金子侑司がシーズン53盗塁を記録し、2016年パシフィック・リーグの盗塁王に輝いた。西武球団としては2010年の片岡易之(治大・巨人)以来、6年ぶりとなる盗塁タイトルの受賞である。

 9月23日のソフトバンク戦で右足の痛みを訴え、24日の試合出場を回避。そのまま登録を抹消され、オリックスの糸井嘉男と並ぶ数字でシーズンを一足先に終えた。結果、糸井も数字を伸ばすことができず、タイトルを分け合うこととなった。

「最後、4試合出られなかったので、もちろん悔しい思いは残っています。でも、そこは気持ちを切り替えて、来年にぶつけようと思っています。自分がプレーしているときは、盗塁王争いは本当に全く意識していなくて、とにかく自分が盗塁の数を増やすこと、目の前の勝負に勝つことでいっぱいいっぱいだったんです。でもライオンズの方が先に全日程を終えてからは、オリックスさんが試合を残していたので、実は糸井さんの動向がめちゃ気になりました。“今日は走っているのかな”って……」

 秋季練習中の金子を訪ねると、こう語って笑った。

“こだわり”がアドバイスを拒絶してしまう。

 金子は今年、プロ入り4年目。入団1年目、2年目と90試合以上に出場し、レギュラーポジション獲得は目の前にあるかと思われた。しかし2015年は肩痛やひじ痛に苦しみ、その痛みをかばっている間に脇腹も痛めた。加えて鼻骨を骨折。わずか57試合出場でシーズンを終える。

「怪我、アクシデントもあったけど、去年は自分の実力が足りないことを思い知った1年でした」と振り返る。

「それまでは、自分のスタイル……ああいう選手になりたい、こういうプレーをしたいと考えてやってきた、その“こだわり”が強かった。でも、それが自分の成長を邪魔しているんじゃないかと思うようになりました」

 首脳陣や先輩に様々なアドバイスをもらっても、自分の理想像にとらわれ過ぎて、なかなか受け入れられない3年間だったと語る。

「そのやり方で結果が出せていたときもあったので、なかなか吹っ切れなかったんですよね。でも結局は、成績が残せていない。それなら、自分のこだわりを手放してみようと思ったんです」

盗塁の成功率を下げていた、ダメな時との差。

 まずは出塁率を上げること。塁に出るために必要なことを最優先した。バットを短く持ち、フォームも変えた。そして「打ちたい気持ちが強すぎて、ボール球に手を出すことが多かった」という打席での意識から変えようと、昨年のオフシーズンと今年の春季キャンプを過ごし迎えた2016年シーズンだった。

 もうひとつ大きかったのが、今シーズンから就任した佐藤友亮守備・走塁コーチとの出会いだ。

「まずはキャンプが始まったときに佐藤コーチと、塁に出ることを考えるのはもちろん、“走る”という部分でもっと改善できることがあるんじゃないかと話し合いました。盗塁の動作すべてを見直したときに、まだまだ無駄がある。いい形でスタートを切れれば成功率も高いんですけど、ダメな時との差が大きかったんです」

足は速いのに、なぜ盗塁死するのか。

 もともとの身体能力の高さや足の速さは備えている。「それなのに、これほど盗塁死するのはなぜだ?」というところを出発点に、できることをスタートさせた。盗塁に必要な、相手ピッチャーの癖を洞察する力はもちろん、投手との呼吸を合わせることや、力みなく一歩目のスタートを切ることを課題にあげて改善に取り組んだ。

 リードをスパイク横幅2足分広げたのも、佐藤コーチのアドバイスだった。

「ほんのちょっとの違いだと思われるかもしれませんけど、自分ではだいぶ大きい変化だと思っています。その2足分のせいで一塁に戻れなくなって、けん制で刺されるという感覚もありません」

 何より、本人の盗塁に対する意識の変化がいちばん大きい。スタート前の手を置く位置や、スライディングの意識など、ふとした練習のときに発見した方法を試して、改善を続けた。試合前の練習でも、金子の走り方を佐藤コーチが見て「姿勢が高い」、「力んでいる」と修正点を伝える。そのやり取りは毎日続いた。

2番の秋山は待球などの負担にも笑顔で協力。

 佐藤コーチは語る。

「終盤、奈良原コーチ(浩・日本代表ヘッドコーチ)が田邊(徳雄)監督に提案して、チーム全体が金子の盗塁数を伸ばすことに協力してくださいました。1番に起用して、戦術面などでも、彼がやりやすいようにしてくれた。周囲の協力なくしてこのタイトルはなかったと思います。ただし、それは、金子が必死に努力している姿をみんなが見ていたからこそ。金子が人間的に成長したことが成績を残せたいちばん大きな要因だと思います」

 チームのサポートがあってこそのタイトル獲得であることは、金子自身もよくわかっている。特に、金子が1番に入った試合において、2番を打つことが多かった秋山翔吾に対する思いは格別だ。

「初球で必ず走れるかというと、そういうものでもないので、どうしても2球、3球と待ってもらう場面が多かったですから。それが秋山さんのバッティングの足かせになってしまっていた打席もたくさんあったと思う。そんな中でも、試合前には笑顔で『今日、走れそうか?』と必ず声をかけてくれて、思い切ってスタートを切りやすい環境を作っていただきました。感謝しているのと同時に、そういうことを当たり前にできる秋山さんは改めてすごい選手だなと感じました。とにかく盗塁は、1人で走れるものではない、周囲の協力があって初めてできること。首脳陣はもちろん、チームの皆さんに改めて感謝したい賞ですね」

佐藤コーチ「個数が伸びれば、自分から走る気になる」

 佐藤コーチは続けた。

「今後もまだまだ勉強が必要ですが、盗塁の個数が伸びれば、本人の盗塁に対する意欲もかわる。そして自分からやってやろうという気持ちになる。今はその第一段階を突破したところでしょうか」

 よりマークが厳しくなり、相手に研究される来季以降が注目される。

「今シーズン、しんどいと思う時期もありましたけど、そのしんどさがうれしいです。こういうしんどさを味わえたのは大きかったと思います。1シーズン、これだけの試合に出るのも初めての経験だし、初めて味わうことも多かったですから。来年は開幕からしっかり試合に出ること、そしてこの取り組みを続けるという目標もできました」

 そう充実した表情で語る金子に来シーズンも期待したい。

文=市川忍

photograph by NIKKAN SPORTS