選手と、苦しさに耐えきれずズルズルとスピードが落ちていく選手の差は、残り数百mで20秒くらいつくことがある。

 東洋大のスローガン“その1秒を削り出せ”という意味はここにある。安藤が三上を逆転できた原動力は、3年時補欠入りさえできなかった悔しさ、キャプテンとしての責任感、そして、これで競技を引退していく覚悟、4年生の連帯意識。さまざまなものが混じった強い気持ちだったと思う。

 一色は、安藤からタスキを受け取ると叫んだ。

「お前のおかげだ!」

 そう、安藤の意地で東海大を突き放し、結果、山梨学院との差が1分に開いた。

“後門の狼”は見えないところまで遠ざかった。

 一色の涙は、前回の箱根連覇からの1年間、3連覇というとてつもないプレッシャーを背負う4年生たちのストーリーを物語っている。男の涙の1粒1粒に、1つ1つの出来事や思いが映し出されているのだ。

文=金哲彦

photograph by Toshihiro Kitagawa/Aflo