[ブダペスト 5日 ロイター] - ハンガリーのオルバン首相は、難民に対する敵意を遠慮なく口にすることで知られ、国境に有刺鉄線を張りめぐらせて難民を締め出している。だが同時に、ハンガリーに住むのにカネを支払えるほど裕福な外国人にはそっと門戸を開いている。

2013年に始まったハンガリーへの移住希望者向け「居住者債券」プログラムは、欧州が提供するきれいな空気や教育機会、のんびりした生活ペースを楽しみたいと考える数多くの外国人、なかでも中国人富裕層を魅了している。中東での紛争から逃れてくる難民とは対照的に、こうした移民はとても歓迎されていると感じている。

「これは成功したプログラムだ。国にカネを呼び込み、1ペニーも国外に出ていないのだから」と、オルバン首相は3日、議会で野党の質問に答えてこのように語った。

Yan Dingさんは2015年4月、妻と娘と共にハンガリーの首都ブダペストに到着した。同プログラムの下、ハンガリーに移住した中国人約1万人のうちの1人だ。

北京出身のYanさんは、両親から受け継いだ不動産を売却し、30万ユーロ(約3500万円)相当の政府保証債を購入。これにより、欧州連合(EU)加盟国であるハンガリーに家族と一緒に5年間住める権利を得た。

「自分のためではなく、もっぱら娘の教育のため、将来のために来た」と、Yanさんは通訳を通してロイターに語った。

Yanさんによると、娘のXue Erさんは現在、地元の学校に入学し、ハンガリー語も少し話せるようになった。先生ら学校側から温かい支援を受け、娘がなじむよう尽力を得たという。

「中国では経済が急速に発展しているが、汚染がひどく、都市も急成長しているため、子どもに受けさせたいような教育が得られない」とYanさんは言う。

中国の学校で娘を過熱した競争にさらしたくなかったとYanさん。競争激化は1クラスの生徒数が多いことが原因だと考えていた。ハンガリーでは通常、1クラスの人数は多くても25人で、これは中国の基準からすると非常に少ないという。

居住者債券プログラムの参加者は、債券購入資金のほか、申請手続きを行う機関に5万ユーロという高額な手数料を支払わなければならない。だが5年たてば債券は償還され、支払った30万ユーロを回収できる。そして、ハンガリーに滞在する権利はそのまま維持できるのだ。

<レッドカーペット>

他のいくつかのEU加盟国も同様のプログラムを運営しているが、ハンガリーはほとんどの国よりも安く、すぐに居住権を提供している。

公式統計によれば、このようなプログラムに応募する裕福な外国人の圧倒的多数が中国人で、彼らはレッドカーペットの上を歩くように大歓迎を受けている。一方、全く対照的なのが、過去1年に欧州へ逃れてきた何十万人もの難民だ。その大半はシリア、イラク、アフガニスタンからやって来た人たちで、彼らはオルバン首相から繰り返し非難を浴びている。

オルバン首相は、ほとんどがイスラム教徒であるこうした難民は、欧州の安全保障とキリスト教社会に脅威を与えると主張する。

オルバン首相の働きかけが功を奏し、EUが提案する難民受け入れ分担をめぐる2日の国民投票は、反対98%で否決された。投票率は40%と、国民投票の成立に必要な50%に届かず無効となったが、首相は難民受け入れに反対する姿勢を崩してはいない。

前述のYanさんは、ハンガリーから閉め出されている難民と、自分のような債券購入者を比較することを拒んだ。

「中国からの移民は全く異なる立場にある。中国で貯金し、財をなしてきた。故に期待を抱いている」とYanさん。「ハンガリーの政府も社会も、その違いを見失っているようには思えない。ネガティブなことは何も起きていない」

中国人の債券購入者の多くは起業の経験があり、新たな投資機会を求めている。

Yanさんも、ハンガリー国内外で投資する方法を同国に新たにやって来た人たちにアドバイスする会社を共同で設立した。

「ハンガリーの技術や良いソリューションを中国に輸出したい」と、YanさんのビジネスパートナーであるZhang Jinjunさんは話す。新たにやって来た人たちは、ハンガリーと世界第2位の経済大国である中国との商業的つながりを活性化したという。

「20年ここにいる。これまで私たちは衣服や靴といった従来のビジネスに深く関わってきたが、新たにやって来る人たちはアイデアが斬新だ。資金もまだ生かされていない」

ある晴れた日、Yanさんはハンガリーに来て間もないカップル2組を、ブダペストのドナウ川近くのロフトに案内した。この辺りは、中国人が経営する企業が、投資機会を検討するためにオフィスを構えている地域だ。

大都市の広東省広州でオーディオシステムを売っていたが、2月にハンガリーにやって来たというWang Minjunさんは、今後のビジネスの見通しは明るいと考えている。

「ハンガリーのマーケットを知れば、(ステレオを売って)やっていけると思う。それがうまくいかなくても、他の何かに投資する」とWangさんは語った。

(Marton Dunai記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)