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『風の谷のナウシカ』に登場する架空の飛行用装置「メーヴェ」の実現にむけて着手から13 年。「OpenSky Project」のテスト飛行を見事成功させ、注目を集めた八谷和彦氏。そして、いま最も注目されている技術「VR」を研究する稲見昌彦氏。

誰も挑戦したことのない「夢」を「現実」にするために、おふたりはどのような道を歩んできたのでしょうか?

そしてテクノロジーの突破口を作るために欠かせない、意外な視点とは?

茨城県つくば市にて開催された「ニコニコ学会βサマーキャンプ」を会場に、同学会実行委員長・江渡浩一郎氏を司会に迎え、「空想」を「現実」へ変えた舞台の裏側と、そのモチベーションについて想いを語っていただきました。

「空想」を「現実」に変えた2人は何者なのか?

江渡浩一郎氏(以下、江渡):それでは、自己紹介からお願いできますか?

八谷和彦氏(以下、八谷):私はビジネスマンの経験を経て現代美術作家になったのですが、別に作家になったからと言って以前のスキルを捨てる必要はないと思い、作品制作にも商品開発の手法を取り入れていました。その結果誕生したのが、メールソフト「ポストペット」です。企画を立て、人選をしてチームを組み、当時まだベンチャーだったSo-net(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)にプロトタイプを持ちこみ、プレゼンを経てリリースに至りました。その後、ペットワークスという会社を立ち上げて初代社長を務め、現在は取締役をしています。

ペットワークスはソフト開発のみを行うのではなく「自分たちが好きで、かつみんなが欲しいものを作る」をポリシーとしており、現在はオリジナルのお人形を製作・販売するドール事業をメインに、飛行機の開発もおこなっています。僕は東京芸術大学の教員もやっているので、たまに「芸大が飛行機を開発?」と思われることもありますが、基本的にはOpenSkyは会社のプロジェクトです。もっとも、会社で関わっている社員は僕ひとりですが。

「大きいメーカーでは作らないような、自分が一機だけ欲しいと思う飛行機を作ろう」と思い作り始めたのが2003年。それから13年かけて、ようやく今年ジェットエンジンで高い高度を飛ばすことができました。

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稲見昌彦氏(以下、稲見):私は、趣味が高じてそのまま研究者になってしまったようなもので(笑)現在は東京大学の先端科学技術研究センターにて教授を務めており、身体情報学という講座を担当しています。

学生の頃に所属していた研究室で助手に「必修だから」と勧められた漫画と映画の『攻殻機動隊』をきっかけに、同作に登場する光学迷彩技術の研究を始めました。

また、最近は「超人スポーツ協会」の共同代表として活動をしています。小さい頃から「空を飛んでみたい」と考えていたのですが、全く運動神経がなく、高いところから飛び降りて遊んでは骨折をする始末。そのため自分はスポーツとは縁がないと思っていました。

しかし大人になるにつれて、八谷さんも空を飛ぶ研究をされているように、テクノロジーを駆使すれば「空を飛びたい」という願いが叶えられるんだと分かったんです。そこで「超人スポーツ協会」を立ち上げ、「テクノロジーと身体を組み合わせた未来のスポーツを作ろう」という試みを様々なジャンルの方と一緒にすすめています。

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今年は、江渡さんとニコニコ学会β運動会部部長の犬飼博士さんの協力もあり、国体開催地の岩手県で「国体のスポーツをプレーするだけでなく、新しいスポーツを作ろうという」という「岩手発、超人スポーツプロジェクト」を地域の方と協力しつつ進めています。ぜひ、楽しみにしていてください。

メーヴェは実は35年ぶりの民間国産ジェット機

江渡:八谷さんは今年7月に「OpenSky Project」のテスト飛行を成功させましたが、そこでみんなが聞きたいのは、一番高いハードルはどこでしたか?ということだと思います。また、ブレイクスルーした瞬間についても教えていただけますか?

