滋賀県高島市の市民団体が行った住民監査請求を巡り、同市監査委員事務局がメンバーの氏名や住所など個人情報を市議らに提供したことが議論を呼んでいる。市民団体は今月中旬、市に損害賠償を求めて大津地裁に提訴した。行政をただす意味合いで活用される住民監査請求。それゆえ、請求者の個人情報保護が不可欠ともされる。住民監査請求ではないが、政務活動費を巡る問題で揺れる富山市議会では、政活費に関し情報公開請求した報道機関名を議会事務局が市議に漏らすなど、自治体にとって「不利」な請求をした市民の個人情報の扱いが各地で問題になっている。県と県内12市の対応をみると、高島市の“特異”な取り扱いが浮かび上がる。

同意得て公表の自治体も

 高島市の問題が起こったのは今年6月。「高島はひとつの会」が、同市新旭庁舎の増改築計画の予算執行差し止めを求めて行った住民監査請求が発端だ。

 訴状によると、請求が受理された翌日、福井正明市長らが参加した市議会の全員協議会で、監査請求書のコピーが配布された。コピーには、請求を申し立てた12人全員分の氏名や住所、職業も記載されていた。

 住民側は請求を行う際、代表者以外の氏名は公表しないよう求めていたが、同市の監査委員事務局は同意を得ることなく、全員が記載された資料を配布したという。

 住民側は、同市個人情報保護条例に違反すると知りながら市がコピーを配布したと主張。精神的損害を受けたなどとして、計144万円の損害賠償を求めた。同会の釆野哲平会長(68)は「個人情報を重視しなければならない立場の方々がおられながら、なぜこういう事態が起きるのか」と憤る。一方、同市は「個人情報保護条例に違反するかどうかを含め、今後調査していく」とする。

 県内で住民監査請求の請求者の個人情報はどう扱われているのか。「答えられない」とした高島市を除く県内12市と県の監査委員事務局に取材した。

 「公開」としたのは甲賀市のみ。監査結果が出た後ならば原則、請求者の同意がなくても氏名などを明らかにしている。一方、県や栗東市、米原市は請求者に意向を確認し、了承を得た場合に氏名などを公表している。

 県の担当者は「請求者の許可なしに公表することはあり得ない」とする一方「どこまで公表するかは自治体の監査委員の判断となる」とし、自治体によって対応はまちまちになっているのが実情だ。

地方自治法か個人情報保護条例か

 背景には、氏名の公開、非公開に関し、明確な基準のないことがあるという。

 住民監査請求について定めた地方自治法242条は、監査結果の公表を義務付けている。ただ、公表の対象は監査結果とその理由のみ。請求者の個人情報に関する定めはない。また、監査結果が出る前については、公表に関する規定はまったくない。

 彦根市は、同市情報公開条例に基づき、請求者の氏名を原則公表しないとしている。同市監査委事務局は「請求者に無断で公表すれば条例違反になりうる。まして、監査結果が出る前に無断で氏名などを明らかにすることはありえない」と断言する。

 一方、請求者の同意がなくても氏名などを公表している甲賀市の監査委事務局は、監査結果の公表を義務付けた地方自治法を根拠にしている。「監査結果」のなかに、請求者の氏名なども含まれるとの考えからだという。

 同事務局は「地方自治法を優先させるか、個人情報保護の条例を優先させるかは自治体によって扱いが違うはず」とする。その一方で「高島市の事例を受け、個人情報の扱い方を法務局などと協議する」と、見直しも含め今後の対応を検討する考えも示している。

 法運用の思わぬ「間隙」をつく格好となった高島の事例。自治体は改めて、個人情報保護のあり方に関する検討を迫られている。

高島の対応に疑問も

 高島市の監査委事務局が請求書のコピーを市議らに配布したのは、請求を受理した翌日。当然、監査結果が出る前だ。地方自治法で定めがない、監査結果が出る前の情報公開も課題になっている。

 甲賀市と大津市の監査委事務局は、監査結果が出る前でも、市長など監査の対象となる当事者にのみ請求者の氏名を伝えている。

 住民監査請求に詳しい九州大学法学研究院の田中孝男准教授は「監査対象者と請求者は、陳述の機会などで対面することが想定される。監査対象者に、請求者の氏名などを明らかにすることは問題ではない」とする。

 ただ、高島市の対応については「最高裁は、本人の意思に基づかず他者に個人情報を開示することを認めていない。高島市の監査委事務局は監査対象者以外に個人情報を渡しており、違法といわれても仕方のない対応。正当化する余地はない」としている。