映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、10月8日より全国東宝系にてロードショー公開される映画『グッドモーニングショー』に主演する中井貴一の言葉から、コメディについて語った言葉をお届けする。

 * * *
 中井貴一は新作映画『グッドモーニングショー』に主演している。朝のワイドショーのキャスター役で、特に前半は様々なトラブルに見舞われてコメディ色が強い。

「コメディであればあるほど、演じるのは凄く難しいですね。

 シリアスなものって、3秒くらいの間は許されるんですよ。それがコメディになった途端に0.01秒が許されない。相手のセリフを食わない、ギリギリのところを攻めないと面白くならないんです。ですから、悲劇とコメディには長距離走と短距離走くらいの違いがあります。

 コメディの方が演じる時に客観性を持たなきゃいけない。シリアスに芝居する時は役にだけ感情を入れていけばいいんですが、コメディは役の外側にも感情を置いておかないと成立しません。

 お笑いをやる人は、笑われちゃダメなんですよね。笑わせなきゃいけない。でも、コメディって笑わせちゃダメなんです。笑われなきゃいけない。でも、結局やることは『笑わせる』なわけです。ただ、結果的に笑わせてはいるとしても、意識は『笑わせよう』ではなくて、『笑われている』という方向にお客さんを仕向けています。そのためには、『必死に生きていることがおかしい』という状況を作り込んでいかなきゃいけない。

 ですから、コメディをやる時は、常に感性を緩やかに持っていないといけないと思います」

 本作で中井は、家でのだらしない顔、番組本番中の凛々しい顔、カメラの後ろでの情けない顔、そして立て籠り犯を前にしての怯えた顔……様々に移り変わる表情を見せている。

「芝居に緩急があるからこそ、お客さんが時間を長く感じたり短く感じたりして、それが面白味に繋がっていくと思います。ですから、自分の芝居の中のどこのシチュエーションで緩急をつけていくかということは、常に念頭に置いています。

 一つの芝居の中で表現の仕方を変えていく。実際の人間の一日って、多様な面がありますよね。それが一人の個人の中に芝居として表現できた時に、面白味が出てくると思っています。その人間の本質を変えることはありませんが、その人間らしさをどうすれば一番出せるかを考える時に、心の変化をはっきりと表現しようとしています。

 そのためには僕はリアリズムを追求していきたい。それはナチュラリズムとは違うんですよね。お芝居というのは、ナチュラルにやることでリアルに繋がるかというと、僕はそうではない気がしています。表現というのは、あるところはデフォルメしてやらないと、かえってリアルに見えなくなる。そこは凄く気をつけています。

 そのためには、引き出しを多く持たなきゃと思います。僕の場合『まねる』ということから入っていきます。歌舞伎や新派を観て、どうやればああいう声を出せるのかを部屋で研究してみたり、取材を受ける時も『僕が取材する側をやる時はこうやってみよう』と思ったり。役者という仕事は、日常生きてる中で捨てるものはありません」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/五十嵐美弥

※週刊ポスト2016年9月30日号