八谷:こういう話になると、機体を作ることの困難さだと思う人も多いかもしれませんが、正直、航空局からの許可を得ることが一番大変でした(笑)

この機体は航空法上は「自作航空機」にあたるので、国土交通省の中にある航空局に申請して、機体の許可、パイロットの許可、そして飛行場所の許可の3つの許可を取らなくてはいけません。乗員の許可は先にグライダー版を作って70本近く飛ばしていたことや、超軽量動力機の訓練を2年ほど行い、自分で飛んでいることを示し、航空局の人と面談して許可がとれました。

飛行場所については通常は新千歳空港などの中にある航空局に申請を出すのですが、そこもそれほど問題なく許可が取れました。

一番大変だったのが機体の許可でしたね。例えば訓練で乗っていた超軽量動力機は、多くの場合は海外製で、すでに飛んでいる実績があるので比較的楽に許可が取れるのですが、今回のように「設計も製造も新規、試験飛行もこれから」という機体の場合は、普通の飛行機と同じような扱いになるため「耐空性審査要領」という分厚い本を買って、該当する航空機に必要な仕様にどれだけ対応しているかを調べ、書類作成して提出しなくてはいけなかったりします。

そんなこんなで、書類作成に2ヶ月、そのあと審査含めて許可まで結局半年以上かかりました。ただ、これも一度審査に通れば終わりではなく、担当官が年に一回変わるのですが、その際に以前は指摘されず、これまでも全く問題なかった箇所についても試験開始3日前に突然調査依頼が来るとか、こちらからすると、かなり理不尽に思えるようなこともありました。しょうがないので全力で期日内に対応してましたが。

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そんななかでブレイクスルーした瞬間ははやり「飛んだ」ということですね。

そもそもメーヴェの形をした飛行機がこの世には存在しないので、飛ぶかどうか分からないところからスタートでした。「存在していない」ということは、「そもそもあの形で飛ぶのか?」とか「飛んだとしても作るのが大変」とか「飛行形態が独特すぎて訓練が難しい」などさまざまな理由ありますが、目標はメーヴェの機能的な実現ですので、なるべくあの形を生かして、安全に飛べて、普通の人が操縦出来る機体を作りたいと思いました。

ですので、グライダー版を作って、2006年に初めてあの機体を自分が操縦して飛ばしたとき、チーム全員が「やった!」と感動したんですが、グライダーだったせいか世間の反応は思ったより盛り上がらなくて。10年後の2016年7月にジェットエンジンをつかって高高度で飛ばしたときはメディアにもたくさん取り上げていただき、皆さんの反応も良かったですね。こうして自力で飛ぶ形になってはじめて、やっと人は納得してくれるんだ、と感じることもありました。

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稲見:(メーヴェの映像を眺めながら)これって音の大きさはどれくらいなんですか?

八谷:ジェットエンジンの音はめちゃめちゃうるさいですよ(笑)周りのスタッフも含め、耳を痛めないように、全員イヤマフをしています。

私は美術作家なので、まあアーティスト的なやんちゃさで無許可で飛ばす、ってこともあり得たかもしれませんが、「ここ35年ほど、新規の民間国産機が製作されていない中、個人がちゃんと航空局の許可を取って飛ばしたほうが数段カッコイイ」と思っていました。

というのも、個人でああいう形状のジェット機を航空局の許可を取って飛ばした例は今までないですし、考えてみたら国産のビジネスジェット機って三菱重工が1978年に初飛行させたMU-300以来なんですね。最近は三菱航空機のMRJや自衛隊の技術実証機X-2も試験飛行していますが、新規の機体がつくられないと、そもそも機体審査体制も維持できないので、ほそぼそとでも新規開発があるのはとても重要だと思うのです。

全てのテクノロジーをブレイクスルーさせるのはスマホ!?

江渡:この話をずっと聞いていたい気持ちもありますが、続いて稲見先生にも。
今年2016年はVR元年といわれていますが、稲見先生の研究分野でハードルとなっていることや、同じくブレイクスルーした、またはしそうなことなどを教えてください。

稲見:いま、バーチャルリアリティや人工知能という言葉を聞かない日が無いくらい大ブームになっていますよね。私自身は90年代から大学のサークルでVRのデバイスなどを作ってきたので、当時から「こうした技術が当たり前になればいいな」と思っていました。

今年はVR元年と言われていますが、実は最初にVRがブームになったのは1990年くらいです。非常に示唆的なのですが、当時、数百万円という価格ながら世界初の商業HMD(ヘッドマウントディスプレイ)が発売され、その名前が「Eye Phone」(アイフォーン)だったんです。

(会場ドヨめく)

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そこで2007年に「iPhone」が登場したときに、多くのVR研究者が「アイフォンといえばHMDのことじゃないのか?」と言っていた。そして現在「iPhone」つまりスマホが、HMDへと戻って来ました。1990年代のVRと2016年のVRの大きな違いは、スマホやコンピューターの進化・発展だと考えています。

つまり、ブレイクスルーのきっかけは最先端のテクノロジーかと思いきや「テクノロジーの民主化」なんです。特にVRやARは、実際に体験しないと理解しにくい分野ですが、現在のVRブームで多くの方が体験し「使える」と認識されたことで一般化して、今後さまざまなサービスが生まれていくと思います。

