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リモートワークに週休3日制と、近年、従来の働き方を見直し、新たな形を模索する企業の動きが止まりません。より自由な職場環境を求めて転職する人もいるほどです。とはいっても、自由にさせた場合の評価や成果はどうなるのか、人事側にとっては大きな悩みの一つです。

そんな中、社員が希望する自由な働き方を認めつつ、業績も伸ばしている従業員130人ほどの中小企業があります。「パートナー型デジタルプロダクション」と自社を呼ぶウェブコンテンツの制作開発会社のTAM(タム)です。社員から会社に対して、勤務日数だけでなく給料アップの交渉も可能だという同社はどのような仕組みを取っているのでしょうか。代表取締役の爲廣慎二氏に話を聞きました。

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▲株式会社TAM代表取締役 爲廣慎二氏

「月給10万円アップ」を主張する社員も
―御社の業務内容や社員の年代構成、業績について教えてください。

1992年に一人で創業しました。ウェブサービス関連の受託を始めた1998年の社員数は20人ほどでしたが、2013年に100人を超え、2016年9月末現在、130人ほどのクリエイティブ集団になっています。年代構成は、30代が最も多くて全体の約5割を占め、次いで20代が4割、残り1割は40代です。50代は社長の僕だけですね。

古くからいるメンバーは、それぞれ独立したか、社内独立(業務委託)の立場をとっています。

チーム構成は、半数近くがディレクターで、あとはエンジニアとクリエーター、経理などの総務担当者です。営業担当者は一人も置いていません。

コンテンツを作るのが主な業務で、取引先の要望や状況に応じて、マーケティングから企画と運用、ソーシャルメディアの活用支援やアプリ開発などもやっています。全国の工場を取材してレポートする「しゃかいか!」という自社メディアも立ち上げています。

千趣会さんや積水ハウスさん、大阪ガスさんやネスレ日本さんといった大手クライアントとの取引がほとんどで、おかげさまで業績は、2014年度の売上が9億、15年度が10.5億、16年度が11.5億と、右肩上がりで成長を続けています。

―会社に対して社員が給与の交渉をすることができるという話は本当でしょうか?

はい。本当です。8月末が年度末なのですが、毎年6月から8月にかけての3か月の間に社員全員と各チームリーダーが面談し、それぞれの要望を聞きます。金額は出さずに「小幅アップでお願いします」と言う社員もいれば、逆に減らしてほしいという社員もいます。

2002年か2003年に導入しましたが、値上げに関しては月給で10万円以上のアップを主張する社員もいるほどです。

「責任」と引き換えに、どこまでも自由な会社
―一社員が自分の良い値を会社に交渉するという企業の話を耳にしたのは初めてなので、すぐに飲み込めませんが…。そもそも、なぜそうした仕組みにしたのですか?

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社員が50人ぐらいになった02年から、何度か、誰かが誰かを点数で評価するといったオーソドックスな人事評価制度を導入してはみたんです。ですが、うまいこといきませんでした。

なんといいますか、人が人を評価するということが、私たちには合いませんでした。自分で頑張っていたら、それがすべてだと思うので。誰かに見られて点数をつけるなんて、大の大人が…という考えがありました。なので、独自の仕組みとして「PGST」による自己申告型の評価方法を考えました。当時、たくさんお取引をしていたP&Gさんの社内で一般的に使われている目的達成のフレームワークを参考にしました。

―PGSTとは何ですか?詳しく教えてください。

PGSTとは、我々のフレームワークで、プロジェクトの目的(Purpose)、達成すべき数値目標(Goal)、目的達成のための戦略(Strategy)、戦略を進めるための具体的な戦術(Tactics)を指します。このステップを経ることで、メンバー全員が同じ方向を向いた、目的のぶれないプロジェクト進行が実現できますし、お客様にも、プロジェクトを進めるうえで、このフォーマットを共有してもらっています。

そして、6月から8月に社員全員が各チームリーダーと行う面談時にも、このPGSTのシートを使ってもらいます。

たとえば、年度末の面談時、このシートに来期のGoalとして具体的に、「何々の資格に5月までに合格する」「何々のクライアントプロジェクトを3件以上担当する」「何々の言語を習得し実案件に月間1件以上コミットする」といった数値目標を書き、さらに戦略の欄に、具体的に何をやっていくかを書く。そして、今期それを達成できたのか、また来期のPGSTでは何を達成するのか、自己評価をし、それをもって給与の希望を申請する、という流れです。

―具体的な年度目標をシートに書くといったことを導入している企業はほかにもあるように思うのですが、それをもとに、給与の増減の希望を出すというのは、やはり特殊です。それぞれの社員は、何を根拠に金額を提示するのでしょうか。そして会社側はその可否を何で判断するのでしょうか?

