ひと言で言うと、ストライカー不足の大会だった。

 市立船橋、桐光学園、東福岡がいい例で、「絶対的なストライカーがいれば……」と危惧されていたチームが、結局ベスト4までたどり着けなかったからだ。

 この3チームに共通しているのが、シーズンの最後まで、前線に君臨する絶対的な存在が生まれなかったことである。

 市立船橋は3人のFWが、東福岡は2人のFWが、最後までチーム内でしのぎを削っていたが、その競争は絶対的な選手が不在なことの裏返しだった。桐光学園は期待していたストライカーが伸びきれず、本来はサイドハーフの2人がツートップを組む事態となっていた。

 現在、高校サッカー界、いやユース年代のチームにおいて、守備戦術は必要不可欠な要素となっている。もはや攻め続けることが勝つ定法だとするチームは少数で、どのチームも「きっちり守った上で、攻める時は攻める」という攻守の切り替えを重視したコンセプトを持っている。

 だからこそ、どのチームも守備戦術はある程度しっかりしているし、ましてや格上が相手となると、さらに極端な守備陣形を敷いてくることさえある。

戦術的に極端な守備陣形を敷くチームが台頭。

 もちろんこれまでも、極端な守備陣形を敷いてくるチームはいた。だが今大会は、佐野日大や長崎総合科学大附属のように、後ろに5バックもしくは4バック+1スイーパーを置き、ボランチのラインも下げ、わずかな攻撃の糸口を90分間のどこかで見出していく……という戦術をとるチームがいたことは、やはり象徴的だったと言わざるをえない。

 佐野日大は準々決勝の駒澤大高戦で見せたように、終盤までロースコアに持ち込んで、そこから攻撃的な選手を投入し、残り数分で一気に攻めへと転じてゴールを奪っていた。

 チーム内でこの戦術のコンセンサスが非常にしっかりとれていたからこそ、駒澤大高を相手に、1点のビハインドから同点、終了間際に逆転と効率よく点を獲って逆転勝利を収めることができたのだと言える。

 長崎総合科学大附属は、個の打開力を持った3トップとトップ下1枚の、計4枚を前線に残すタイプだった。彼らに関してはポジションを固定せずに、距離感を保ちながらフレキシブルにポジションを変えられるようにしていた。選手権の初戦、中盤の構成力で上回っていたはずの桐光学園は、その堅い守備と効率的なカウンターの前に飲み込まれた。

「耐えて、耐えて、刺す」というチームばかりに。

 極端な守備陣形をとらずしても、DFライン間のチャレンジ&カバー、ボランチのプレスバック、守備時の数的優位を作るなど、どのチームも質の差はあれど、守備に対する高い意識がチームコンセプトとして中心にあった。

 今大会、とにかく「耐えて、耐えて、刺す」というスタイルのチームが多かった。

 このトレンドにより、「絶対的なストライカーを持たない強豪チーム」は、最後を決めきれないことで、最後に「刺されて」しまっていたのである。絶対的なストライカーを持ったチームであれば、その選手を最大限に生かす戦術を採用することで、この「魔の悪循環」を打ち砕くことが可能となるわけだが……。

大前元紀、大迫勇也という「本物のストライカー」。

 FW大前元紀(現・大宮)を擁して第86回大会を制した流通経済大柏と、FW大迫勇也(現・ケルン)を擁して第87回大会で準優勝まで勝ち進んだ鹿児島城西は、分かりやすく「絶対的なストライカー」がいるチームだった。

 当時の流通経済大柏は、その年のインターハイ、高円宮杯全日本ユース(現・高円宮杯プレミアリーグ)の2つの大会で得点王を獲っていた大前の決定力を最大限に生かすサッカーをしていた。彼にボランチの田口泰士(現・名古屋)、サイドアタッカーの比嘉祐介(現・千葉)、中里崇宏(現・横浜FC)らがボールを供給し、大前はゴールを量産。選手権優勝&得点王を獲得した。

 鹿児島城西も同様、ずば抜けた決定力と存在感を放つ大迫を前線に置き、両サイドにはスピードで突破出来るアタッカーを、ボランチにはパスセンスに秀でた大迫希(現・藤枝MYFC)を配して、質の高いボールをエースに送り込んでいくスタイルだった。大迫自身は、得点王プラス、1大会10得点という新記録を打ち立てるほどの活躍を見せた(この記録は未だに破られていない)。

