昨年末。ありきたりで、使い古された質問であることは承知の上で、まず訊いてみた。

 南野選手にとっての2016年を、漢字一文字で表すと?

 メダル獲得が期待されたリオ五輪では、グループリーグ敗退。ザルツブルクではレギュラーの座を失った。だから、「悔」や「不」のような、ネガティブな意味を含んだ文字が返ってくると予想していた。

 ところが、目の前に座る南野拓実の表情は、意外なほど明るかった。数秒考えた後、一文字が決まった。

「変化の『変』、ですね。五輪で負けて、クラブでは試合に出られない時期が続いて、そのときに何をするべきかってことを自分なりに考えてきました。まだ変化している途中なんですけど、そのための一歩を踏み出したのが、2016年だと思います」

 クールな見た目とは裏腹に、負けず嫌いの塊のような男である。2016年の経験が、悔しくなかったはずはない。

サッカーで負けた分は、サッカーでしか取り返せない。

「練習がしたいです。休みはいらない。チームに帰って、バリバリやりたいです」

 これはグループリーグ敗退に終わったリオ五輪直後、報道陣から「今、一番したいことは?」と問われた際の言葉である。

「僕は性格的に、サッカーで負けた分は、サッカーでしか取り返せないと考えるんです。サッカーに関して不安があるとしたら、サッカーでしかその不安は取り除けない。子供の頃から、負けたらすぐに練習していた。プロになってからは、うまく自分の感情をコントロールできるようになったし、『1日練習しただけで、急に上手くなったり、下手くそになるわけではない』と考えられるようになったけど、あの五輪の場合は……。グループリーグを突破できなかったことが本当に悔しかったし、それは僕の力不足でしかない。あの悔しさを拭い去るには、個のレベルアップしかないと思ったので」

監督に直接聞いた「俺には何が必要なのか」。

 有言実行。南野はブラジルから直接オーストリアに飛び、ザルツブルクのチーム練習に合流した。しかし、この時点でオーストリアの国内リーグはすでに開幕し、第4節までを消化していた。開幕前のキャンプから連係を深めていたチームに、南野のポジションは用意されていなかった。スタメン出場した第5節マッテルスブルク戦で1ゴール、75分から途中出場した第7節アドミラ・バッカー戦で2ゴールを決め、懸命のアピールを続けたものの、オスカル・ガルシア監督の信頼は得られず、ベンチ暮らしが続くことになった。

 ある日の練習後、南野はガルシア監督に直接「試合に出るために、俺には何が必要なのか。監督は俺に、何を求めているのか」と尋ねた。指揮官は、こう答えた。

「タクミの攻撃面での能力、ボールを前に運ぶ技術は認めている。ただし、自陣でボールを奪う回数が少ないし、そういうデータも出ている。今、チームの戦い方としてサイドハーフの選手には、そういうところを求めている。練習から、しっかりと相手に体をぶつけて、チームを助けるプレーを見せてくれ」

守備面の物足りなさはわかる、でも攻撃なら……。

 南野本人にとっては、それほど意外な言葉ではなかったと言う。

「監督のイメージは、シンプルだと思うんです。サイドハーフの選手とは、自陣まで下がって体を張るものだと。確かにザルツブルクに行ってからの僕は、シュートブロックする場面だったり、体を投げ出して相手のクロスを防ぐような場面が、試合に出ている選手よりも少なかった。そこで評価されていることについては、納得ができました。逆に言えば、もしも攻撃面でのことを指摘されていたら、納得できなかったと思う。攻撃面だけを考えれば、『試合に出られないはずがない』という自信もありましたから」

 これまでも、試合に出られない時期が続けば、監督と直接コミュニケーションを取ることはあった。指揮官からの言葉を受け止め、消化し、黙々とプレーや姿勢でアピールしてきた。

 ただし、「変化」を始めた2016年の南野は、それだけでは終わらなかった。指揮官からの指摘に対して、さらに言葉を返した。

FWなら、監督の求めるプレーがいつでもできるはず。

「もっとチームに貢献するために、FWで出場するチャンスをもらえませんか? 攻撃は今までどおりのプレーを続けながら、守備も改善できるように努力します。もちろんサイドで出すか、FWで出すかを決めるのは監督です。でも、FWならば監督の求めているプレーが今の段階でできると思っています」

