《高齢者が高齢者の世話をしなければならない時代に、見本となる女性でした》。5月下旬、和歌山市の1人暮らしの自宅で、高齢女性が亡くなっているのが見つかった。山本民子さん=享年(70)。約10年前、独居の高齢者のためのミニスーパーを開店。経営する花屋の一角に食料品を少量ずつに分けて並べ、遠くへと買い物に行けないお年寄りを支え続けてきた。《これから先、お年寄りは不便なことはもとより、話し相手がいなくなり寂しくなると思います》。その死を惜しむ投書が和歌山支局に届いた。近所の男性からのもので、山本さんが地域のために尽くしてくれたことに感謝する内容だった。(福井亜加梨)

相談役として

 誰にでも分け隔てなく、はきはきとした口ぶりで話す明るい人柄で、年上の80〜90代の女性たちからも「お姉さんみたい」と慕われた山本さん。住んでいた同市福島の周辺は高齢者の多い住宅街で、約30年前から1人で切り盛りしていた花屋は、話を聞いてほしいお年寄りが悩みごとや愚痴を持ち寄る場所になった。

 隣にあったスーパーが閉店した約10年前、「遠いところへ買い物に行けない」と1人暮らしの高齢女性から相談を持ちかけられた。周辺に住む常連客にも足が不自由な高齢者が多かったため、山本さんが花屋の店内で少量ずつに小分けした野菜や果物、豆腐などの食料品を売るように。ほとんど利益にはならなかったが、いつも知り合いの農家などから旬のものを仕入れ、店に並べていた。

 《学校への行き帰りの子供に声をかけ、不審な人がいれば行動に気を付け、店の周りを掃除して、ゴミ置き場の清掃、溝清掃をしている姿もよく見かけました》

 投書にはこうも書かれていた。山本さんの人柄がしのばれるエピソードだ。

突然の訃報

 《亡くなる前日まで店に出て、お年寄り相手に元気づけていました》《頼りにしてくれているお年寄りがいることで店を休まなかったのでしょう》

 突然の訃報は5月下旬にもたらされた。投書や近隣の住民によると、山本さんは2日連続で店を閉めた。珍しいことだったので住民たちは不安に思い、電話しても応答がなかった。その後、警察を通じて、山本さんが家の中で1人で死んでいるのが見つかった。

 山本さんはその頃あまり体調がよくなかったという。「身体の調子が悪いと話していた。あれだけ病院に行くよう勧めたのに…」。近くのたこ焼き店の女性は悔やんだ。

悲しみの声広がる

 山本さんのミニスーパーが閉店し、常連だった近くの90代の女性は現在、別居する息子家族に買い物を頼んでいるという。「山本さんは『ほしいものがあったら電話して。朝に仕入れておくよ』といつも気を配ってくれた。悩みごとも聞いてくれて、お世話になったよ」。女性はこう話し、目を細めた。

 手押し車を押しながら近くを歩いていた70代の女性も「7歳も年下なのにお姉さんみたいな存在だった。いつも元気づけられていたが、もうお店が開くことはないなんて…」と肩を落とした。

 生前に表彰されたり、活動が取り上げられたりすることはなかったが、山本さんの地道な努力は、1人暮らしのお年寄りの生活を支えてきた。通夜には常連客のほか、お菓子をもらうなどしてかわいがられた近所の子供たちの家族、仕入れ先だった農家などが集まったという。

増える買い物弱者

 流通機能や交通網の弱体化で食料品など日常の買い物が困難な状況に置かれている人々は「買い物弱者」と呼ばれ、高齢者を中心に全国で増えており、経済産業省はその数を約700万人と推計。現在は農村や山間部などの過疎地が中心だが、今後は都市部でも増えるとみられている。

 山本さんはそうした買い物弱者の高齢者の生活を支えてきた。投書に《高齢者が高齢者の世話をする時代の見本》とあったように、山本さんの思いやりの気持ちは多くの住民の心を動かし、地域の絆を強くした。