1980年よりテレビ番組『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』で人気を博した畑正憲氏は、81歳となったいまなお動物に愛情を注ぎ続けている。ムツゴロウさんの愛称で親しまれた畑氏といえば、動物との独特な距離感が印象的だが、ああいったスキンシップにはどのような意味が込められていたのか? 北海道標津郡中標津町のムツ牧場で暮らしている畑氏を、ノンフィクションライターの山川徹氏が訪ねた。(文中敬称略)

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「ぼくは動物に触るとき『よーし、よしよし』ってやっているでしょう。あれも科学的根拠があるんですよ」

──科学的根拠ですか……。

「動物の身体を撫でるとオキシトシンという脳内物質が分泌されるんですよ。声でもオキシトシンは出るので、『よーし、よし』と言いながら撫でて試していたんです」

 オキシトシンとは「幸せホルモン」と呼ばれて、ストレスを軽減して幸せな気持ちを促すとして、近年注目を集めている。もちろん人間も分泌する。

「ぼくは大学院にいた約50年前からオキシトシンに着目していました。そしてあらゆる動物のおっぱいを触って、実際に吸って味を確かめて、オキシトシンが分泌されたことで起こる一頭一頭の変化を確かめてきたんです」

──実際に味わったんですね(笑)。どんな動物の乳が一番でしたか?

「優劣はないですね。でもあらゆる動物の乳を吸ってきました」

 他者であろうが、他の種であろうが、畑に排除するような狭量な考えはない。中学時代、私は『ムツゴロウの放浪記』『ムツゴロウの青春期』……と図書館にあるムツゴロウ本を片っ端から読んで、獣医になりたいと本気で考えていた時期がある。改めて振り返ると、私は、畑の分け隔てないフェアな視線に惹かれていたのだ。

【プロフィール】畑正憲(81)/動物研究者・1935年福岡県生まれ。満洲開拓団に家族で参加。6歳から小学校3年まで同地で生活。東京大学理学部卒業。学習研究社で記録映画製作に従事した後、作家として独立。1980年よりテレビ番組『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』がスタート。多忙を極めたが、趣味の麻雀のためなら徹夜も厭わなかったという。

聞き手■山川徹(ノンフィクションライター)

※SAPIO2016年10月号