広島は立ち止まらない。

 25年ぶり優勝を決めてから約1カ月後に開幕したCSファイナルステージで、勢いづく青い波を赤い波が完全に飲み込んだ。初戦から王者の野球で、ファーストステージ突破のDeNAを圧倒。3勝1敗で日本シリーズ行きを決めた。

 初戦に先発した大黒柱のクリス・ジョンソンが3安打完封でDeNAの勢いを完全に断ち切ると、今季覚醒した野村祐輔が続いた。打線も田中広輔が4試合で打率.833の「神ってる」活躍で打線をけん引し、2番菊池涼介がつなぎ、3番丸佳浩が返す得意の形が随所にみられた。

 「自然体」を強調するチームは多いが、中には“自然体を装う不自然さ”があるケースがある。緊張を隠そうとすればするほど、それは自然ではない。だが、広島が真っ赤に染まったマツダスタジアムで見せた野球はまさに、緒方孝市監督が戦前から言い続けてきた「普段着野球」だった。

あくまでも広島のスタイルを貫く戦い方を!

 広島がファイナルステージに出場するのは3年ぶり、本拠地でCSを戦うのは球団史上初のことだった。

 リーグ優勝決定から1カ月。シーズン最終戦から約10日が経過していた。優勝球団としての重圧とともに、実戦勘のブランクとも戦わなければならなかった。

 当初予定していたフェニックス・リーグ参加は、台風の影響もあり取りやめになった。調整期間中に予定していた地元社会人チームとの練習試合も、降雨の影響で2試合から1試合に減った。実戦が当初の予定より大幅に少なくなった。

 相手の野球を受けて立たないことも必要だった。あくまで、広島は広島のスタイルを貫くことでこの大一番を戦おうとしたのだ。

 シーズン最終戦翌日から全体練習を再開。それ自体は軽めの練習だったが、丸や田中は自由参加だったフリー打撃に加わり、鈴木誠也は緩い球を打ち返す打撃練習を志願した。

 そして、2日目からはしばらく、キャンプのようなハードな練習が繰り広げられた。

39歳の新井も、終了後に膝から崩れ落ちるほどの練習を。

 若手だけでなく、39歳のベテラン新井貴浩も歯を食いしばった。

 連続ティー打撃ではひざから崩れ落ち「連ティーなんて、数年ぶりだ」と苦悶の表情を浮かべるほどだった。

 昨季は最終戦に敗れ、Bクラスが決まった。そこから秋季練習を経て、秋季キャンプと流れ込んだ。これまで広島にとってポストシーズンは、真剣勝負を戦った経験よりも、早く翌年に備える時間を過ごすことの方が多かったのだ。

 今回の調整期間前半の猛練習は、チームに「いつも通り」を浸透させる1つの方法でもあった。

 またその猛練習が、チームにほどよい緊張感と競争意識を与えた効果もある。

 東出輝裕打撃コーチは「うちのレギュラーは1番田中、2番菊池、3番丸、5番鈴木くらい。新井さんや松山、安部、エルドレッドは4人に次ぐ準レギュラー」と言う。実際、ファイナルステージ4試合は、すべて違う打線を組んだ。2戦目には4番を新井から松山竜平に代えるなど、首脳陣の考え方にブレはない。シーズン中の戦い方を変えることはなかった。

 CSが始まっても、ナイター試合の日には早出特打が行われた。

 そこにはレギュラー組の田中や鈴木の姿もあった。素手でのロングティーを繰り返した田中は「しっかり自分のスイングをするためにやっているだけ。左打者は走り打ちになりやすいので」と普段の練習を続け、4試合で12打数10安打4打点、6得点という数字を残した。

未来を見据え、若手の育成も並行して進める。

 CS突破は広島にとって最大の使命だったが、同時にチームは未来も見据えていた。

 調整期間前半はキャンプのように追い込んでいたが、そもそも野間峻祥にとってはリーグ優勝決定直後からCS期間を通しても毎日がキャンプのような日々だった。

 リーグ優勝が決まった当日、一軍に登録された。東出打撃コーチは真顔で「野間は今日からキャンプだ」と宣言。

 試合前、練習メニューが書かれたホワイトボードには「37 特TEE」と書かれていた。ベンチ裏で振り込んで汗だくになった野間が、そのままグラウンドでの全体練習に加わっていたのだ。その日からのリーグ戦残り10試合はCSへ向けたテストではあったものの、野間の“キャンプ”は続いていた。

野間が来年使えるようになったら……来年も優勝。

 昨季の野間はチーム4位の127試合に出場しながら、今季は21試合出場にとどまっていた。優勝決定前に限ると、11試合にとどまる。伸び悩む野間を東出打撃コーチは来季のキーマンに挙げる。

「野間が来年、独り立ちしたら日本人選手で外野を固められる。そうなったら強い。来年、優勝できるかどうかはあいつにかかっている」

 25年ぶり優勝という広島の歴史を塗り替えた今季、ペナントレースは黒田博樹と新井の投打のベテランが両輪となり、チームを走らせた印象が強い。

 だが、CSは1番田中を筆頭に「タナキクマル」の同学年トリオ、2戦目に先発して6回無失点の野村など未来の広島を引っ張っていく世代の活躍が目立った。

 1安打の鈴木、無安打に終わったCS初出場の安部友裕など、力を発揮できなかった選手もいるが、若い選手が新たな課題を得たことは来季以降の財産になるだろう。リーグ優勝時のように、ベテラン黒田の先発試合で決まらなかったのも、時代の移り変わりを意味していたのかもしれない。

 黒田には広島の明るい未来が見えている。自らが先発して優勝を決めた9月10日巨人戦の試合後、確信を持って口にした。

「新井は毎日のように試合に出ていましたけど、若い選手、キクマル、広輔……彼らが引っ張ってくれた。僕らはそれにつられただけ。僕らは優勝経験がないと常に言われていた。若い選手は優勝の経験を得て、これから長い野球人生がある。彼らにとって大きな優勝になればいい」

 32年ぶり日本一、そして、その先に待つ未来へ――。

 広島は立ち止まらずに進んでいく。

文=前原淳

photograph by Hideki Sugiyama