一方でハードルの話。実はHMDやARの技術は、テクノロジー自体は早くに完成していたのですが、技術だけでは解決できない問題がありました。それは、“未来”って我々が想像するほど“未来っぽくない”ということです。

例えば、80年代の人が思い描いていたような、宇宙服みたいなファッションなんて現在でも着ていませんよね。そうした“未来っぽくない未来”に先端技術をどう接続していくか、という問題です。

例えば、こちらは私がJINSと共同開発したウェアラブルデバイス「JINS MEME」で、メガネの鼻の部分の電極で眼球の動きなどを捉えているという機能が付いています。このデバイスの大きなポイントはほかの多くのウェアラブルグラスと比べ、「普通のメガネ」に見えるという点です。

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JINSの方は開発を進めながら何度も「ディスプレイとか付けたい」という衝動に駆られたそうですが、自制したそうです。それは、“現実の延長にある未来”に接続するためです。

我々エンジニアはどうしても足りないものがあると足したくなりますし、技術で解決できることはできる限り解決しようとするのですが、最終的な製品やサービスが「一般的に受け入れられるかどうか」を考慮しなくてはいけません。

例えば、私が個人的にメガネを改造した大仰なデバイスをつけて家で遊んでいたとき、妻から「その恰好で電車に乗らないでね」と釘を刺されたこともありました(笑)

八谷:(笑)

稲見:これは笑い話で済みますが、実は本質を突いていて。ブレイクスルーというとテクノロジーの話になりがちですが、それ以上に、社会性との接続部分をどう埋めていくかについて、我々エンジニアも考えねばならないのです。

八谷:お話を聞いていて、ポケモンGOの開発チームの人がβ版を自分の子供にやらせたら「ポケモンって本当にいるんだね!」と子どもが大興奮していて、それでヒットを確信した、という話を思い出しました。ビジネスとして成功しようとするなら、「本当にそこに自然にある」という感覚を一般の人が体験できるところまでもっていかないといけないですよね。

稲見:ポケモンGOについては国会でも「オンラインゲーム議員連盟」が設立され議論になっているそうですね。現実の人の動きをバーチャル世界から制御できるようになっただけではなくて、現実世界にオーバーレイされている“バーチャル世界の情報”の持ち主や責任者はだれだ、という議論になっている。これはすごいことだと思います。

フィクションの技術を、「現実」で達成させちゃいけない!

江渡:ポケモンの話題が出たところで。こうしたアニメから着想を得て開発した新しい技術という点がお二人に共通していると思うのですが、それが現実にどんな波及効果を生んでいるでしょうか? また、アニメの世界観を100%だとすると、現在の達成度は何%でしょうか?また、100%にするために何が必要か、お話いただけますか。

八谷:「OpenSky Project」で作っている「M-02J」のことを、私自身は「メーヴェ」と呼ぶことはないです。ただ、「メーヴェのような機体」もしくは「メーヴェの原型機」と呼ぶことはあります。というのも私はあれを「メーヴェそのものではない」と思っていて……再現度でいうと50%くらいでしょうか。

しかし、さきほどのVRの話に近いのですが、航空機の動力として、超小型ジェットエンジンが「人ひとり」を飛ばすことが十分可能なくらいの出力と価格帯になってきていたり、また、ハイブリッドカーやEVに使われているモーターやバッテリーも量産により低価格化しています。一方、制御に関してはドローンはスマホに内蔵されている加速度センサーやGPS、磁気センサーが低価格化し、簡単に実装・制御できるようになって実現したわけです。こうしたあらゆる動きが数年後にはパーソナルフライトシステム……つまり、「個人が空の移動を簡単にできる仕組み」として結実するんじゃないかと思っています。

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(2016年7月に実施されたジェットエンジン機「M-02J」のテスト飛行 撮影:米倉裕貴)

技術革新は研究領域からハイエンドの遊びを経由して皆が使うところに至るものなので、VRやパーソナルフライトシステムは、あと数年のうちに「みんなが普通に使う技術」にいたるんじゃないかと。

私は最近は全天周…つまり、360度映像が撮影できるデバイスにも可能性を感じています。「テトカメラ」って呼んでいるのですが、機体を操縦している私の肩からの視点を映像で撮って、「肩乗り映像」として、多くの人が楽しめる映像にしたいな、と。これも3〜4万円程度の全天周カメラとスマホとハコスコみたいな簡易スコープで実現できるので、こういう低価格帯のVRも大事かな、と。

