日経の元敏腕記者が明かす、崩れ始めた広告モデル
24年間お世話になった日本経済新聞社を退社・独立して1年が経った。衝動にかられて辞めたわけではない。かねて私は「新聞」が500年ぶりの大変革期を迎えていると考えていた。その中で、経済専門紙である日経新聞はまだ優位性があると見ていたが、業界全体の地盤沈下の中で、残念ながらそれも難しいと見切ったのだ。
もっとも縮小均衡の経営でいけば、私の60歳定年(2022年のはずだった)までは世間相場以上の収入は得られただろう。だが、縮小均衡の組織の中では面白い仕事は望めないし、ジャーナリストの命である「自由」は保てない。
500年ぶりの大変革期とは何か。日経の特派員として勤務したドイツには、世界最古とされる「新聞」がある。国境のボーデン湖に近い修道院で見つかったもので、1605年と記載されている。この「レラツィオン」は、ヨハン・カルロスという製本職人が副業として始めたもので、発行部数は150部であった、という。世界最古とされる「日刊紙」も、やはり17世紀に創刊され、世界に広がった。
新聞が生まれた背景にはイノベーション(技術革新)があった。1445年にヨハネス・グーテンベルクが発明した活版印刷の普及と、1516年にフランシスコ・ダ・タシスという人が欧州域内で始めた郵便の普及である。つまり、大量に印刷して、短時間に届ける、という仕組みだ。そこにはルネサンス以降の「個」の確立もあった。個人(市民)が個人とつながって「情報」に価値を見出す社会になった。この時代、情報の信頼の基礎は「個人」にあった。伝達者である「××」という個人を信用するから、その情報を信じるというわけだ。
19世紀以降の近代国家の成立とともに新聞は大躍進を遂げた。その背後にも、電信の発明・発達や近代郵便制度の広がりというイノベーションがあった。一方で、「個」に置かれていた信頼の基礎は「組織」へと移っていった。人々は「××」という記者個人よりも「朝日新聞」「中外物価新報(日経新聞の前身)」といった組織に信頼を置くようになったのだ。「個」から「組織」の時代への変化が近代新聞社を生んだのである。
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