「なんでこんなことになったのか分からない」。別冊少年マガジンの創刊に携り、数々のヒット漫画を世に送り出した講談社(東京都文京区音羽)の編集次長、朴鐘顕(パク・チョンヒョン)容疑者(41)=韓国籍=は取調室で何を思っているのか。コミック部門のエースで将来の役員とも目されていたが、1月10日、妻に対する殺人容疑で警視庁捜査1課に逮捕された。背景には子育てをめぐる夫婦間トラブルがあったとみられている。警視庁の捜査に二転三転する説明を繰り返したエース編集者。4人の父親でもあったエリートが超えた一線はどこにあったのか。

繰り返すウソの説明

 「妻が倒れた」。昨年8月9日午前2時50分ごろ、東京都文京区千駄木にある朴容疑者の自宅から119番通報が入った。救急隊員が駆けつけると、1階の階段下で妻の佳菜子さん=当時(38)=が心肺停止状態で倒れており、病院へ搬送後、死亡が確認された。

 現場には不審な点がいくつもあった。朴容疑者は「妻が階段から落ちた」と説明したが、転落した際についたとみられる佳菜子さんの額の傷は致命傷ではなく、司法解剖の結果、死因は頸部圧迫(けいぶあっぱく)による窒息死と判明。朴容疑者は「階段で妻が首をつって自殺した」と説明を一変させた。

 説明を変えた理由について、朴容疑者は「妻が自殺だと知ったら、子供が傷つくと思った」と述べた。さらに「妻は子育てに悩み、鬱病で通院していた」「自暴自棄になっていたようだ」と、育児ノイローゼによる自殺をほのめかした。しかし、その後の警視庁の調べで、佳菜子さんに通院歴はなかったことが分かっている。

講談社が誇るヒットメーカー

 朴容疑者は、数々の人気漫画を世に送り出した講談社の敏腕編集者として知られる。京都大法学部を卒業後、平成11年に講談社に入社。週刊マガジン編集部や別冊マガジン編集部を経て、事件2カ月前の昨年6月にモーニング編集部の編集次長になった。順風満帆の仕事ぶりだった。

 その仕事ぶりは、同僚や漫画家から「編集者としてセンスが抜群」「まさに“鬼才”」と高い評価を得ており、「実績をひけらかすことなく、誰からも好かれる面倒見のいい人」と信頼を寄せられるほどだった。

 また家庭では、4人の子供を持つ父として、ツイッターで子供の日々の成長をつづっており、男性編集者にしては珍しく育休制度を活用するなど、周囲からは積極的に育児に参加する“イクメン”だと思われていた。

家庭での姿は…

 「周囲はみな、(朴容疑者を)良い父親だと思っているが、そんなことない。育休を取っても子育てに参加してくれない」

 捜査関係者によると、妻の佳菜子さんは事件前、文京区の子ども家庭支援センターに「夫に子育てをめぐって暴力を振るわれている」と相談していたという。佳菜子さんはさらに「育児と仕事を両立できないなら、仕事を辞めろといわれた」「夫は『女は家庭にいるのが幸せ』だと思っている」などと漏らしていたという。

 捜査1課は、現場に残された血痕や尿反応などから、朴容疑者が1階の寝室で佳菜子さんの首を圧迫して殺害後、事故や自殺に見せかけるため、遺体を階段の上から転落させたとみている。

 逮捕された朴容疑者は容疑を否認。取り調べに対し「あれだけ妻の死について説明したのに、なぜ逮捕されたのか分からない」と話しているという。

 動機はどこにあったのか。真相はどうなのか。捜査1課の取り調べが続いている。