名脇役とされる俳優のうち「名前を聞いてもなかなか顔が出て来ない」という俳優は多々存在する。これまでに軽く100本以上の作品に出演しているベテラン俳優・近藤芳正もそのひとりだろう。昨年のNHK大河ドラマ『真田丸』では、真田信繁(堺雅人)の胡散臭い上司・平野長泰を好演。近藤は、悪人キャラの手下などの嫌な役柄のほか、心優しく涙もろい素敵なおじさんなどを演じることもあるのだが、どちらかと言えばやはり、上の人間にいい顔をして出世を狙う小物感たっぷりの“コスいオヤジ”役のイメージが強い。そんな名バイプレイヤー・近藤芳正の魅力とは?

◆実はダチョウ倶楽部の前身・キムチ倶楽部出身という異色の経歴

 近藤芳正は愛知県出身の55歳。デビュー作は彼が15歳のときに出演した『中学生日記』(1976年/NHK総合)で、芸歴は実に40年というベテランだ。脚本家・三谷幸喜氏が旗揚げした劇団・東京サンシャインボーイズへの客演が多く、その縁から映画『12人の優しい日本人』、『ラヂオの時間』、『みんなのいえ』、『THE 有頂天ホテル』、『ザ・マジックアワー』などの三谷作品に数多く出演しており、劇団員と勘違いされることも多い。

 「近藤さんは実は苦労人で、三谷さんに出会うまでは、30代を目前に自身の才能に限界を感じ、一時は俳優として生きるのを諦めかけていたと言います。このほか2012年、TOKYO FMで放送された鈴木おさむパーソナリティのラジオ番組『よんぱち 48hours』によれば、ダチョウ倶楽部の前身・キムチ倶楽部に在籍していたこともあり、経歴も非常にユニーク。ですがご本人はどちらかと言えば内面的で、普段は黙って人間観察をされるタイプ。そんな観察眼と客観性、豊富な人生経験が、今の近藤芳正という俳優の存在感とお芝居を支えているように思えます」(エンタメ誌ライター)

 三谷作品で言えば、『THE 有頂天ホテル』の父と愛人を別れさせたい大富豪の息子など、物語を多少引っ掻き回す役柄を好演。また『みんなのいえ』のシナリオライター飯島(ココリコ田中)の妄想劇に登場するマンション管理人役、『ザ・マジックアワー』の妻夫木聡演じる備後登に騙されて映画機材を勝手に借りられる映画監督役など、わずかなシーンにしか登場しないにも拘らず強い印象を残すのが特長で、そうした三谷作品のイメージからか、「ちょっとイラッとするが、どこか愛嬌のある小物を演じる役者」の印象が強い。昨今の代表作は前出の『真田丸』をはじめとして、同局の朝ドラ『おひさま』(2011年)、『純と愛』(2012年)や『税務調査官・窓際太郎の事件簿』(TBS系)などのシリーズものや、1話のみのゲスト出演も数多い。

◆ストーリーの中で重要な位置を占める近藤版“コスいオヤジ”

 多くの作品に出演している近藤だが、そのほとんどは脇役。地味でさえない男で、上の人間には刃向かえず、気弱で小物のキャラクターが多い。そんな一見、地味に思える役柄だが、近藤の存在感あってのものか、ストーリーの中で物語を大きく左右する重要な役割を担う男を割り振られている作品も多々見られる。

 その代表例が、反町隆史主演で人気コミックを実写化した学園ドラマ『GTO』(1998年/フジテレビ系)だ。近藤が演じたのは、破天荒な教師・鬼塚(反町)を目の上のたんこぶにする教頭・内山田(中尾彬)の腰巾着で学年主任の中丸教師。虎の威を借りて鬼塚に陰険な言動ばかりしていたが、彼らが務める武蔵野聖林学苑が合併吸収の危機に陥った際、鬼塚のアツい行動に感化されて協力。学苑を守る急先鋒を担った。

◆悪役だけど憎めない…“コスいキャラ”を確立

 「近藤さんは多角的、客観的に物事を見つめることが出来る方で、このように、自身に定着した“コスいオヤジ”のイメージを利用して視聴者を喜ばせるのも上手い。直近では『真田丸』で馬廻衆筆頭の平野長泰を演じた時、初登場こそ時代劇らしく、折り目正しく振る舞っていましたがその後、控えの間ではスルメを食べながらくつろぐなどしていました(笑)。あの“ヌケ感”は、近藤さんにしか出せなかったのではないでしょうか。実際、SNSでもこのシーンから“近藤さんらしさ”を感じたという声が多く挙がっていました。個性がやたら強いのに決して前に出ず、またその存在が主演陣や物語の邪魔をすることはない。またイメージが定着している分、地味な男が一転、主人公の強力な味方になるなどといった際のカタルシスも感じさせることが出来る。前に出たがる人々が多いこの業界において、いい意味で作品に“埋没”する近藤さんは本当に稀有な俳優さんだと思います」(同)

 脇役が多かった近藤だが、その悪役的なイメージを活かし、2015年には映画『野良犬はダンスを踊る』で主演。年齢の衰えから引退を決意したベテランの殺し屋を演じ、同作はモントリオール世界映画祭の「フォーカス・オン・ワールド・シネマ」部門に選出された。こうした哀愁漂うおじさんから、主人公を見守る温かいおじさん。また小狡いのにうまく立ち回れない不器用なおじさんまで。多彩に演じる近藤だが、共通している点は、その愛らしさと憎めなさだ。嫌われたり、「コスい!」と罵られかねない役柄にも愛情を感じさせる確かな演技力とその存在感。群雄割拠の芸能界において近藤は、独自のポジションを作り上げることに成功した俳優のひとりと言えるだろう。

(文:衣輪晋一)