東京の国立科学博物館で「世界遺産ラスコー展」を見た。約2万年前のフランスでクロマニョン人が描いた壁画が、最新技術によって精密に再現された。全長200メートルの洞窟内で獣脂を燃やす石製ランプを頼りに600頭もの動物が描かれた▼人類は猿人、原人、旧人、新人と進化し、新人は約10万年前にアフリカ大陸から世界中に旅立った。壁画を描いた人々もその一部だ▼日本列島には4万年前ごろ到達したとされ、沖縄では3万年以上前の人骨が見つかっている。台湾から海を渡った集団がいたことを実証しようと、今年も科学博物館が実験航海を行う▼同館の篠田謙一副館長は著書「DNAで語る日本人起源論」で遺伝学の最新の成果を紹介した。一定の確率で変異するDNAの分析から、アジア各地との複雑な交流の中で日本の地域集団が成立していったことが分かってきた▼篠田氏は、外面的に区別する「人種」は生物学的には成立しないと指摘する。「民族」についても「特定の民族が共有しているのはその文化」とする。変化していく遺伝子は「民族」を規定できないのである▼壁画を描いた人々も、黒潮を渡った人々も、アフリカから旅立った人々の末裔(まつえい)だ。国家や民族間の対立や争いが絶えない現代。同じルーツの人類の一員と自覚すれば、お互いを尊重し合うことができるのではないだろうか。