南アフリカの劇作家、アソル・フガードが1987年に書いた二人芝居。「ある私的な寓話(おはなし)」と副題にあるように、どこか教訓的で聖書的な雰囲気が漂う。訳・演出の栗山民也が16年ぶりに再演出し、自由を切望する繊細な魂の持ち主を鮮烈に描き出している。

 ソ連軍から脱走し、10年。パーヴェル(北村有起哉)は人目を避け、悪臭を放つ家畜小屋で豚と暮らす。妻のプラスコーヴィア(田畑智子)がひそかに世話をする。歳月が流れ、ある日、地獄のような豚小屋に美しい蝶(ちょう)が舞い込む。パーヴェルに人間的な感情が戻り、歓喜するが、豚が蝶を食べてしまい、彼はその豚を殺す。また、外の空気が吸いたいと、パーヴェルは夜中に女装して妻と外出する。

 本作はソ連軍から脱走し、41年間豚小屋で暮らした実在の人物に刺激を受けて書かれた。

 パーヴェルは軍隊から逃れてみたが、不潔な豚小屋暮らしに不快感を募らせる。豚は貪欲で無知な大衆の暗喩(あんゆ)だろう。孤立感に耐え切れず、最後は豚を解放して自らも楽になり、動物的な逃亡生活に終止符を打とうとする。妻は全財産である豚が逃げたのを嘆きつつ、不思議な安堵(あんど)感に包まれ、財産が人間を束縛する枷(かせ)と気づいたのか、やがて笑い出す。

 パーヴェル役の北村が必死さゆえに取る奇矯(ききょう)な行動が面白い。妻の田畑は敬虔(けいけん)な日常人として、夫婦の絆と愛情の深さをけなげに表現している。再びフガードを取り上げた地人会新社。現代に苦悩する赤裸々な人間を描こうとのこだわりがある。15日まで、東京・初台の新国立劇場小劇場。(演劇評論家 河野孝)