あれは2012年のドラフト会議だったか。阪神タイガースの和田豊監督が藤浪晋太郎の当たりクジを引いて世は騒然となった。

 甲子園を春夏連覇した大阪桐蔭のエース藤浪は、オリックス、阪神、ロッテ、ヤクルトの4球団の競合となった。当時の阪神はドラフト1位のくじ引きに12連敗中。おまけにその年に就任した和田監督は5位で終えるという低迷スタート。

「どうせ阪神はダメだろ」という空気のなか、見事に和田監督が当たりクジを引いたからもう大騒ぎ。阪神ファンの友人は「和田、今年一番の仕事や!」と興奮していた。

 なぜこんなことを思い出したかというと、高橋由伸である。

 10月20日に迫ったドラフト会議。巨人はくじ引きとなったら高橋由伸に“出馬”させたら面白いんじゃないか。最後ぐらい良いことがあるかもしれない。

高橋監督は、ドラフト会議では今年が“新人”。

 高橋由伸のこの1年は、それぐらい大変な1年だったと思う。

 そもそも去年のドラフト会議のときは監督に就任していなかった。原辰徳監督の急な退任や野球賭博事件で球団は揺れていた。巨人が監督不在でドラフト会議に臨んだのは41年ぶりという珍事態。

 つまり、高橋由伸監督にとってドラフト会議は今年が“新人”なのである。そう考えると俄然興味がわく。ルーキーの頃からホームランをかっ飛ばしていた由伸のくじ引き参戦を見てみたい。最後ぐらい良いことがあるかもしれない(また書いてしまった)。

 大豊作と言われる今年のドラフト会議。この時期はドラフト候補生を集めた紹介記事や雑誌を読むのが大好きだ。

 田中正義(創価大)、今井達也(作新学院高)といった投手も当然すばらしそうだけど、巨人若手野手陣の元気のなさを見た今年は吉川尚輝(中京学院大)や京田陽太(日本大)といった野手もチームの雰囲気を変えそうで魅力的。あーでもないこーでもないと寝る前に独りドラフトを妄想できるのが今の時期の醍醐味である。

ここでキラー由伸が炸裂してしまったら……。

 先ほど高橋由伸に参戦して欲しいとくじ引き前提で書いたけど、巨人は競合を避けるのではなく「美味いものは美味い」に、そろそろチャレンジして欲しい。今年のスローガンは「一新」ではないか。あ、なんか懐かしい……。

 前回私は「今年はまだクライマックスシリーズがある。由伸はどんな結果を残すのか。ファーストステージであっさり敗れることも予想できるし、その逆もあり得る。読めない」と書いた。

 代打の切り札として打席に入り、あっさりホームランを打つのは高橋由伸の「最近の」必殺パターンだった。ところが今年はまだそんなクールなキラーぶりは見せていない。広島と横浜のファンが25年ぶりの優勝や初のCS進出で歓喜してるなか、もしここでキラー由伸が炸裂してしまったらどうなるんだろう、というひそかなドキドキがあった。

 しかし結果はファーストステージで敗れた。

 今年の雰囲気からして負けるならあっさりを予想していたのだが、死闘を展開し、最後まで食らいついていたのが意外だった。これは来季への希望とも見えるし、考え方によっては絶望とも思える。

 その理由をこれから書いてゆこう。

巨人に、続けざまに不幸が襲いかかる!

 ファーストステージの前、ファンをザワザワさせた2つの「事件」があった。

 ひとつ目は「クルーズ 懲罰抹消 CSへ由伸監督大ナタ」(スポーツ報知・10月4日)である。

 クルーズに全力プレーが見られなくなったとして、CS前に二軍降格となった。言わば、チンタラ・クルーズに由伸監督が激怒したわけである。

 2つ目は「菅野 開幕回避も。わずか10分で帰宅 異例練習行わず」(同・10月7日)という事件。絶対エースが体調不良で大一番に登板できない。

 この2件はどう考えても暗いニュースで大ピンチだけど、私はけっこうワクワクしてしまったのである。

 というのも、ネガティブな要素が出し尽くされたら短期決戦ではガラッと逆の目が出ることがあるからだ。

一昨年の阪神の下克上を思い出したのだが……。

 たとえば一昨年の「阪神タイガース日本シリーズ出場決定」。

 阪神はシーズン終盤にヨレヨレとなり2位が危ぶまれた。しかし3位の広島が巨人相手の最終戦をエース前田健太で落とし、阪神の2位が確定。続く広島とのCSファーストステージでは「2試合の合計得点が1点だけ」で阪神は勝ち抜けた。

 するとおもしろいように阪神に勢いがついてファイナルステージで巨人に4連勝。下剋上を果たした。つくづく思ったのが「潮目が変わる」ことの不思議さだった。

 クルーズ抹消に菅野智之も離脱。

 こうなるとあとは「良いこと」しか起こらない。

 私はその可能性を考えた。

大勝負に「普通」に敗れてしまうチームになったのか。

 菅野離脱に関しては、1カ月前のこの記事も思い出した。

「対戦濃厚ベイと相性最悪…巨人菅野にCS第1S“温存”プラン」(日刊ゲンダイ・9月16日)

《「CS第1Sの最大3試合をエースの菅野を温存して勝ち上がれないかという声がある。原前監督時代の昨年も2位で『マイコラスか菅野のどちらかを第1Sで温存して最終Sの初戦に投入しよう』と温存案が話し合われたことがある。(略) 要するに中4日はムリなんだという結論に至ったんです」(チーム関係者)》

 つまり、広島とのファイナルステージを本気で勝ちに行くなら横浜戦はあえて菅野を温存するという作戦だ。どうせ17.5ゲーム差も離されての“ありがたいCS出場”なのだから、負けてもともと、イチかバチかのこの戦術はアリだ。

 そう思って注目していたら、クルーズの穴を埋めるラッキーボーイが出てくるでもなく、菅野は本当に体調不良だった。

 では惨敗するかと思いきや、最後の最後まで粘った。そして力尽きた。クルーズと菅野の不在が響くという「普通」の結果になった。

 マイナスをプラスにするのは今の巨人には無理であることを証明してしまったのである。「劇的に潮目が変わる」なんてミラクルは起きないことを突き付けられた。もっと言えば、こういう大勝負に「普通」に敗れてしまうチームになってしまったのかもしれない。なんだかんだ言って節目の名勝負はモノにしてきた巨人が。

「2016年の高橋由伸」よ、ありがとう!

 これは、絶望の始まりなのであろうか。

 でも一方で思うのだ。ほぼ無茶ぶりとも言える監督就任を引き受けた高橋由伸は、こんな過渡期のチームでも2位になった。

 采配で何も動かないと言われた今年だけど、すべては来年への前フリであると期待したい。正直に言うと、やり手の原監督の時代よりも、明日でさえ一体どうなるかわからない予測不能の由伸巨人のほうに私は興味があるし、実際に目が離せなかった。未完成なアイドルを応援する人の気持ちがわかった。

 由伸監督を観ることはドキュメントである。ウオッチのし甲斐がある。

 私は声を大にして言いたい。

「2016年の高橋由伸」よ、ありがとう。

 おもしろかったよ。

文=プチ鹿島

photograph by Naoya Sanuki