[東京 18日 ロイター] - 米財務省が14日に公表した為替報告書は、前回4月と同様に、これまでの円相場の動向はファンダメンタルズから逸脱した無秩序なものではないとの認識を改めて示した。

さらに日本当局の「口先介入」については「執拗」と表現。今後、円高が進行しても、日本当局が円売り介入を実施するのは難しいとの見方が、市場関係者の中で一段と強くなっている。

<問題なしとの認識変わらず>

半年に1度、米財務省が公表する為替報告書。今回もドル/円相場は問題なく機能しているという米側の認識は変わらなかった。

前回4月の秩序だった(orderly)という文言から、「円滑に機能している(functioning smoothly)」と表現は変わったが、為替政策に関するG7とG20のコミットメントを順守することが重要であるとの主張を繰り返している。

10月報告書では、円高の進行度合いについて、4月報告書時点の106円台を起点とせず、あえて年初からのより大きな上昇幅を取り上げた。9月末までの円相場の上昇を18.7%(実質実効ベースで8月末までに18.0%)とした上で、「円滑」な変動との判断を下した。

10月の報告書で、国際通貨基金(IMF)による円の実質実効レートの評価が引用されたことも興味深い。IMFは昨年時点で、円相場がファンダメンタルズに比べ、やや割安だと見ていたが、2016年央では円相場が中期的なファンダメンタルズにほぼ整合的とした。

「今回、新たに引用したIMFの見方を米財務省が共有しているのであれば、円相場はこれまで過小評価されていたのが中立的な水準に回帰したとの認識となり、円売り介入へのハードルは依然高そうだ」と、JPモルガン・チェース銀行、為替調査部長の棚瀬順哉氏はみている。

<日本の口先介入に不快感>

一方、今回10月の報告書では、日本当局の執拗(persistent)な口先介入を指摘したことも特徴だ。日本当局が2016年の円高局面で、ドル/円相場の値動きが「荒っぽい(rough)」とし、必要であれば「断固たる対応をする」と警告するなど、執拗に円高けん制発言を行ったとしている。

前回4月も日本の口先介入ついての言及はあったが、執拗という文言は使われておらず、米側のいらだちも見え隠れする。

「今回の為替報告書を見ると、一方的な円安指向は米国、G7はもちろん、G20においても受け入れられず、他国がどう言おうと言うべきは言わせてもらうという日本の立ち位置は、厳しくなっていくように思われる」と三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は述べる。

為替報告書の発表に先立つ今月7日、ルー米財務長官は麻生財務相とワシントンで会談している。

米財務省が会談直後に発表したステートメントによると、ルー長官は会談の中で「成長促進のため政策手段を総動員し、競争的な通貨切り下げを避け、競争力のために為替レートを目標にしないという上海G20でのコミットメントが、ここ数カ月の世界経済の信頼醸成に寄与していると強調した」。

<金融政策は「アナリストの見方」を紹介>

米為替報告書では通常、各国の金融政策についてまず事実を簡単に記述し、その上で財政政策や構造改革など他の政策との関連で金融政策の位置付けに言及する。

例えば、昨年4月の報告書では「金融政策への過度な依存と財政の過度な引き締めを避け、バランスのとれたマクロ政策が必要」とし、昨年10月の報告書では「金融政策への過度な依存と、円安頼みの外需主導の経済成長を避けるために柔軟な財政政策が必要」との記述が見られた。

1月のマイナス金利導入後の今年4月の報告書では、「G7とG20において、日本は金融、財政、構造改革という全ての政策ツールを使うことにコミットし、金融政策のみではバランスのとれた成長をもたらしえないことに同意している」とした。

今回の報告書では、全ての政策手段を使うことが一段と重要になっているとし、GDPの6%規模の大型財政刺激策の真水部分は、事業規模の約4分の1に過ぎないとしつつも、労働市場対策などを評価している。

ただ、日銀が9月に金融政策の目標をマネタリーベースから「イールドカーブ・コントロール」にシフトしたことや「インフレ・オーバーシューティング」に対するコミットメントについては、「こうしたレジーム変更が、マイナス金利の深掘りを含め日銀に一段と金融政策の柔軟性を持たせるとの『アナリストらの解釈』もある」とした。

アナリストの解釈を引用するのは異例であり、米財務省が日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」には一定の距離をとっているのではないか、との見方も市場には根強くある。

(森佳子 編集:田巻一彦)