[東京 19日 ロイター] - 日本企業による海外企業の合併・買収(M&A)が積極化しているものの、東京株式市場での評価は今ひとつだ。成功例が少ないため、厳しい視線を投げかけられている。

一方、海外企業への事業売却は総じて好評価。最近におけるグローバル経済の停滞感も加わって、「攻め」より「守り」の戦略を評価する構図が浮かび上がっている。

<被買収企業狙うファンド>

買収される企業を専門に狙うヘッジファンドがある。バリュー投資の一種だが、近い将来、買収されそうな企業の株式をあらかじめ仕込んでおき、実際に買収が決まれば、そこで売り払う。買収額には通常、プレミアムが乗るため、被買収企業の株価は上がりやすい。

コマツ<6301.T>は7月21日、米鉱山機械メーカーのジョイ・グローバル<JOY.N>を約28億9100万ドル(約3036億円)で買収すると発表した。プレミアムは20.5%。ある米ニューヨークベースのヘッジファンドが、この米社の株式を先回りして買っていたと関係者が明かす。

「買収されるタイミングを見極めるのは難しいが、買収されそうな企業の株価は比較的安いし、買収額にはプレミアムも乗る。一方、買収する側はプレミアム分を稼いで初めて買収は成功となる。どちらの企業を買ったら儲けやすいかは自明だろう」(国内ヘッジファンド)という。

実際、日本企業による海外企業の買収は、成功例が少ないと言われる。「海外企業のケースと比べ、日本企業が付けるプレミアムはそれほど高いわけではないが、企業文化の違いで買収後の経営がうまくいかないケースが多い」と早稲田大学大学院ファイナンス研究科・客員教授の服部暢達氏は指摘する。企業への強い「帰属性」を求める日本企業のカルチャーに対し、摩擦が起きやすいという。

<買収側の企業、市場では厳しい評価も>

マーケットでは、過去の「実績」を参考に判断する参加者が多く、海外企業の買収を打ち出した国内企業の株価は、少なくとも短期ではさえないケースが多い。

「国内に成長余地がないために海外を強化するとか、時間を買うとか、非常に漠然とした理由で動く日本企業が多い。大型案件になればなるほど、投資家はネガティブな印象を持ちやすい」と、ベイビュー・アセット・マネジメントの佐久間康郎ファンドマネージャーは話す。

アサヒグループホールディングス<2502.T>は2月10日、約3300億円で欧州のビール事業を買収することで合意したと報道された。その時点から10月18日までに同社の株価は1.1%高。その間の日経平均<.N225>は5.5%高で、アンダーパフォームだ。

「成功したM&A案件であっても、国内企業の業績に反映されるには、相当の時間が必要となる」(ドルトン・キャピタル・ジャパンの松本史雄シニアファンドマネージャー)との見方や、買収資金の負担、一株利益の希薄化への懸念などが、株価にネガティブな反応をもたらすことが多い。

9月13日に約840億円で米自動車向け材料メーカーの買収を発表した帝人<3401.T>は、直近まで1.9%安(同期間の日経平均は1.4%高)。3月25日に約1330億円でオランダの農機用タイヤ企業の買収を発表した横浜ゴム<5101.T>の株価は、12.8%安(同0.2%安)と市場平均を下回っている。

2015年2月23日にリチウムイオン電池向け材料を手掛ける米社を約2600億円で買収すると発表した旭化成<3407.T>に至っては、29.2%安。日経平均の8.1%安と比べ大きく劣後している。

これに対し、英半導体企業を約3.3兆円で買収するソフトバンクグループ<9984.T>は株価が大きく上昇(10月18日終値時点で10.5%高、日経平均2.8%高)している。だが、自社株の買いや消却など別の株高材料も入っているため、M&Aを評価した買いがどれだけあるかは評価が難しい。

<事業売却は株高材料>

一方、事業を売却するなど「守り」の戦略に対し、市場は高評価を与えている。

中国レノボ・グループ<0992.HK>とパソコン事業の統合に向けた交渉をしていることが今月6日に明らかになった富士通<6702.T>。同社の株価は、その日一時8.6%上昇した。業績が低迷していたパソコン事業への「対処」にめどが立ったと受け止められたからだ。

韓国企業に、マレーシア子会社を9800万米ドル(約98億円)で売却すると前月28日に発表したトクヤマ<4043.T>の株価は、18日までに41.3%高。マレーシア子会社は設備の技術的な問題や市況悪化などで同社の収益悪化を招いていたため、売却による収益性改善が期待されている。

赤字部門を切り離せば、一株利益は上がる。事業を赤字化させたというマイナスの評価は、通常すでに株価に織り込まれている。赤字部門の譲渡や売却は、その値段にかかわらず買いたたかれたとしても、株式市場では「アク抜け」や「悪材料出尽くし」として、株価のプラス材料となりやすい。

「さまざまなステークホルダー(利害関係者)を抱える日本企業が、不採算部門を切り捨てるなど抜本的に事業を見直す変革の動きをみせていることを、市場は前向きにとらえている」(日本アジア証券・エクイティ・ストラテジストの清水三津雄氏)との声もある。

<低成長時代に選好される「確実性」>

「攻め」より「守り」を評価する市場。岡三証券・シニアストラテジストの小川佳紀氏は「投資家の期待以上に成長が可能な投資案件が、果たしてあるのかというとそうでもない。利益に結び付く『確実性』という面で、構造改革の方が評価されやすい」とみる。

ただ、人口減少で国内市場が縮小していく日本で「守り」の戦略がこれからも市場の評価を得るとは限らないし、「攻め」の評価が低いままとは限らない。

M&Aの「勝ち組」と言われるJT<2914.T>。米RJRナビスコの米国以外のたばこ事業を約9440億円(当時)で買収することが明らかになる前日の1999年3月8日終値と比較した株価の騰落率は、1カ月後で9.7%高だったのに対し、この間の日経平均は14.0%高。その1年後は29.3%安(同期間の日経平均は33.7%高)という展開が待ち受けていた。

だが、5年後には23.0%安(同22.2%安)と、日経平均と同程度のパフォーマンスに回復。さらにJTは07年、英たばこ大手ギャラハーを1兆7200億円(当時)で買収したが、その後も日経平均を上回る上昇をみせ、足元の株価は99年3月8日比で約3.9倍と日経平均の14.8%高を大幅に上回る。

グローバル経済が停滞するなか、「攻め」の戦略に厳しく、「守り」が好感されやすいというのは、海外市場でも同様だ。しかし、成功例が少ないという日本企業による海外企業M&Aの評価は、市場に定着してしまっている。それを変えるには地道に実績を積み上げていくしかないだろう。

*見出しを修正して再送します。

(長田善行 編集:伊賀大記 田巻一彦)