日本テレビの局アナからフリーに転身した魚住りえさん。現在は司会やナレーターなどメディアやイベントで活躍する一方、セミナー講師として、ビジネスパーソンに向けて「声の出し方と話し方」を教えています。著書『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』が12万部を突破するなど、活躍の場を広げている魚住さんに、話し方を身につけることの効力や、ビジネスパーソンに役立つ話し方のコツなどを伺いました。

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魚住りえ

大阪府生まれ。広島県育ち。高校時代、放送部に在籍し、「NHK杯全国高校放送コンテスト」に出場。朗読部門で約5,000人の中から全国3位に選ばれる。慶応義塾大学時代は放送研究会に所属。1995年、日本テレビ入社。「所さんの目がテン!」「ジパングあさ6」「京都 心の都へ」などを担当。2004年フリーに転身し、同年からテレビ東京「ソロモン流」のナレーターを務めるなど、テレビ、ラジオを問わず幅広く活躍中。2006年からは「魚住式スピーチメソッド」を立ち上げ、話し方を磨くための指導を行っている。著書に『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)『10歳若返る! 話し方のレッスン』(講談社)。

話し方を変えると自信が生まれ、物事が良い方向に進む

――魚住さんが話し方の講師として活動しようと思ったきっかけはなんだったんですか?

魚住りえさん(以下、魚住):人生が長くて80歳とか90歳とすると、ちょうど折り返しの年齢になったんだなぁという実感があったんです。もともと司会の仕事もナレーションも大好きですし、今までやってきたことをそのまま続けるのもいいのですが、「新しいことにチャレンジしたい」という気持ちが出てきました。テレビの仕事って、視聴者と直に接することがなくて、「ちょっと遠いな」と思うところがあって。いろいろ模索して、私がこれまで培ってきたものを人にお伝えできないかな……と思っていたんです。

そんな矢先、友人から相談がありました。その友人はコンサルティングをやっていて、すごく頭脳明晰なんですけど、うまく言葉が出てこない方だったんです。言葉が出ないばっかりに、周りとの距離感を取るのに苦戦されていて、「なんとかしてもらえないか」と。そして、自分なりに方法などを考えて、その方にレッスンをしたところ、しゃべれるようになって、すごくよろこんでもらえたんです。その経験が後押ししてくれました。

――話し方のセミナーにはどんな方が来られるんですか?

魚住:話すこと自体がコンプレックスの人もいれば、「自信満々に話せるけど、試しに来た」という人もいらっしゃいます。そんな方でもセミナーを通して「俺、ここがダメなんだ」「私はここが意外とできていなかった」と気づいてもらえることも多いようです。

――必ずしも苦手な人だけではないんですね。

魚住:意外とそうなんです。でも苦手な方はやっぱり、もともと引っ込み思案なことが多いので、まずは声を出すことに対して喜びを持ってもらうこと、みんなが振り向いて話を熱心に聞いてくれるように、自信を持ってもらうことを念頭に置いています。最初は暗い顔をしていたのに、卒業されていくときは皆さん見違えるように、元気に明るく、若々しくなって、自信を持つようになるんですよ。それを見るのが楽しいですね。話すコツを実践してみたら評判が良くなって、経営者や管理職の方から「部下がついてくるようになった」、会社員の方からは「評価が上がった」という声をいただきます。「友達が増えた」「彼氏ができた」という声や「結婚しました」という報告もあるんです。総じて、「人生がいい方向によくなっていった」ということを言われますね。

――声や話し方でそんなにも変わるものなんですか?

魚住:はい、やはり「自信を持つ」ということが大きいと思います。セミナーでは最後に皆さんにスピーチをしてもらうんですけど、自分のことを吐露してもらうんです。「恥ずかしく思わなくていいから、本当のことをしゃべってください」って。皆さんすごくいいスピーチをしてくださって。「こんな人だったんだ」とか「こんな辛いことがあったのね」「今、大変なんだね」ということを率直に語ってくれるので、みんながウルウルしちゃうくらい感動するんです。

――それはすごいですね。

魚住:もちろん、そのスピーチにたどり着くまでに基礎的な訓練をしてもらうんです。その過程で前に出て声を出したり、話したりするので、怖じ気づく気持ちは少しずつなくなっていきます。余裕がある人はシートを書いたり、みんなに写真を配ったりして、工夫するようになります。「人に何かを伝えるためには、どうしたらいいのか」ということを一人ひとりが考えているんですよね。

――それだけ自信を持つようになったということなんですね。

魚住:私の名刺の裏にも「声を変えれば印象が変わり、話し方を変えれば人生が変わる」と書いているんですけど、本当にその通りなんです。大きな声を出せるようになって、うまく伝えられるようになると、物事が良い方向に進むんですね。自分に自信がついて、友達が増えて評価も上がって……「悩んでいたけど、思い切って転職したらお給料も上がりました」なんて聞くこともあります。それって人生の中でも大きな話ですよね。そういうふうにうまく「スイッチ」を押してあげることが、よろこびになっています。

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相手に伝わらないのは、心を開いていないから

――対面ならまだしも、自分のことをたくさんの人に話すのは、すごくハードルが高いように感じます。スピーチで自分のことを語ってもらうようにしたのはなぜですか?

