ドナルド・トランプ次期米大統領(70)は20日の就任と同時に、西太平洋の軍事リスクに向き合うことになる。トランプ氏が就任前から台湾との距離を詰める発言を繰り返している以上、実際に抑止行動を示さなければ台湾を危険にさらすことになるからだ。

 中国の習近平政権は昨年末、日米首脳がハワイの真珠湾で戦没者を慰霊しているさなかでも、空母「遼寧」を西太平洋に向かわせる誘惑に勝てなかった。それが露骨な日米同盟に対する挑戦と受け取られようと、トランプ氏の口先介入に対する拒否行動を自制する理由にはならなかった。

 中国指導部は台湾に関し、交渉する余地のない国家統一の願望によって動かされている。彼らはトランプ氏と台湾の蔡英文総統(60)が首脳同士のように電話会談したことが許せない。さらに、台湾を中国の一部とする「一つの中国」原則を拒否するようなトランプ氏の発言は黙認できなかった。

 次期米大統領が中国の「核心的利益」に異議を唱えたことで、米中が西太平洋で緊張関係に陥ることは避けられない。逆に、トランプ氏が中国の怒りを買わないよう沈黙に転じれば、それに付け込んで南・東シナ海への拡張を続け、台湾の一層の孤立化を図るに違いない。

 米国が台湾への防衛義務を果たすには、国防予算を見直さなければならない。米軍事専門家のR・オブライエン氏によれば、米海軍の保有艦船284隻は、第一次大戦以来最小規模であり、中国海軍は2020年までに戦闘艦艇の総数で米海軍を凌駕(りょうが)するとみられている。しかも、米国は世界中に展開しているが、中国は南シナ海の係争海域に集中できる。

 トランプ氏は、公約である国防費の自動的削減を停止し海軍力を高めなければ航行の自由は深刻な危機に直面する。海洋専門家の予測によれば、南シナ海で台湾が実効支配するイトゥアバ(台湾名・太平島)は最も危険にさらされやすいフラッシュ・ポイントになる。

 中国はまた、南シナ海の7つの人工島を軍事化することによって、沿岸国に対して自発的に膝を屈するよう仕向け、中国の主権を容認させようとする。西太平洋に出た遼寧が南シナ海入りし、年明けから艦載機の発着訓練を公開したのはそうした示威行動の一つであろう。

 他方で中国は、高圧的な行動が逆効果にならないよう、海上シルクロード構想とアジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金によって、東南アジアを取り込もうとする。さらに、域内国に対する武器輸出も積極的である。武器を売り込めば、訓練や補修、技術支援でも関係が深まり、軍事的な“配当”を中国にもたらすからだ。

 日米にとっては「アクト・イースト」を掲げて東アジアとの連携を模索するインドや、南シナ海とインド洋の出入り口にあるインドネシアとの関係強化が重要になろう。

 トランプ次期政権もまた、就任前の口先介入ではなく、抑止行動が伴う「アクト・ウエスト」に踏み出すべきだろう。東南アジアが日本を手本としたのは「ルック・イースト」だったが、安全保障はアクト(行動)がなければ、再均衡化戦略が無視されたオバマ政権の二の舞いになる。(東京特派員)