まず、社員の希望の理由はさまざまです。たとえば、「資格取得の勉強をしたいので週5日勤務を週4日勤務にさせてほしいが、仕事の質は落とさないので給与は維持してほしい」といった要望もあれば、「次の道を探したいので週3〜4日TAMで働き、それ以外はフリーランスの仕事を受けるパラレルキャリアを実現したい」と話す社員もいます。

会社としては、パラレルキャリアや社内独立など、個人のキャリア形成には最大限のアシストをしていくつもりなので、ほぼすべての希望が聞き入れられます。

その希望を聞いて、どうするかは、PGSTシートの自己評価と社員の実績で判断します。普段から常に全員の売上を把握しているので、判断は可能です。

―「普段から常に全員の売上を把握している」というのはどういうことを差すのでしょうか。営業職のようには成果が計りにくい、チーム仕事のように思うのですが。

完全オリジナルに開発した社内システムである「TAM社内発注システム」があることが大きいですね。社内で制作・開発するプロジェクトはすべて、各スタッフ個人単位に小分けにされて発注される仕組みになっています。つまり誰がどの仕事のどのパートをどんな金額で対応しているのか、というのが見える化されているわけです。いわば、オリジナルのERPシステムです。

また、自分が携わる各仕事にかけた工数を日々の工数管理に登録していくので、発注を受けている金額と、自分がその案件にかけた工数の整合性をいつでも振り返り見ることができます。つまり、自分の発注を受けている金額と自分のやった仕事が金額として見合っているのかいないのか、それぞれの仕事ごとに各スタッフがチェックしていくのです。それらはすべてオープンにされているので、各チームリーダーは当然チェックしますし、もちろん私もチェックをしています。

ですからスタッフは、普段から時間あたりのコスト意識を持ってくれています。たとえば「1時間あたり5千円」というのがTAMの標準見積になっているので、そのコスト感覚さえ忘れなければいつ何をしていても構わない。昼ごはんは午後2時からでも3時からでも構いませんし、昼寝をしようが、カフェに休息に行こうが、本屋に行こうが、誰も何も言いません、極端に自由です。社長の僕が自由人ですから、スタッフもみな個人事業主のように自由人であって欲しいのです。誰かに命令されてとか、縛られているから仕事するなどまっぴらだとずっと考えてきました。

逆に、仕事をきちんとやっていなければ、周囲から発注が来ず、業績が伸びない個人の状況も生まれてくるわけです。

―御社は東京と大阪にオフィスを構えるほか、シンガポールにも支店があります。海外の支店の社員もそのように給与を決めているのですか?

そうです。海外は特に、社員自ら立候補して行った人がほとんどです。「こういったビジネスをやりたいのでこの地域に行きたい」と本人から申請があったので、「どうぞ!」と即決して送り出します。事業計画書などは作りません。

今シンガポールは4人のスタッフで順調にビジネスを展開しています。また新たに、ロンドンに行きたいというスタッフがこの9月からロンドンに行って奮闘しようとしています。

自分で「働き方」をデザインする
―最後にメッセージをお願いいたします。

長時間是正やワークライフバランスを見直す動きがありますが、私個人としては、「若いうちは仕事に没頭する期間も必要」という考えを持っています。20代から30代前半は誰にも負けないと自分で思えるファーストスキルをつけてほしいからです。会社の業務時間は通常、午前10時から午後7時ですが、遅くまで残る人もいますので、23時には「ほたるのひかり」を社内放送で流し退社を促しています。

ブラック企業といわれても一向にかまわないのですが、32〜33歳くらいまでは仕事に没頭して、37〜38歳くらいまでに次のステージの仕事でセカンドスキルのヒントを得て身につけていき、40代前後でパラレルキャリアや独立を志向していってほしいというのがこれからのキャリアづくりだと考え、ずっと以前から実践してきました。

―社員が成果を出せば、勤務日数から勤務場所、給与アップまで自由に主張できるという社風、とても興味深かったです。お聞かせくださり、ありがとうございました!

文・塩月由香