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ビジネス現場でよく発生する睡魔との戦い。

椅子に座りながらも頭はフラフラ、まぶたは今にも閉じてしまいそうな虚ろな時間は気持ちの良いものですが、「そういった睡眠はNG」だと語るのは「睡眠をマネジメントする会社」ユークロニア社の菅原洋平さん。

前回に引き続き、誰もが知っておきたい睡眠に関するを教えて頂きました。第2回目は、ビジネスパーソンなら知っておきたい睡眠・仮眠の情報をお伝えします。

仕事中に眠くなるのはなぜ?

——ビジネスパーソン目線では、仕事中に寝る行為は悪いことのように見られますよね。そういった世間の目と現実とのギャップはどう考えればよいでしょうか。

菅原:それは時間のミスマッチです。

生体リズムで言えば、眠い時間に眠くなることが、たまたま仕事の時間に当てはまってしまったということになります。これはスケジュール管理の問題であって、その人の能力で眠くなってしまうということではありません。

例えば、人間は起床から8時間後は確実に脳が働かなくなる時間になるのですが、仕事現場でよくあるシーンと組み合わせて見てみると、起床3時間後は脳波活動が最高潮の時間帯であるにも関わらず、その時間帯にメールチェックで1時間も潰していることがあります。

このようなスケジュールを組んでいるともったいないですよね。脳の働きが低下する時間帯に、重要な仕事のスケジュールを組んでしまっていたら、その人の能力は当然下がってしまいます。

そういった行動を取っていると、周りからは、「この人は能力が低い」と思われてしまうんですけど、これは業務の時間と生体リズムの時間のミスマッチから低下してしまっているだけです。同じロジックで、会議中に眠いのを何とかするのは無理なんです。

眠くなるのを防ぐのではなく
生体リズムをコントロールする
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発想を変えて、「この時間にハイパフォーマンスなリズムを作っていきたい」ということは再現可能です。

だから、もう少し時間軸を長く取り、24時間をコントロールしていくことを自分で考えることができれば、どの時間にピークを持って行き、どの時間に低下した能力状態でも処理できる作業を持ってくるか、仕事の順番をマネジメントするという発想を持つと良いでしょう。

——会社や仕事の現場でミスマッチを改善した例はあるのでしょうか?

ある研究所で「午後3時にラジオ体操を流す」という研究をしているところがありました。

その研究所では残業が多く、とにかく零時ぐらいまで研究してそれで帰るといった場所のため、睡眠時間が短かい人が多かったのですが、午後3時にみんなでラジオ体操をすることにしたのです。

そうすると、全員の体温を一斉に上げることができる。起床11時間後である夕方に、体温を最も上げると、夜は下がるので睡眠をしっかり深くとることができます。

これは組織ならではのマネジメント方法です。普通に働いていると、個人で夕方に体温を上げるのは難しいですよね。そういう風に、会社や組織という単位は人間のリズムを一括管理することが可能です。しかも、その目的思考は皆同一のものなので健康的な生体リズムを作りやすい集まりなわけです。

生体リズムのミスマッチによって眠くなってしまうということを、できるだけ差異を無くすように組み換えていくことが、実は社員さんたちのパフォーマンスを作っていくことになります。それは、人間の能力と会社全体の能力を上げることになるんですね。

一番よくないのは「寝落ち」
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——組織は型にハメようとしがちだと思います。今後、仕事と人間のリズムをマッチングさせるために組織ができる事はあるでしょうか?

菅原:例えば、フレックスタイム制度を導入するように多様性を持つということは、より高い自己管理能力を必要とするということを自覚しなければいけません。

なので、社員に「自由な働き方ができますよ」と言うことは、会社が「朝」を同じように作ってくれなくなるということです。

「朝この時間に出勤してこい。遅刻はアウト」だと言われれば、起床時間がおおよそ揃うんですが、「朝来なくていいよ」と言われたら、その人は自分で管理しなければいけません。問題は、ここに睡眠マネジメントに関する教育不足、情報不足が起きていることなのです。

仮眠についての講義も受けてなくて、「流行ってるから」という理由でやってみるのは良くないですよね。

——仮眠は取れる時に取ったほうが良いのでしょうか?

菅原:僕は医療機関勤めの時は36時間勤務だったので、仮眠を頻繁にとっていました。ちょっとした隙に意図して睡眠を入れる。一番よくないのは、「眠くなってからウトウト寝ること」いわゆる「寝落ち」です。

眠いというのは睡眠リズムの覚醒の波が下がっていく時で、それが一番下がっている時に寝てしまうと、次は覚醒が上がっていかないんです。

それを避けるためには、ちょっと早めに睡眠を取りましょうというのが計画仮眠や戦略仮眠と言います。

ちょっと冴えないなとか、集中力が切れてきたかなという時にもう寝てしまう。そうするとスパッと回復していきます。ギリギリまで我慢して寝ると、仮眠を何回も繰り返していまいます。まどろみがずーっと続いていく感じです。

——睡魔と現実を行き来している気持ち良い時間ですね。90分睡眠が一時期流行っていましたが、これはどう見られていますか?