稲見:そうそう、360度映像ってVRにおいて、とても大切なんです。なぜなら「頭の動きと同期しているかどうか」がHMDを使ったVRの本質だからですね。例えば電車で寝過ごしたとき、今自分はどこにいるんだろうとキョロキョロしますよね?これはとても大切な動作で、360度映像は「キョロキョロ」を可能にすることで、その空間に自分がいる感覚を与えられます。

以前はそのための機材に億単位のお金が必要でしたが、現代はiPhoneでできる。そんな風にカジュアルにVRが民主化した、というところもポイントですよね。

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江渡:VRの話は稲見先生から、『攻殻機動隊』の話も交えつつ達成度について、お願いします。

稲見:私の研究がアニメの影響を受けたというのは先ほど申し上げた通りですが、達成度が何%くらいかという話でいいますと『攻殻機動隊』の世界と比較すると5%くらいだと感じています。『電脳コイル』だと10%くらいですかね。

八谷:わりと厳しめですね。

稲見:やはり技術は、お金だけでは解決できないこともありますから。テクノロジーって単独で進んでいくものではなく、他の技術と互いに進化し合うものなんです。例えば侵襲的なデバイスは「医療的には使えるけど、健常者には使えない」という問題もあるのではないでしょうか。

また、我々研究者はアニメやSFの影響を一方的に受けているだけではなくて、研究がフィクションに影響を与えるようなことも起き始めています。例えば光学迷彩技術には「再帰性反射材」という素材を使用するのですが、ヒーローもののハリウッド映画で、透明になるときに『再帰性反射パネル展開!』というセリフが登場します。フィクションの世界でリアリティを出すために、今度は我々の研究のキーワードが使われているんです。 まだ5〜10%しかない達成度を100%にするためには当然時間がかかりますし、フィクションを現実化しようという強い意志を持った技術者が継続的に加わる必要があります。そのためには、私は現実とフィクションがお互いに影響しあい、技術者、クリエイター双方のモチベーションを高めるしかないと思っています。我々はフィクションの世界からアイデアをもらい、フィクションの世界もリアリティを出すために我々の研究を引用する。

この相互作用はどんどん起きていて、アニメの世界に登場するデバイスの監修者として、ロボットやVR研究者の先生が名前を連ねています。私も『攻殻機動隊』のリアライズプロジェクトに声をかけていただきました。

こうしたフィクションとテクノロジーの相互作用が継続的な創造活動を行うためのエコシステムとなり、結果的に空想を現実にすることに繋がると思います。

八谷:ですから、100%にすることが「現実化サイド」の目標ではなかったりしますよね。

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稲見:むしろ、100%にしないでほしい!フィクションを作っている側も、常に我々が見たこともないようなカッコイイ「未来」を作りたいはずなので。新幹線を作った島秀雄さんも、後進がやることを残すためにあえて技術を最適化しないと言っていたそうです。

八谷:そして、たとえ5%の達成度であっても、それまで世の中になかったものが生まれているわけですから、ここから新しいイノベーションが多数生まれる可能性もあります。ただ5%の段階では世の中の多くの人がその可能性に気づいていなかったりするので、こうした「ニコニコ学会β」などの場を通して若い世代の人にも知ってもらうことも大事だと思い、江渡さんや稲見さんや私たちはこういう活動をやっているわけですね。あと、新しい技術に対して、たまに「役に立つの?」という人もいますけど…。

稲見:いま役に立つと言われているのは「考え方を変える」もしくは「問題を解決する」だけではなくて、「体験すると幸せになる」ということも含まれていると思います。ただマイナスをゼロにするいわゆる問題解決だけが「役に立つ」のではなく、楽しさとかドキドキするとか付加価値をつけて発信していくことも必要ですね。そこは「ニコニコ学会β」などの活動を通して、我々が変えていくしかないと思います。ご理解くださる人も増えてきていると思いますが、まだいますね。面白いとかすごいとか言う前に、必ず「役に立つの?」って聞く「“役に立つ”おじさん」(笑)

八谷:マスプロダクトになってお金を生まないと「役に立つ」と思われないという方は、まだ意識がシフトチェンジできていないんですね。「ポケモンGO」のベースになった「イングレス」も完全に赤字プロジェクトでしたがあれに熱狂した人たちが世界中に凄く沢山いたからこそ、現在の「ポケモンGO」が実現し、大ヒットがあるわけで。

たとえマイノリティーでも、必ずどこかに理解者がいる

江渡:では最後に、空想を実現するプロジェクトを進められるなかで、どのようにモチベーションを保っていらっしゃるかというところ。そして、くじけそうになったときに……おふたりはあまりくじけそうにないですけれども(会場笑)どういう風に考え行動してきたかを、若い世代へのアドバイスとしてお願いいたします。

