富士山でゴミと格闘した大臣: 野口 健(アルピニスト)(1)
「選挙に出馬したら腹を切ります」
今年は選挙の年。選挙が近づくたびに面倒なのが、「出馬しないよ」と何度いってもなかなか信じてもらえないことだ。あるとき、事前の取材もなく勝手に「登山家、野口健出馬に前向き。富士山の次は国会をクリーンにする!」などといった文字を目にしたときには、ビックリして腰が抜けそうになった。
そうなると何が起こるか。事務所にバンバン電話がかかってきて、講演会など仕事のキャンセルが相次ぐ。真っ青になって、「ですから私、出馬しませんので」と告げても、「いやー皆さん、そういいながら出馬される方が多いんですよ。いままで何度か痛い目に遭っていますので。ですから今回の講演はなかったことに……」である。
したがって今年は先手を打ち、ブログで「もしこれで次の衆議院選挙に出馬していましたら、私は皇居の前で腹切る事をお約束致します」と宣言した。これは意外とインパクトがあったようで、その影響か講演会のキャンセルが激減した。公の場で世間様にお約束した以上はノーチョイス、守らなければならない。さすがに30代半ばで腹は切りたくない。
いつから選挙前にこの手の話が持ち上がるようになったのかを思い出してみると、エベレストや富士山の清掃活動を始めてからだろう。環境問題への取り組みを始めてから、政治家との関わりが増えた。
それまで政治家に会ったことは、学生時代に1度だけ。父がシドニーの総領事を務めていたときに、当時参議院議員であった八代英太氏が視察にいらして、食事の席に同席させていただいた。車椅子に座りながら、学生であった私に「健くん、私はね、日本を福祉国家にしたいんだ。日本は素敵な国ですが、もっともっと素敵にしたい。政治は困っている人を助けるためにあるんだよ。私も障害者だが負けないよ。それに障害者だからこそ見えてくる世界もあるんだ」と目をキラキラさせながらお話しされていた姿がとても印象的だった。
自身からのアプローチとして政治家にコンタクトをとりだしたのは、エベレストや富士山で清掃活動を開始してから。ゴミを拾うことはいいことだ。しかしゴミを拾うだけではゴミがなくならない。たしかにその時点で拾った場所はきれいになるが、1週間もすれば元どおり。1からやり直しとなる。したがってゴミと格闘していると、どうすればゴミが捨てられない社会になるのか、その仕組みをつくらなければならないと考えるようになる。
たとえば富士山なら、毎年ひと夏に山頂まで約30万人、5合目には約200万人が訪れる。お盆の時期となれば、それこそ山頂まで大渋滞。オーバーユースは明らかであり、時に入山規制なり、また自然を守るにはそれなりにコストが掛かるので各登山者に自己負担してもらう入山料金制度なり、とさまざまなアイディアが膨らむ。
また一部のボランティア団体のみに日本の最高峰を任せていいはずもなく、国立公園ならば国が責任をもって維持管理しなければならない。現場でゴミを拾いながらも、東京に戻ってきては環境省や環境問題に関心のある政治家の事務所を訪れて意見させていただくようになった。ゴミを拾うだけでは根本的な解決にならず、最終的に仕組みをつくるのは政治家であり、お役所の役割だ。
しかし、この活動を始めて感じたことは、環境保護団体に限らずNPOなどのボランティア団体には、政治や行政嫌いがじつに多いということ。「国や行政がやらないから俺たちがやるんだ!」といった基本姿勢があるからかもしれない。「何もしてこなかった行政や政治家と接触することに抵抗がある」「政治利用されるだけだ」などと批判された。それでも私は役所や議員会館を回りつづけた。
そもそも私には官僚に対するアレルギーや抵抗感はない。なぜならば、私の父や祖父が官僚だったからだ。一般世間では、公務員は働かない、楽をしている、などといった批判が飛び交うが、少なくとも私の父は国のために必死に働いていた。帰宅するのはいつも零時以降。とくに邦人が海外で戦争などに巻き込まれたときなど、何日も帰ってこなかった。
政治家や官僚は一方的に毛嫌いされる傾向が強いが、すべての政治家、官僚がダメなわけじゃない。それに民が動き、その活動が大きなうねりとなって官や政を動かさないことには、どうしたって運動に限界があるのだ。
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2009年10月号のポイント
民主党政権誕生。「日本をこう甦らせて欲しい」と、一言述べたい人も多いだろう。そこで、緊急特集「民主党にこれだけは言いたい!」と題し、李登輝氏、竹中平蔵氏、花岡信昭氏など9人の論客に日本国民の気持ちを代弁して提言いただいた。日本再生へ思いを民主党に託す、力のこもった意見の数々を是非お読みください。
その他、ビル・エモット氏の中国論(力作50枚)、大前研一氏の日本経済展望など、注目論文満載です。
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