「(国債購入の)量を減らす金融引き締めは考えられない」

 8月4日。日銀の岩田規久男副総裁は記者会見でこう言い切った。

 日銀が「総括的な検証」をまとめる方針を打ち出したのは、7月29日の前回金融政策決定会合だ。当時、市場では日銀が購入できる国債はあと1〜2年で枯渇するとの懸念がささやかれていた。年80兆円の購入量を「70兆〜90兆円」などと柔軟化(実質減額)するとの噂まで飛び交ったが、岩田氏はこうした見方を早々と否定した。

 学者出身の岩田氏は国債購入の「量」を重視するリフレ派の巨頭として知られ、日銀の政策委員9人の中では、同じリフレ派の原田泰審議委員とともに、80兆円を堅持すべきだと唱えていた。

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 日銀は平成25年4月、年50兆円の国債買い入れから大規模金融緩和をスタート。翌年10月末には80兆円まで増やし、大量の資金を市場に流し続けた。

 当初は大幅な円安・株高を招き、企業や家計の心理が改善した効果は大きかった。

 しかし、2%の物価目標が遠のき、金融緩和の“長期戦”を余儀なくされる中、市場では政策の「手詰まり感」も意識され始めた。

 黒田東彦総裁は今月5日の講演で、年0・1%のマイナス金利の深掘りは「まだ十分可能。コスト(副作用)をベネフィット(効果)が上回るのであれば躊(ちゅう)躇(ちょ)すべきではない」と強調。「量」にこだわらず、「金利」を主軸にする考えをはっきりと打ち出した。

 ただ、今回の枠組み修正では、国債買い入れの柔軟化までは踏み込まず、「おおむね現状程度の買い入れペースをめどとする」との妥協案で、リフレ派の賛成を取り付けた。異を唱えたのは、マイナス金利の導入にも反対票を投じたエコノミスト出身の佐藤健裕、木内登英の両審議委員にとどまった。

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 総括的な検証ではマイナス金利の効果だけでなく、悪影響についても詳しく言及。とくに、金融機関の収益が過度に圧迫された場合、「貸し出し姿勢の消極化など金融仲介機能に悪影響を与える可能性がある」と指摘した。

 既に、市場金利の大幅な低下を受け、あるメガバンクは取引先の商社に「0%」という破格の金利で数千億円の貸し出しを始めたという。タダでお金を貸す“異常事態”に幹部は「こんなことでは稼げない」と頭を抱える。

 マイナス金利に対する金融機関の嫌悪感は根強く、日銀は今回、長期金利を上昇させる枠組み修正にとどめ、マイナス金利の深掘りを見送ることで配慮を示した形だ。

 「市場や金融機関との対話を通じ、真摯(しんし)に受け止めていただいた結果」

 全国地方銀行協会の中西勝則会長(静岡銀行頭取)は21日、日銀の決定を評価するコメントを出した。

 SMBC日興証券の丸山義正氏は「全体としては日銀内外のさまざまな関係者に良い顔をしようとして『八方美人』の内容になった」と揶揄(やゆ)した。

 ただ、今後急速な円高に見舞われれば、黒田総裁は国債買い入れを減らす代わりに、マイナス金利を深掘りする可能性を示唆した。その際、日銀内のリフレ派と金融機関を「敵に回す」恐れも出てくる。

 大手銀行は企業向け大口預金に「口座維持手数料」を課す検討を始めるとみられ、新たな副作用も懸念される。黒田総裁の「綱渡り」の政策運営は続く。

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 日銀は21日、金融政策の枠組みを大幅に変更した。その内幕を探る。