給料を上げず、もっと仕事をさせる方法はあるか
■「やる気」はお金では長く続かない
「やる気」は脳内でドーパミン神経系が活性化して生まれる。勉強をして褒められた、スポーツで記録を更新できた、その瞬間、脳内では「嬉しい!」という喜びの回路が一気に活性化する。それがドーパミン神経系だ。
ドーパミンに関しては、サルにランプが点灯したらボタンを押すよう教え込み、成功したら褒美としてジュースを与える、という有名な実験がある。この実験でサルはジュース欲しさにボタンを押し続ける。するとサルの脳内ではジュースを味わう前にドーパミンが活性化しはじめる。「喜びの前倒し」が起きるのだ。
「ランプが点いた」→「ボタンを押せばジュースをもらえるはずだ」→「嬉しい!」。報酬を期待するサルは張り切ってボタンを押し続ける。
サルにとって報酬はジュースだが、人間にとって一番の報酬はやはり金銭だ。ドーパミンの具現化がお金であり、社員の「やる気」を出させるために給与でコントロールするのは正しい方法なのだ。だが、ここで問題が出てくる。一つは給与は無尽蔵にアップできないこと。もう一つはこの方法は長期的にはうまくいかなくなることだ。
先ほどの実験ではジュースを与え続けたサルは次第にモチベーションを落としていく。正解したら報酬をもらえることを覚えたサルは「報酬はもらえて当然」と慢心するようになるのだ。
これを給与に当てはめるとどうなるか。「給与=もらえて当然」では社員の「やる気」は上がらないし、もし不測の事態で給与カットにでもなればドーパミン活動は停止し「やる気」ゼロの状態に陥ってしまう。通帳を見て怒りに転じる恐れすらある。これを回避するためには給与以外の報酬体系をつくるしかない。「給与以上に名誉」と社員が感じる報酬システムを。
ここで注目すべき要素が人間の気質である。経済的に豊かでない社会では、人々は食べることに精一杯で自分の気質にこだわっている余裕はない。しかし今の日本のように豊かな社会では、自らの気質に忠実に行動しても生死に関わることはないから、人は気質によりこだわるようになる。職場でもその傾向は強くなる。だから気質は社員のやる気を引き出すのに有効な材料なのだ。
人の気質は4つに分けることができる。気質によって何に名誉を感じて喜ぶか、基準は異なる。給与以外の報酬を与える場合も、自社の社員がどのような報酬なら喜ぶのか、事前のリサーチが必要だ。4つの気質の見分け方はシンプルだ。気質は遺伝的、先天的なものであり、職業を選んだ時点で一定の気質は表れている。部署によっても、その傾向には方向性がありカテゴライズしやすい。
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従業員を見分ける、4つの気質(1)報酬依存性
特徴/体育会系気質。この気質と親和性が高そうな企業としては、リッツ・カールトンやオリエンタルランドが挙げられる。
□誰かにプレゼントを贈るのが好きだ
□悩み事は自分で抱え込まず、相談する
□寂しがり屋だ
□怒りが爆発すると周囲の人やモノにあたる
□甘いものが好きだ
(2)固執性
特徴/職人肌。開発に携わる人材に多い。
□約束した時間は守る
□好きなことに没頭する
□割り勘は10円単位まできっちり分ける
□食事は決まった時間に食べる
□ルール違反をする人は許せない
(3)損害回避性
特徴/従来の日本人はほとんどこのタイプ。インフラ系企業や公務員など安定性の高い職種に多い。
□人見知りするほうだ
□淡々と仕事をこなすのが好き
□頼みを断ることができない
□休日は家で過ごしていることが多い
□家族が何よりも大切だ
(4)新奇(探索)性
特徴/新しいものが好き。マスコミや企画部署に多く見られる。
□新しい店やモノが気になる
□規則や常識にとらわれない
□貯金が苦手だ
□前例にとらわれず、自分の考えで物事を決める
□田舎より都会の生活のほうが好き
出典:取材をもとに編集部作成
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(1)「報酬依存系」は「上から認められ褒められたい」タイプ。組織を階層化し、努力次第で階段を上っていけるシステムをつくりあげるのが効果的となる。
(2)「固執系」はオタク系完璧主義者タイプ。狭く深いジャンルを極める欲求が強い。個別分野での業績評価が有効だ。
(3)「損害回避系」は、危険を避け安定を求めるリスクヘッジタイプ。終身雇用など生涯の安定を保証することが大切になる。
(4)「新奇探索系」は、組織よりは個人として仕事を追求したいタイプ。新しい分野を開拓したら表彰するシステムを用意するといいだろう。
ドーパミンは「差」から生じる。過去と現在、あるいは他人と自分を比べて、よりよい「差」を感じると人は「やる気」を抱く。今後は気質の見極めも含めて、従業員がやる気を感じるシステムを上手につくれた企業が生き残っていくだろう。
(諏訪東京理科大学教授 篠原菊紀 構成=三浦愛美)
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