昨今「死後離婚」が話題となっている。妻にとっての死後離婚とは、夫の親や兄弟との親戚関係(姻族関係)を、夫の死後に解消することを指す。「姻族関係終了届」を提出すれば、法律上、妻は亡夫の親族とは赤の他人になる。未亡人が提出すれば、亡夫の親族に拒否する権利はない。2005年に1772件だった姻族関係終了届の提出数は、2015年には2783件と、10年で1000件以上も増えている。

 死後離婚の理由として多いのは次の4つだという。

【1】生前夫とうまくいっていなかったが、遺産と遺族年金を受け取るために夫が死ぬのを待っていた。
【2】夫と仲は悪くはないが、夫の実家と折り合いが悪かった。
【3】夫の死後、お墓の管理や親族の介護などをしたくない。
【4】姻族との繋がりから自由になりたい。

 関西地方に住む市川春子さん(67・仮名)は【1】と【3】の理由。夫を脳梗塞で亡くすと、すぐに死後離婚した。

「姑のイビリが酷く、子供を連れて実家を出ようとしたことは数え切れません。一度もかばってくれなかった夫にも腹が立つ。詰問したことはありませんが、夫が浮気をしていたことも知っています。夫や姑と同じ墓に入るのが心底嫌だから死後離婚しました。一人になると冷静に過去のことを考えられるんです」

 中部地方に住む宮田愛子さん(59・仮名)の理由は【4】だ。夫とも、その家族とも仲が良かったが、20年以上連れ添った夫の死から2年後に決断した。

「夫の死後、通い始めたカルチャースクールで出会った5歳年下の男性に口説かれたのが理由です。なかなか男女の関係になる踏ん切りが付かなかったのは、夫の親族の目でした。離れて暮らしていたけど、なんだか申し訳なくて……。姻族関係を解消した今は、誰の目も気にすることなく第二の人生を謳歌しています」

 夫が死んだ後、自宅や遺品、遺族年金を受け取る権利を持ったまま、煩わしい姻族関係は捨てられる。

 自分の人生を生きたい女性が選ぶ死後離婚だが、デメリットはないのだろうか。『死後離婚』(洋泉社刊)共著者の一人で行政書士の中村麻美氏が言う。

「妻には夫の親の遺産を相続する権利はありませんし、姻族関係を続けることで金銭的に得をすることはない。強いて言えば、もう二度と夫の親族に戻れないことぐらいでしょうか」

 かように死後離婚がメリットだらけなら、妻を看取った男性がそれを選んでも良さそうだが、そういったケースはほとんどない。

「そもそも夫の側には、妻の両親の面倒を見る、という発想自体がないのです。特に高齢の男性は介護を現実的に考えていません。もし妻の親に介護が必要になっても、自分で手を動かすのではなく、施設に入ってもらうことを考えます。そこが男女の違いです」(同前)

 これらは夫がこの世を去った後の話だが、亡夫としても無関係とはいかない。

「たとえば、亡夫に兄弟がいなければ、残された家族の介護問題や墓の管理は、妻の役目になる。そういった負担を妻が拒んだことで、子供にその役目が降りかかるケースがあります」(共著者でお墓・葬儀コンサルタントの吉川美津子氏)

 死んだ後に家族に迷惑がかからぬよう、生前から妻との関係は良好にしておくべきだろう。もっとも「一緒のお墓に入ります」と承諾されていたとしても、安心はできないのだが。

※週刊ポスト2017年2月27日号