2016年10月5日、量子科学技術研究開発機構(QST)の平野俊夫理事長(前大阪大総長)が「量子科学技術による調和ある多様性の創造」と題して日本記者クラブでこのほど講演。放射線や被ばく医療など研究開発全体について説明した。特に人類初の平和目的核融合実験炉の実現を目指した「ITER計画」は、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・中国・韓国・インドの7極により推進され、世界の平和と繁栄につながると期待されているという。

QSTは、放射線医学総合研究所と日本原子力開発機構の量子ビーム部門、核融合部門を統合して今年4月に発足した。

平野俊夫理事長は、人類の歴史を振り返り「21世紀は、言語や人、慣習、宗教など文化の多様性が爆発した時代である」と指摘。障壁や対立の要因となる多様性に橋渡しをするのは、芸術やスポーツと同様に、学問や科学技術が担うと訴えた。その上で、QSTが日本側の開発主体を担う新エネルギー開発の超大型国際プロジェクト、「ITER(イーター)」について、「未来に向けた人類共通の基盤となる」と強調。次のように説明した。

ITER計画は、人類初の平和目的核融合実験炉を実現しようとするもので、2025年の運転開始を目指し、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・中国・韓国・インドの7極により進められている。

ITER計画は1985年のジュネーブでの米ソ首脳会談をきかっけとして開始され、ITER移行措置 (ITA) の活動として、国際チームの作業サイトが、茨城県那珂市にある日本原子力研究所・那珂核融合研究所 (現量子科学技術研究開発機構・那珂核融合研究所) と、ドイツのミュンヘン郊外ガルヒンクにあるマックスブランク・プラズマ物理研究所に置かれ、作業を進めた。

その後2005年6月に、フランスのサン・ポール・レ・デュランスにITERの建設サイトが決定した。量子科学技術研究開発機構は、ITER協定に基づく活動を行う我が国の国内機関に指定され、日本が分担するITER機器や設備の調達活動を進めるとともに、ITER機構への人材提供の窓口としての役割を果たしている。

核融合は星や太陽のエネルギー源であり、我々はこれを地上に実現しようとしている。 ITERの目標は核融合炉と同じレベルの温度、密度などのプラズマを実現することで、それには超伝導コイルなどいろいろな新しい工学技術が必要だ。

ITER計画の目標は、50万キロワットの核融合出力を長時間に渡って実現し、核融合エネルギーが科学・技術的に実現可能であることを実証すること。ITERは、将来の発電炉に不可欠な主要な技術をすべて含んでいる。したがって、この装置を安全に信頼性高く運転することで、将来の発電炉の技術的見通しを得ることができる。また、発電炉用の燃料(トリチウム)生産兼発電用ブランケットを並行して開発し、ITERを用いて試験し、将来の発電炉に備える。

ITERの目的の一つは、核融合炉の安全性及び環境性からみた潜在的利点を実証すること。ITERは、(1)核融合反応は暴走しない、(2)高レベルの放射性廃棄物が出ない、などの核融合炉固有の安全性を持っている。ITERの運転を安全に行うため、これらを踏まえた安全設計と安全評価を並行して進めている。

ITERでの成果と経験は、核融合エネルギーによる発電を実証するための原型炉(発電実証プラント)の設計・建設に必要なもので、人類に必要な環境にやさしい新しいエネルギー源の開発を大規模な国際協力で進めることは、「地球規模の問題を全人類が協力して解決していく」という貴重な経験になる。

フランスの核融合炉建設地、サン・ポール・レ・デュランスには、世界の頭脳が約300人集結、実験研究を行う客員の研究者や運転支援を含めると1000人程度になる。「平和目的」「成果共有」「同等の責任と義務」をモットーとした国際研究者集団が1カ所に集まり長期間の研究を行うのは、前例がない。2025年の運転開始を目指し、7極が連携していけば、世界の平和促進と人類の繁栄につながる。 (八牧浩行)