平成29年度税制改正で、自民党税制調査会や財務省主税局の悲願だったビール類の酒税一本化が実現した。ビールを減税する一方、発泡酒や第3のビールを増税する案には、“庶民増税”との反発がつきまとい、選挙前はストップがかかりやすい。だが、財務省はこのタブーが表にでないような絶妙な根回しを仕掛けたことで、官邸や公明党に押し込まれがちだった税制改正で意地を見せた。

 「今年の税制改正で酒税の成案を得ることはできないな」

 昨年10月中旬−。自民税調で最もビール類の酒税一本化にこだわりをみせていた幹部は、記者との面会でこう話した。成案を得るとは、税調独特の言い回しで税制改正大綱に書き込むということ。すなわち、今回の改正で酒税一本化は実現できないと語ったのだ。

 当時はまだ、年明けの衆院解散の風が吹き止まない状況だった。29年度改正の最大の焦点である「配偶者控除」の抜本的な見直し案は、夏の都議選も見据えた官邸や公明党の反発で、9月末に小幅見直しへの軌道修正を余儀なくされたばかり。次なる大玉の酒税一本化も「今年も見送り」というあきらめムードが自民税調内に漂いつつあった。

 だが、そんな逆風の中でも、財務省は諦めていなかった。「あの先生がそんな発言をしたのは正直驚きだが、まだ五分五分だ」。その後、10月下旬には一部メディアが一本化見送りの観測を報道したが、財務省は騒ぐ議員らの元を訪れて、ビール類のゆがんだ税制が市場の健全な成長を阻害していることを丹念に説明し、火消しに回った。

 「選挙があるかどうかも分からないのに、今諦める手はない」。財務省の胸中にあったのは、27、28年度改正と2度にわたってビール類酒税を一本化する方向性を税制改正大綱に明記しており、業界側が既定路線として受け入れていることを肌で感じていたことだ。実際、ビール大手各社は酒税一本化を見据え、減税になるビールの商品力強化に注力し始めていた。

 しかも、水面下で大玉の税制改正を仕切る官邸もとくに何も口出ししていなかった。28年度改正では「参院選前は駄目だ」と迫り、早々に見送りになった経緯があるが、今回に限ってはその時点でやってもいいとも悪いとも言わずにいた。

 とはいえ、当時はできるかどうかは五分五分で、根回し次第でどちらにも転び得る状況だった。財務省が恐れていたのは、ビール類の増減税のピッチや時期などの具体的な案を出したのに調整がつかなくなること。発泡酒と第3のビールの増税を「庶民増税」とメーカーやメディアに厳しく指摘され、官邸や公明党が反発に回るのが最悪のシナリオだった。

 そこで打った一手が、あえてギリギリまで具体案を出さないことだった。財務省が今回、税調やメーカーに具体案を示したのは11月中旬だ。具体案が初めて報道されたのも11月20日。税調の税制改正作業は11月21日に本格的に始まったが、まさにその直前までひと目にさらさなかった。

 本来であれば、大きな税制改正は前もって案を示して国民や業界の理解を得るのが常道だ。だが、酒税一本化は27、28年度の税制改正大綱にすでに方向性を書き込んでいたため、具体案は直前になっても問題ないという判断があった。

 この短期集中の根回しが功を奏した。税制改正作業の開始以降、さまざまな税制改正が動き出す中で酒税のみをもって「庶民増税」との批判はほとんどされなかった。もし、具体案をその1カ月前に示していたら、「メーカーやメディアに1カ月間、不満を言われ続け、どうなっていたか分からない」と財務省幹部は振り返る。

 ビール大手に有無を言わせないための“サプライズ”も演出した。昨年までの議論では、酒税の税額を統一するまでにかける時期は5〜7年というのが業界の相場観だった。だが、今回はさらに緩めて、今後4年程度は手を付けず、32年10月から38年10月にかけて3段階で実施するという足かけ10年程度の実施案を示した。

 ビール大手ではアサヒビールやサッポロビールは減税になるビールの比率が高く、酒税一本化には歓迎だ。だが、第3のビールや発泡酒の比率が高いキリンビールやサントリーには配慮する必要があった。「当初想定より長い移行期間にすることで、これならと納得してもらえるようにした」と財務省幹部は語る。思わぬ好条件に、メーカーも飛びついた。

 税額を見直し始める時期を32年10月からとしたことで、官邸に対し30年9月の総裁選までは、選挙に影響がある増税に手を付けないというアピールにもつなげた。

 自民、公明両党では29年度の税制改正作業が11月21日に始まったが、財務省幹部は「3〜4日でできるという手応えになった」と語る。公明党の税調では一部から「庶民に根付いてきた発泡酒や第3のビールの増税は簡単には受け入れられない」との声も出たが、財務省とメーカーが手を握ったことで「巻き返しは難しかった」(公明党税調幹部)と振り返る。

 財務省で酒税を担当する主税局税制第2課は、消費税も担当しており、一昨年の消費税10%時の軽減税率導入や昨年の消費税増税延期などで煮え湯を飲まされ続けてきた。だが、今回、メーカーと長年攻防を繰り広げてきたビール類の酒税をめぐっては、実質1週間で勝負を決めるなど、巧みな根回しが際立った。(経済本部 万福博之)