 プロになって以来、南野が出場するポジションを直訴するのは、初めてのことだ。その真意をこう明かす。

「もちろん守備の重要性は以前よりも感じています。実際に練習から"見せかけ"じゃない本気の守備を意識していますし、どうすれば監督に『南野は守備もできるようになった』というイメージを焼き付けられるか、考えながら取り組んでいます。これも、変化の1つですね。ただ、FWで出場できれば、もっとシンプルに結果で評価してもらえる。そういうポジションに身を置いているほうが、攻撃面が武器である僕にとっては、得になる。だから、監督にも『FWで出してくれ』と伝えたんです」

2016年のラストゲームは、FWで2ゴール!

 2016年のラストゲームとなった第20節ボルフスベルガー戦で、約4カ月ぶりにスタメン出場のチャンスが巡ってきた。ガルシア監督が南野に託したポジションは、FWだった。

「このチャンスを待っていましたし、自分で手繰り寄せたチャンスです。『もう、やるしかないやろ』って気持ちで臨みました」

 開始6分、ゴール正面で味方のバックパスを受けると、ペナルティーエリア外から右足を一閃。豪快なミドルシュートをゴール左隅に突き刺した。2分後には、左サイドからのクロスに対して、下がりながらの難しい体勢にもかかわらず左足のボレーシュートを叩き込んだ。

「2ゴールとも、思い切ってシュートを打てたと思いますし、ゴールに対してシンプルにプレーできましたね。90分間出してくれれば、絶対にできるという自信はありましたし、それを少しは証明できたかなと思います。でも、シーズン前半戦を終えて6ゴールは、全然満足できない。10ゴールは取っておきたかった。チーム内の得点ランクではトップに並びましたけど、自分で『FWで出してくれ』と言う以上、まだまだ足りないですね」

変化は意識だけでなく、体にも。

 2016年の「変化」は、指揮官への自己主張や守備面の意識改革だけに留まらない。このウインターブレイク中には、コンディション維持のためのトレーニング方法にも変化を加えた。

「僕は『姿勢が良い』って言われるんですけど、反り腰なんです。骨盤の位置が悪いことで、疲労が溜まったときに、腰や太ももの裏に負担がきてしまう。それを改善するトレーニングを行なっています。骨盤を正しい位置に乗せたまま、どう次の動きにつなげるかを意識する。これができれば足への負担が減って、90分間を省エネでプレーすることができる。試合終盤のスプリントの質も上がりますし、体のキレも増すはずです。自主トレの練習量自体も増やして、体力アップも図っています。試合に出られない状況でもコンディションを維持して、チャンスが来たときに逃さないためのトレーニングです」

「でもね、今は彼女もいらないと思っているんです」

 リーグ前半戦を終えての個人成績は、9試合出場(先発は2試合)、6得点。次のステップとしてドイツ・ブンデスリーガへの移籍を狙う南野にとっては、到底満足できない数字だ。それでもやっぱり、彼に悲壮感はない。

「考え方次第なんだと思うんです。僕は試合に出られない時期でも成長できると思っているし、サッカー選手としてのストーリーの中で、今の状況をどうアレンジして成功に持っていくか、前向きに考えています。だって、オーストリアでは1人ですし、家に帰ればドイツ語を勉強するか、YouTubeを見るくらいしかやることがない。前向きに考えないと、塞ぎ込むだけで、やっていけないですよ。彼女もいませんから(笑)。でもね、今は彼女もいらないと思っているんです。サッカーで成功するために、本気で集中する時期ですから」

「変化」の先に、目指しているものとは何か。インタビューの最後に訊いてみた。

 2017年の目標を漢字一文字で表すと?

「日本代表の『日』、ですね。今、僕が一番欲しいものは日本代表でのスタメン出場のチャンス。五輪が終わって、もう目指すべきものはA代表しかない。本気で狙っています。ただし、これを実現するためには結果を出さなければならないのも分かっています。だからこそ、変化の途中です。実は目標設定の仕方だったり、目標に対する考え方も、これまでとがらっと変えたんです。でもこの具体的な方法は、成功するまでは言いません。2017年末のNumberさんでのインタビューで話せるように、頑張ります」

文=松本宣昭

photograph by Kiichi Matsumoto