最近はあまり使われていないみたいだが、「彼もチョンガー(独身)だよ」といった言い方が、日本で昔は結構よく使われていたように思う。1980年代ごろの話だろうか。このチョンガーは紛れもなく韓国語からの転用だ。

「総角」と書いて韓国語の発音で「チョンガク」、日本語では「チョンガー」。「総角」とは朝鮮時代に未婚の男性が結っていた髪型で、後ろの方で両側に2列に分けて垂らすものだ。その後、髪型だけではなく独身の男性をも指すようになり「チョンガク」という発音で今でも韓国ではよく使われている単語だ。

「チョンガク」が日本で「チョンガー」になったのは、韓国語では「チョンガク」を「チョンガッ」のように発音するためだ。これをパッチムというのだが、このパッチムというシステムが日本語にはないため、「チョンガッ」が日本語に入る過程でおのずから「チョンガー」となってしまったわけである。

この「チョンガー」で面白いのは、「チョンガーキムチ」(韓国語では「チョンガク・キムチ」)というキムチが韓国にあることだ。長さ10センチほどの小ぶりの大根を漬けたもので、その形が男性の生殖器の形と似ているためにこの名前になったらしい。本当の語源は別にあるようだが、男性のあれに似ているからというのが韓国社会では通説として広まっている。

人口に膾炙(かいしゃ)されているから、女性の前でもなんら違和感なく「チョンガク・キムチください」と注文できる。ほほ笑ましくてなんとも大らかではないか。ただチョンガク・キムチと言うと、たいていの女性は「ふふっ」みたいな小さな笑いをこぼす。こういうあっけらかんとしたところが、韓国ならではではないだろうか。

ちなみにチョンガク・キムチ用の大根は、日本では見たことがない。アルタリ・ムあるいはチョンガク・ムといって、チョンガク・キムチを漬けるための専用の大根である。おそらく韓国だけで見られる大根なのではないだろうか。チョンガク・ムの「ム」は大根の意である。韓国に来られる折には、ぜひこのチョンガク・キムチをご賞味あれ。白菜キムチとはまた違った味を楽しむことができるだろう。

■筆者プロフィール:木口政樹
イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。