魚住:本当は、話す内容はなんでもいいんです。でもひとつだけ皆さんにお願いしているのが、「絶対に嘘をつかない」ということ。本当のことを話すのがいちばん相手に伝わるんです。「取り繕ってかっこよくみせよう」とか、「キレイな私でいよう」と思うと、聞いている人には伝わりません。嘘って見抜かれてしまいますから。「上っ面だな」って感じたこと、ありませんか? かっこいい意見をどこかから拝借して、さも自分が思ったかのように話すと、声色に情熱がこもってないのがわかるんですよね。「自分のこと」って嘘つけないじゃないですか。過去にあったことや、自分の今の状況を包み隠さず話すことが、相手の心を打つはず……という思いがあります。本当にプライベートなことを告白された方もいますし、ご家族のことやご病気のことなど、率直に話してもらっています。

――「自分のことを吐き出す」というのが重要なんですね。

魚住:そう。「壁」を打ち破れるんです。いきなりは難しいと思うんですよ。「僕はこういう人間で……」とプレゼンするのは。授業の中で、私も嘘をつかずに本当のことを話します。「不器用な先生だね」と思われることもあるかもしれませんが、そういうのも含めて、体当たりでやっている。それを皆さんも感じているのか、自分たちも体当たりでこたえようとしてくださっています。「カッコよくありたい」というのを打ち破ると、守るものもないし、怖いものもなくなる。そういう癖をつけていくと、どこでも堂々とできるようになるんです。

――確かに、「自分をどこまで出すか」というのと話し方は繋がっているかもしれませんね。

魚住:そうなんですよ。相手に伝わらない話し方をしてる人は、「相手に心を開いていない」ということだと思います。

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――スピーチのうまい人に、何か共通するものはありますか?

魚住:ものすごく思考するタイプの人が多いように思います。アンテナを広く張って、それぞれのことに対して深く考えているというか。ボーっと暮らしていると、なかなかスピーチはできませんね。「自分が話したいことを何でもいいから話してごらん」って言ったら、「特に何もない」という生徒さんがいました。「今、何が欲しいの?」「何がやりたいの?」とじっくりメールでやりとりしていったら、「お金が欲しい」って。なるほど、そうしたら「お金持ちになって何をしたいの?」……と、どんどん掘り下げていくと、いろいろと出てきますよね。

――ぼんやりしたものを掘り下げていくことで、その人の本質が出てくるんですね。

魚住:そうですね。自分ひとりでも掘り下げていく思考がある人は、スピーチがうまいと言えるかもしれません。あとは、ファーストインプレッション。第一印象は絶対、声と話し方で決まってしまうんです。最初の30秒……あるいは15秒くらいで、「この人の話をあと90分聞くかどうか」が決まるんです。

第一印象は声と話し方で決まる

――では、第一印象をよくするためにはどうすればいいですか?

魚住:まずは声から変えていきましょう。声をよくするためには呼吸が基本なんです。身体を起こして、お腹を引っ込めて、腹式呼吸を行います。呼吸を整えると心も落ち着きますよね。そして背筋を伸ばして、お腹に力を入れて声を吐くと、だんだん声が出るようになります。魅力的と感じる声にするには、その場に合わせて声量を抑えめにしたり、大きくしたりと自在にコントロールするのもポイントのひとつです。腹筋に力を入れてお腹をぐっと薄くしながら声を張っていくと、誰でも魅力的な声になりますよ。

――話し方にもポイントはありますか?

魚住:場面によってさまざまなことが考えられますが、たとえばトップセールスを目指すなら、「感情豊かに話す」ということが効果的かもしれません。何か商品を販売するとき、トップセールスなら「その商品が本当にいいものだと信じて」薦めていますよね。「嘘がない」からこそ良さが伝わるんだと思います。自分の情熱や好奇心と紐づけて話すことも大切ですね。

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――魚住さんご自身が講演するときに、気をつけていることはありますか?

魚住:「準備」ですね。準備で9割くらいが決まると思います。一般のビジネスパーソンの方でも、同じことがいえるのではないでしょうか。講演の場合だと、観客の年齢や性別、職業の構成や、主催者の方が何を望んで私を呼んだのか、事前に伺います。あと、会場や控室の様子を写真でもらうこともあります。会場にもお客さんが入る1時間くらい前に入って、機材のチェックやお水を用意してもらって……行ってみないとわからないことがたくさんあるんです。わからないと、ドキドキしません? よほど場数踏んでないと、「ぶっつけ本番」では失敗します。

――最近ではコミュニケーション自体が苦手な人も多いと思うのですが、そういう場合は何から始めたらいいんでしょうか。

魚住:私の生徒さんにもそういう方はいますね。IT系企業で働いているんですけど、仕事中でもほとんど声を出さないんですって。会話は全部チャットとかで済ませて、電話が鳴っても出ないんだけど、LINEだとすぐ既読になって、瞬時に返ってくるんです。おもしろいですよね(笑)。でも、やはりリアルで人に会ってしゃべったり、声を出したりすることって、とても重要だと思うんです。頭の片隅においてもらって、ちょっとだけでも意識してやってみてください。きっと自分の自信につながるはずだから。

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TEXT 神田桂一+プレスラボ PHOTO 安井信介