 Jユースの力が増している昨今、大前、大迫クラスのストライカーはなかなか高校のチームには現れ難くなっているが、それでもある程度の得点力を持ったエースがいるチームは存在した。

 だが、今大会はそんなストライカーが本当に少なかった。

今大会随一の“絶対的ストライカー”岩崎悠人。

 実は大迫クラスのFWは今大会にもいた。

 それが京都橘のFW岩崎悠人(京都入団内定)だ。

 しかし、京都橘の初戦の相手は、鉄壁の守備を誇る市立船橋だった。あまりにもハイレベルな攻防が繰り広げられたこの試合。いま思えば、この試合が今大会でナンバーワンのレベルの高さだったかもしれない。

優勝候補だった3校は、すべて接戦で負けている。

 市立船橋、東福岡、桐光学園などは、間違いなくタレントがいて、中盤の構成力も高く、中でも市立船橋の守備レベルは前述した通り、間違いなく今大会ダントツでナンバーワンだった。

 だが3チームとも、敗れた試合は、チャンスを作りながらもゴールをこじ開けることが出来ないままズルズルと敗れる……という試合だった。

 市立船橋は2回戦で前橋育英のポゼッションを巧みに抑えながらも、点を獲りきれぬまま0−0のPK戦負け。

 東福岡は相手をシュート1本に抑えながらも、その1本で失点し、攻撃面ではMF高江麗央(G大阪入団内定)のシュートがバーを叩くシーンこそあったが、ゴールをこじ開けることが出来ないまま、0−1の敗戦。

 桐光学園は初戦で長崎総合科学大附属を相手に、立ち上がりから中盤を支配し、多彩な崩しで決定機を作りながらも決めきれず、相手のカウンターに飲み込まれる形で0−2の敗戦を喫している。余談だが、もし今年のチームに昨年の絶対的エース小川航基(現・磐田)がいたら、間違いなく長崎総合科学大附属のゴールをこじ開けていただろう。

 優勝候補が決定力不足で姿を消す中、なぜこれらのチームと実力的にはそこまで変わらない青森山田と前橋育英が決勝まで行けたのか。

青森山田の鳴海、前橋育英の人見の圧倒的な存在。

 青森山田と前橋育英に共通しているのは、堅い守備を持ちながらも、強力なストライカーが育っていたことにある。

 FW鳴海彰人(青森山田)とFW人見大地(前橋育英)がそれに当たる。

 青森山田の鳴海はインターハイ得点王に輝くなど、抜群の身体能力とゴール前の勝負強さを持っていた。

 今大会では、初戦から鳴海が躍動した。

 GK廣末陸(FC東京入団内定)の正確無比なロングキック。右MF嵯峨理久の突破力とクロスとラストパスの精度。高橋壱晟(千葉入団内定)と郷家友太のパスセンスと打開力。クオリティーの高いボールが徹底的に鳴海に集まったことで、彼はゴール前でその勝負強さを存分に発揮し、6ゴールを挙げてインターハイに引き続き、選手権得点王に輝く。

 さらに高橋が5試合連続の5得点、嵯峨が3得点、郷家が2得点とチャンスメークだけでなく、決定力が高い選手が揃っていたことで、次々と相手の守備組織をこじ開けて、優勝を手繰り寄せた。

次大会も「守備重視」なのか? それとも……。

 前橋育英の人見も、夏以降に大きく成長し、今大会では絶対的なポストプレーヤーとして定着したことが、チームの大きな推進力となった。

 彼自身は大会中1得点に終わったが、その驚異的ともいえるポストプレーは、2列目の攻撃力を最大限に引き出していた。あれだけハイボールもグラウンダーのボールも高い位置で集約してくれる存在がいれば、他の選手は非常に良い状態でアタッキングエリアに飛び込むことができたはずだ。

 前橋育英が挙げた7ゴールは、人見を含めて実に6人もの選手が決めている。

 前線で絶対的な存在になりうる選手の有無が、今大会の勝敗を分けた要因の1つとなった、これもひとつの分かりやすい事例だろう。

 果たして来年度も「守備重視」のトレンドは続くのか?

 それとも「絶対的なストライカー」を持ったチームが多く出てくるのか?

 個人的には、より豪快なゴールシーンが多く見られるようになって欲しいと願っている。

文=安藤隆人

photograph by Tadakatsu Matsuzaka