八谷:僕はとても恵まれていて、自分たちで会社を起こして、自分がやりたい開発に対して資金を回すことができました。で、そういう状況を作り出すために、20代の若い人は頑張って稼いで、まずは貯金しろ、と(笑)。私が「OpenSky Project」を始めたのは37歳の時です。ポストペットは30歳。ですので、30代にやりたいことを実現するために、状況や環境を作っておくとよいかと思いますね。

あと私は上司や周りから反対されたことはありませんが、困難さで言うと、航空局への対応は時に非常に大変でした。さすがに心理的にめげそうになることは度々ありましたが、そんなときは自分が映画の主人公になったつもりで「よ〜し。面白くなってきやがったぜ!」と思うと良いと思います。「映画の中だと、ここは主人公が急成長するシーン」と思って乗り切るライフハックです。そして、そういうシーンって実は助けてくれる人が必ず現れるんですよね。

一人では乗り越えるのが大変な事でも、「面白くなってきた」と思って、協力してくれそうな人に素直に助けを求めていけば、なんとか乗り越えられるし、そうやって僕は乗り越えてきました。

稲見:確かに書類や手続きの大変さって、ありますよね。

八谷:法律やルールは自分の努力だけでは如何ともし難い部分がどうしてもありますからね。

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稲見:(研究費とかだと)定規ひとつでも、申請した用途以外に使えなかったりするんですよね。そんな厳しい制限もあるなかで何が楽しいかというと、今まで世の中になかったものを、自分が一番に最初に体験できることです。それはどんなテーマパークでも体験できません。

そして、開発したものを見た人や体験した人が喜んでくれて、場合によっては「人生が変わった」とか、私の研究を見て進路を決めましたという人もいます。その瞬間は、自分は研究をやっててよかったと思いますね。

八谷:今日も、ニコニコ学会βをいままで見ていて、今回、山口県の下関から参加してくださった高校生がいます。(※対談会場は茨城県つくば市)そういう風に、若者の進路を変えるのが楽しいっていうところもありますね(笑)私たちも上の世代の作品などから衝撃を受けた体験があって、変わってきたので。

稲見:誰かの楽しそうな背中を見て「自分も自信を持ってやっていいんだ」という感動を得られたのは大きいですね。人に言われたことをきちんとやることも大事ですが、なにか自分の内側から湧き上がるものがあったら、自らの手で形にすることも大切にしてほしい。そして最終的には、組織の名前ではなく自分の名前で仕事ができるようになることが、目標ではないかと思います。以前は組織がとても強い存在感を持っていましたが、いまは自分の足で立てるように頑張らなくてはいけないと思います。

また私や八谷さんは比較的恵まれていますが、周りから全然理解を得られない場合もあると思います。ですが現在は、自分がどんなにマイノリティーだと思っていても、インターネットを使えば日本全国とつながれる。そして1人か2人は必ず理解者がいると感じますね。

研究で大切なのは「多様なニッチ」だと思っています。みんながやっていることよりも、孤独を感じつつ数少ない仲間とつながりながら作り上げたものに、大きな価値があるかもしれません。

ですから仕事でも、あるいは趣味でもいいので、自分の興味関心あることをどんどん表現していくことをオススメしたいです!

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八谷和彦

メディア・アーティスト

1966年4月18日(発明の日)生まれの発明系アーティスト。九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)画像設計学科卒業、コンサルティング会社勤務。その後(株)PetWORKsを設立。現在にいたる。

作品に《視聴覚交換マシン》や《ポストペット》などのコミュニケーションツールや、ジェットエンジン付きスケートボード《エアボード》やメーヴェの実機を作ってみるプロジェクト《OpenSky Project》などがあり、作品は機能をもった装置であることが多い。

2010年10月より東京芸術大学 美術学部 先端芸術表現科 准教授


稲見昌彦

東京大学 先端科学技術研究センター 教授

1999年、東京大学大学院工学研究科博士課程修了。東京大学助手、電気通信大学知能機械工学科教授、マサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所客員科学者、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授等を経て2016年より現職。自在化技術、Augmented Human、エンタテインメント工学に興味を持つ。現在までに光学迷彩、触覚拡張装置、動体視力増強装置など、人の感覚・知覚に関わるデバイスを各種開発。米TIME誌Coolest Invention of the Year、文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。超人スポーツ協会発起人・共同代表。著書に『超人スポーツ誕生』(NHK出版新書)がある。


<WRITING・伊藤七ゑ/PHOTO・岩本良介>