2016年10月5日、米国事情に詳しい会田弘継青山学院大学教授(元共同通信論説委員長)は日本記者クラブで「トランプ現象とアメリカ保守思想」と題して講演。米大統領選を前にした米有権者の意識について、格差拡大と中間層の没落によって米連邦政府への信頼度は極めて低く、否定的な意見は7割に達していると指摘した。その上で「米国第一主義が忍び込んでおり、クリントン氏とトランプ氏との選挙の行方は予断できない」と強調、「たとえトランプ氏が敗れてもトランプ現象は生き続ける」と語った。発言要旨は次の通り。

米国では1990年代以降格差が拡大し、中産階級が没落した。2008年のリーマンショック後、この傾向はさらに顕著となった。白人労働者階級を民主党から引きはがし、「小さな政府」と減税路線による繁栄の追求で保守黄金時代を築いたレーガン主義は維持困難になった。大企業主導の繁栄追求(トリクルダウン)は中産階級に何ももたらさないことが分かった。

12年の統計で、上位1%の富裕層が保有する米国全体の富に占める割合は42%。上位10%の富裕層が保有する富の割合は77%に達する。15年の貧困率は13.5%と際立っている。

米ビュー・リサーチセンターの最近の世論調査によると、米連邦政府への信頼度は20%程度と低く、「怒り」と「不満」を合わせた否定的な意見は71%に達している。支持政党にかかわらず、9割前後の有権者が「政府は金持ちを優遇している」と回答。86%が海外移転による雇用流出が問題の元凶と見ている。

特に、米国有権者の4分の1を占める白人下層中産階級の「疎外」意識は高まるばかりだ。彼らは「政府は金持ちと貧乏人ばかりを大切にし、そのツケを払っているのは中間層だ」と強い不満を抱く。彼らは政治的に保守でもリベラルでもないが、「小さな政府」ではなく、社会保障に気配りする政治を求めている。彼らはトランプ氏支持者に重なる。

冷戦時代を知らない若者世代は社会主義や共産主義へのアレルギーがなく、多くが社会主義者のサンダース氏を支持したが、トランプ氏支持にも回り得る。

かつて米国は「低位の階級でも努力によって這い上がることができる国」と言われたが、現在は「世代が変わってもやり直しが効かない硬直的な国」に変わった。格差の固定化度(世代間所得弾性値)は主要先進国で英国と並んで最も高く、日本、ドイツなどを大きく上回る。

この結果年金・医療保険の拡充、インフラ投資重視などは共和党と民主党の主張が同化し、民主党も反グローバル=反TTPに傾かざるを得なくなった。

米大統領選の背景には、米国社会経済構造の変化と世論の激変があり、民主党・クリントン候補と共和党トランプ候補のどちらが勝つか予断できない。例えトランプ氏が破れても「トランプ現象」は生き続ける。(八牧浩行)