菅原:90分睡眠の90分はただの平均値なので、皆が皆90分ではありません。

頭で情報を得て逆算して、「90分睡眠が良い」ということだけ聞いていたら、眠いのに堪えて4時間半睡眠するためにはここを堪えないとって自分で睡眠削ったりするんですよね。客観的に見るとおかしいですよね。人間は毎日サイクル違うものですし。

よく眠れないとき、脳で何がおきているのか

——なぜサイクルが違うんでしょうか?

菅原:新しい話を聞いた日は情報処理時間が長くなるため、サイクルも長くなります。

例えば、嫌な出来事があると、それを記憶に定着させないために脳はサイクルを短く取ります。そうすると僕らはぐっすり眠れないとか、途中で夢をたくさん見るとか、脳の反応を実感します。

——脳科学的に解明されているんですね!

菅原:医療でいうと、眠れないのにお薬を使って寝させている状態というのは、「眠れない状態」を先延ばしにしまっていることになります。

そもそも、眠れないことには理由があります。私たちは、昼間に何か体験をすると、その事実と一緒に何らかの感情を記憶します。例えば、上司に仕事を任されたら、「評価された」と感じる人もいれば、「嫌がらせをされた」と感じる人もいます。この「感情の記憶」は、事実ではなく、その人の脳の中だけでつくられた記憶で、これが私たちの悩みの種になります。

睡眠中には、この「感情の記憶」を消去して「事実の記憶」だけを残す役割があり、この消去作業をしているときに、私たちは自覚的には悪い夢を見ています。すると「一晩中悪い夢を見て全然眠れなかった」と感じるのです。

ここで、眠れないからすぐに睡眠薬を使う、といった選択をすると、脳は、不自然な睡眠を強制的につくられて「感情の記憶」を消す作業ができなくなるので、結果的に、悩みの種が消えず、悩み続けることになってしまうのです。

ですから、もし、仕事をしていて嫌だなと思うことがあって、その夜よく眠れなかったら、脳がちゃんと消去処理してくれたんだなと思えば大丈夫。眠れなくて嫌だったと悲観せずに、体のリズムだけを乱さないようにしておけば長くても一週間程度で、また元のように眠れるようになることが多いのです。

脳が活発に働く時間帯って?

——さきほど起床8時間後は脳が活発に働かない時間と言われていましたが、逆に働く時間のピークはいつですか?

菅原:一番のピークは起床4時間後です。脳波の活動が一番活発で一番クリエイティブな時間帯です。6時起きだと10時になります。

——朝は決断力が必要な作業をするのに向いている?

菅原:そうですね。脳の活動は起きた時が一番クリアで、だんだん下がっていくのですが、起床2時間後はテストステロンという男性ホルモンが高くなるため、決断力や自分で選択する力が強くなります。だから、難儀なことをバシバシ決めていくことに向いています。

その後、記憶力が充実する起床3時間後に全体のスケジュール管理をしたり、予定を立てたり、教育訓練にも適しています。

起床4時間後は、知的で創造的な作業が向いています。会議はこの時間帯でするのが良いでしょう。メンタルも強くなってくるので、プレゼンテーションをする時間帯にするのも良いですね。

その他にも、起床7時間後の午後一番の時間帯は、ホルモンの一種であるアドレナリンの分泌が最高になり、一番ノリのいい時間です。目標を言語化したり、同僚にはっぱをかけるとやる気が出ますが、細かい議論には向かないので、ここでは気分を上げるだけにしておきましょう。

起床9時間後には、心身の安定を図るセロトニンの分泌が高まり、気分は穏やかになるので、午前の作業を反省をしたり、相手に修正すべきことを指摘したり教育をすれば、すんなり受け入れられます。

人間は分泌物で生体リズムが組まれていくので、それに合わないものがあったら、合うものへ変えていくといいですね。

あとがき

身体と時間のリズムを上手く利用した仕事の取り組みは、これまであまり意識することはなかった領域ですが、参考になる情報が多くありました。

こういった情報がまとめられた菅原さんの新刊「脳にいい24時間の使い方」が9月に出版されました。脳と睡眠と24時間を有効利用することにご興味を持たれた方は参考になさってみてはどうでしょうか。

次回は、もっと仕事へ集中するための環境作りや、睡眠と栄養などの情報をまとめてお届けします。

<識者プロフィール>
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【菅原洋平】作業療法士。病気になる前に役に立ちたい!働く人たちの脳を活性化して病気を予防するビジネスプランを考案。2012年4月にユークロニア株式会社を設立。


取材・文・撮影:大野恭希(healthy living)